03 硝子の生命体
あれから
リノウの態度も変わりない。
ただ、
それだけだ。
それだけの時間、それだけの人生。
人生、人生とは何だろうとリノウは考えるが、やがて考えるのは非効率だと導き出され……そしてそれすらも機械的な演算か、人知としての思索か不分明だった。
「……結局のところ、自分が考える葦であるかどうかなんて、誰にも分かりやしないのさ」
それは、
ある
「それどころか――物言う道具かどうかも分からない。気がついたら、そういう扱いになっている」
それが真理さ、とまでは言わなかったが、
リノウが、こういう場合、何か声をかけた方が良いのかどうかと思考していると、
「
軽口めいた警告。
リノウが躰の光加減を調整して、一瞬にして透明となり、無音で歩く。
一歩。
二歩。
「お前もか」
着流しが腰間の太刀の柄を握った。
居合。
伏せる。
「…………」
今までの
調子が狂う。
「……お前、オリジンだな。だから素体のみで戦っている」
おまけに饒舌だ。
今までの奴らは「お前もか」以外は無言だった。
「……おれは、逆だ。素体に入れてもらった」
入れる?
入れるとは何だ?
そのとき、リノウの脳裏で過去のデータが走査される。
Dr.Itsuki、個人認識移行サービス、移行先=機械OR生体、機械:耐久性あり・要メンテ、生体:弱い・メンテ若干要、個人が個人であること、性交による子孫ではなく飽くまでも個人が個人のままで……etc、etc。
「……ッ。こ・れ・は」
「リノウ、何をしている?」
「機械と生体のいいとこどりを。それでいて汎用性を。つまり、硝子……」
「いい加減にしろッ」
それは、リノウが戦っていないことについてではない。
少なくとも、防戦はしている。
つまり、リノウの台詞についてのようだ。
「……謝罪する」
リノウの詫びを受け入れたのか否かは判らなかった。
背後からは、顔を
肉の躰の人間ならば。
「援護しろ、リノウ!」
「了解した」
着流しは避ける。
それは、肉の躰ならありえない角度。
でも、着流しは見た。
さらにありえない角度で迫り来る、伸びる硝子の手。
「ぐ……お……」
からん、と音がして、太刀が落ちた。
着流しの躰が溶け始める。
「直してくれ」
硝子本来の透明感は損なわれ、
その手を伸ばして。
「直してくれ、ドクター」
着流しはそう言った。
確かに、そう言った。
「……不可だ」
リボルバーから銃声。
一発、二発。
三発目で、着流しは砕け散った。
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