隣に住む幼馴染みがパンツを履けない呪いにかかってしまったので、俺が代わりに彼女のパンツになりました。

せんと

1枚目【履けなくなっちゃった!?】

「――どうしよう......私の下半身、ブラックホールに繋がっちゃったみたい!?」


 夜。

 数年ぶりにベランダから俺の部屋にやってきた幼馴染は、頭がどうかしていた。


 彼女、『白石渚しらいしなぎさ』は隣に住む高校二年生で、学校もクラスも一緒の同級生でもある。

 その渚が小学生の時以来、こうして自分の部屋のベランダを飛び越えてやってきたと思えばコレだ。

 きっと連日の酷暑のせいで頭がおかしくなったのだろう。


「ハァ!? ウソじゃないわよ! 証拠見せてあげるから、その眠そうな目ん玉見開いて見てなさい!」


 細目は親譲りのものだから放っておけ。

 俺とテーブルを挟んで対の位置に座っていた渚は、勢いよくその場を立ち上がると、流れそのままに突然自身のスウェットの下を脱いだ。


 安心してください。

 幸い上に羽織っていたカーディガンがビッグサイズだったこともあって、大事な部分は見事に上手いこと隠れている。


 渚は俺に背を向け、どこからか取り出した黒地に白の水玉パンツを履く仕草をしたのだが――履き終わった瞬間、そのパンツは瞬間移動でもしたかのように影も形も無く消え去った。


「ほら! さっきからずっとこれなのよ......私、気味が悪くて」


 怯えた視線で見つめる渚をよそに、俺は全てのアングルから確認すべく渚の周囲をゆっくり回って目視してみたが、見えるのは綺麗な肌色のみ。


 最後に正面――うん、中学までサッカーをやっていただけあって、スタイルは未だ崩れてはいないな――おや? こんなところに一本妙に長い毛が......。


「きゃん!!!??? 何すんのよ!!!」


 小型犬の鳴き声みたいな声を上げたと思えば、俺の左視界から渚のひざにブン! と顔面目掛けて襲い掛かられ、反動で部屋の隅まで吹き飛んだ。

 ――フ、いいもん持ってるじゃねぇか、さすがは元サッカー美少女......ガクッ!


***


 数分間の気絶から目を覚ましたあと、そうなってしまった理由に何か心当たりがないか、まだ顔が少し赤い渚に問いてみた。


「......そういえば、願い事をするとかなりの高確率でそれが叶うっていう、最近女子の間で有名になっている神社にはお参りに行ったんだけど、いくらなんでもそれは関係ないわ

よね」


 冷たいお茶を飲みながら何気なく語った渚の言葉に、俺は寒気をおぼえた。


 ――なるほど、女子には”それのみが”伝わってしまっているのか。


 渚がお参りしたという神社の存在を俺は知っているし、なんだったらその効果も既に経験済みでもある。

 結局は伝えなければ渚を終わりの見えない絶望に取り残したままになるので、俺は神妙な顔で真実を口にした。


「......ウソでしょ? 私、一ヶ月近くも24時間どこでもノー〇ンで過ごさなきゃいけないの!?」

 

 あくまでそれは俺が”呪い”を解かれるのにかかった時間であり、人によって若干の違い

はあるかもしれないとも補足しよう。

 狼狽ろうばいする渚に『別に今夏場なんだからパンツくらい履かなくてもいいんじゃない?』とフォローを入れてみたが。


「ぶん殴るぞ」


 ですよねー。

 一切の慈悲もない殺意の眼差しを向けられて思わず冷や汗が出てしまった。


「家にいる時ならまだしも、学校ではスカートの中にジャージ履けないし、ていうか水着はパンツとしてカウントされないわよね!? あ~! どうしてこんなことになってしまったの~!」


 瞳を潤ませ半泣き状態で渚は全身をぷるぷると震わせているが、残念ながらこればかりは受け入れるしかない、と経験者は語る。

 願いを叶えるための試練だと思って諦めた方がいい、そう慰めてやったんだが。


「いいこと思いついたわ......うん、これは対象者にも責任があるんだから、私一人が苦しむなんてバカげてるじゃない......だってそうでしょ......」


 俺の話なんかこれっぽちも聞いちゃい渚は、一人闇落ちモードに入って何かぶつぶつと呟いていた。

 幼馴染の感として、渚がこの状態に入っている時はろくなことがない。


 危険を察知して自分の部屋から避難しようと立ち上がろうとする俺を、渚は貞子のように這いつくばってテーブル越しに肩を掴んできた。

 冷茶がこぼれるのも気にせずに。


「......ねぇ、どこいくの?」


 狂気を帯びた瞳で俺に迫った渚は、薄桃色の唇から邪悪で不吉な声音をあげて命令する。


「あんた――今から私のパンツになりなさい」

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