第五刃特に忌まれない御烏喰神事④




鬼子母神で待ち構えていた暴力的な短髪ボーイッシュの女性。カラーギャングでこそないが青いジャージをしている。 異名『あの尼の子』、そして、嫌いなタイプの男を目の前にするとすぐに殴りつける事と、古代相撲の強者つわもの天覧試合てんらんじあい、日本の天皇が観戦する武道やスポーツ競技の試合のこと、その昔、平安相撲、更にその前の原初天覧試合げんしょてんらんじあいの時代に日本最強ヤマトタケルと言われた、野見宿禰のみのすくねと同等の戦闘力を誇った素早く、速く蹴る事を異名とした蹴速けはやならぬ『殴速なぐはや』と呼ばれていた。


彼女の全身は日焼けした褐色の肌、ビーチバレーをこの作品の時系列である真夏に毎日時間を注いだためとてつもなく黒くなっている。


とても筋肉質だ、ギリシャ神話のアマゾネスの実在は疑われる、筋肉だけで150kgが女の柔肌に留まり、凝縮するのはあり得ない。ミオスタチン、動物の体内で生成されるタンパク質の一種。 このミオスタチンは、筋肉の成長を抑制する働きを持っており、これによって筋肉は成長の速度を適度に保っている。 このミオスタチンによる筋肉の成長の抑制が、極端に機能しない体質を、ミオスタチン関連筋肉肥大またはミオスタチン欠乏症と呼ぶ。サーベルタイガーは持久力がなく、足が遅かったと考えられている、筋肉に満ちていて巨大だったから、それはシュレディンガーの猫からの奇想にしてはあり得ない。シュレディンガーの雌サーベルタイガー、そう、彼女の殺気は雌のサーベルタイガーに見えてしまう。


異能、『十羅刹女カーリー・マー・チルドレン』、藍婆らんば華歯けし毘藍婆びらんば曲歯きょくし黒歯こくし多髪たほつ無厭足むえんそく持瓔珞じようらく皐諦こうたい奪一切衆生精気だついっさいしゅじょうせいきの称。 それになぞらえた十羅刹を召喚できる。


カーリーは、ヒンドゥー教の女神である。その名は『黒き者』あるいは『時』の意、『時間、黒色』を意味するカーラの女性形。血と殺戮を好む戦いの女神。シヴァの妻の一柱であり、そして異名の当て字の一部分である黒い母カーリー・マーとも呼ばれる。仏典における漢字による音写は迦利、迦哩。


総じて、十一人の鬼女がそこにたむろしていた、境内は閑散としている。どうやら、人を寄せ付けない類いの人払いの結界がこの鬼子母神堂を包んでいるようだった。


それの仕掛人、暗黒堂邪暗は語り始めた。


「滅びの時刻は365日二十四時間いついかなる時でも起こる。意識的に無意識的に杞憂で終わるかもしれないそれは閏秒うるうびょう閏年うるうどしならぬ憂秒うれいびょう憂年うれいとしと言える。それは古今東西の占術、アカシックレコードでも絶対的に占えない。それより前に滅びを食い止めるため「何か」への期待、それを希望的観測を言う、詰め囲碁や詰め将棋にさえ答えは必ずあるのだから」


何かについては怪力乱神を語らずとも言えて、それに対して緋走はこんな事を言い返した。


「ジョン・F・ケネディ大統領は、ピッグス湾事件においてキューバ軍が優勢になった場合、CIAに支援された反乱軍が「各地に溶け込むことで壊滅を免れる」と信じていた。アメリカのキューバに対するアプローチは悪漢的偏執的な愛ピカレスクラブロマンスだ、逆上した恋人の超小型拳銃デリンジャーで撃ち殺されるところまで普遍的テンプレだと思う、チェーホフの銃の正しい使い方だな、アントン・チェーホフ曰く誰も発砲することを考えもしないのであれば、弾を装填したライフルを舞台上に置いてはいけない、まぁ、そういう脚本ならば、それはそれで味わい深い、あとはカードゲームの児戯王じぎおうではカードによる詰めデュエルがあったな、武人族の懲罰部隊武士団ちょうばつぶたいぶしだんがな」


脈絡は皆無に近く、後半のそれだけを言いたいようにも見えて、前半にも何かを暗示させたいようなのがあった感じのする事を言う。


「歴史的な蘊蓄はどうでもいい、お前は仏教の真理すら歪ませる邪法、外法を持つ、はっきり言おう、お前は私の滅相めっそうを狂わせる」


それにそう言い返す彼女の名前は鬼鹿勇真おにじかゆま、彼女は尼の子であるゆえ寺の子にして尼である。仏教の真理が乱れる事は無いが、彼女の宿業しゅくごうはその彼によって変容、変貌する場合がある。


「君に殺されるならば、死んでいいとさえ、思えるね」


緋走は脳味噌どころか魂魄と精神を含め、全身全霊が愛情によって蕩けるような甘い言葉がいけしゃあしゃあと吐き出された。


「プッ、今だけはお前の不死があるという事を念頭に置かないことにしよう」


暗黒院邪暗はその冗談を一笑した。


「笑えない冗談だよ」


鬼鹿勇真は侮蔑を吐き捨て、 しかし、それでも、なお、そのパンチはこう言われる。


殴速なぐはや


緋走の右拳と鬼鹿勇真のがぶつかり合う。


顔と顔にはお互い当たらない。


もう一度、殴り返すと開かれた鉄扇に当たる。それを緋走はサーカスの曲芸師がサーベルを喉に入れるように飲み込んだ。


飲みこんだ後、鉄製金属バットがこれまたサーカスの曲芸師の奇術の続きのように出た。


「俺の異能は主に風起こしスサノオ、そんなの俺の付属品、醍醐味や真髄ではない、俺の能力は血液操作、そして血中成分の鉄分から鉄の武器を作り出す武骨演舞ヴェルンドというのだから」


振り回す、バキリッと音を立てて壊れる。


不良チンピラの武器は砂糖菓子よりもろいよ」


彼女により、武器は殴り、壊された。


「ならば、これだ」


右ブロー、彼女の視線は砕け散る金属バットの残骸を追ってしまった、次の瞬間、鬼が振るうとされる刺々しい鉄の棒、金砕棒かなさいぼうが手から不自然に生えていた。


「口からじゃなくてもいいんだぜ?」


彼の血液を上塗りする肉体全部、全身が暗器を隠す収納庫ケースだった。


武器庫とも当然のように言い換えられる。


「正真正銘、5tトンの重さだぜ?」


それもまた、とてつもなく獰猛に振り回される。


超残虐粉砕ファールバウティブレイク


「そこまでにしておけ」


緋走の必殺技の決め台詞は暗黒院邪暗の黒い足袋で止められた、爪先蹴りで止められた。


興醒めしたのか、緋走は帰ろうとする。


ムゾや死んだかの生まれ稲刈りが吾ぬや愛しい人はあの世の田んぼへ生った稲を刈りに奥山に霧に又なりが私は奥山に霧になるために入っていく、じゃあな」


サカ歌、逆歌は奄美群島に伝わる呪詛を込めた歌、即ち呪詞である。


それに呪術を熟知した暗黒院邪暗は条件反射的に反歌というのをしてしまった。


だまが歌うたいや歌やりばきくしがお前の歌う歌がまともな歌ならば聴いてやるが鶏ぬ卵なてがしむるいちゃまし鶏の卵で言えば腐った無精卵のようなものだ‥‥‥いや、待て、どこの奥山に霧になって入っていく?まだ、他に行くとこあるだろ?」


十羅刹女カーリー・マー・チルドレンがいた、高まり、極まった防衛本能から顕現して、その攻撃を無慈悲に食い止められただろうが、その前に鬼鹿勇真は失禁、失神していた。無理もない。


そんな彼女をどこぞの寺の者に介抱を頼み、二人はまた、違う場所へと歩き始めていった。刃傷沙汰の熱気は違う熱気に変わる。


本来、人間は凶行するよりそれが好まれる。


次の行き先はつまり、ラブホテルだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る