隠居したサムライ 3
指導中の竹中の下へ戻ると門下生たちが道場の床に倒れていた。
「ったく。これじゃあ、ウォームアップにも足りない」
「戻りました~。もしかしてこれジェットがやったの?」
「あぁ、簡単だったさ」
木刀と拳。このリーチの差はあまりにも広すぎる。腕を突き出そうが蹴りを出そうが木刀はその間合いの外から攻撃が可能となる。
基本的には格闘が木刀に勝ることはほぼないが、木刀の間合いの外ではなく内側へ入ることでジェットは門下生たちを次々と倒したのだ。
「四季、私とやってみるか」
「いいね!」
早速四季はジェットの前にたち木刀を構えた。以前とは違う純粋な力比べ。余計なことを考えなくていいからこそ全力が出せる。
天真爛漫な少女から戦う瞳へと変化させた四季を見て、ジェットは体に緊張が伝わってるのを感じた。
倒れている門下生たちは巻き込まれないように端へと移動し四季の太刀筋から何かを得られるかもしれないと、真剣な眼差しで始まるのを待った。
「合図はいるか?」
「いらないよ。真剣勝負だからね」
「そういうと思った。いつでも来いよ」
じりじりとお互いに間合いを詰め、ジェットは踏み込めば、四季は半歩前に出れば当てられる距離となる。
どちらが先に出るか、道場を支配する緊張感は尋常ではない。門下生たちは呼吸さえも忘れそうになっていた。
二人はほぼ同時に踏み込みついに交わろうとした瞬間、突如四季の表情がいつものように戻り立ち止まった。
「あ、こんなことしてる場合じゃなかった」
あまりにも急に切り替わるものだからジェットは力み床を滑るように転んだ。
「んだよこんな時に!!」
「私、河上さんから言われたことがあるの」
「私との勝負を差し置いてやらなきゃいけないことってなんだ」
「この町のトラブルを解決してこい。そうしたら教えてやるって。だからジェットもいくよ!」
四季はジェットの手を強引に引っ張り外にでようとした。
「なんで私まで行くんだよ」
「なんとなく!」
「はぁ……。まぁいいや。さっさと済ませるぞ」
「うん!」
嵐のように現れ過ぎ去った二人を見て門下生たちは唖然としたままだ。
「師範、あの子たちいったい何なんですか。好き放題やっていきましたけど」
「新世代さ。君らと同じだが、目的へあまりにも純粋に愚直に進む。あの行動力、みんなも見習うといい」
サムライとしては自身の限界を感じていた竹中だが、新世代の者たちに対し少しでも力になりたいと、強い気持ちが芽生えていた。
道場を飛び出した二人だったがあてがあるはずもなく、ただただ広い町を歩いていた。すると、四季にとって信じられないほど大きい建物があることに気づく。
「えっ、あんなのずっとあった?」
「ん? あー、城か。ちょうど竹中んとことは逆方向だから気づかなかったんだろ。てか、かなり西のデザインに寄ってんな」
「もっと瓦とか堀があるイメージだったよ」
東戸の城は本来ジパングらしく和の雰囲気をもったものだったが、これもまた開国の影響で改築された。
「地王、いや東戸はどうやら和を取り除きたいって考えてる節があるな」
「そんなことしてどうすんの?」
「さぁな。でも、何かを変える時ってのはそれが便利か都合が悪い時だ。サムライの件もある。もしかしたら、地王か、または誰かにとってサムライが都合悪いのかもな」
すると、近くの繁華街で騒動が発生していた。男たちがお互いに何かを言い合い、片方は刀を、もう片方は銃を取り出していた。
四季たちは角から顔出しその様子を眺めた。
「ねぇねぇ、あれってトラブルだよね」
「そうだけど、その河上ってやつが言ってたのはこんなちんけなことでいいのか? ただの喧嘩だろ」
「明確な答えなんてわかんないし、教えてくれないだろうからなんでもやるに限るよ」
喧嘩に介入するにしても何が原因かは一切わからない。それを探る前にどちらかが動き出しそうな雰囲気が嫌でも伝わる。
「いよいよやべーかもな」
「私そろそろ行ってくるよ」
「さっさと終わらせてこいよ」
四季が向かった瞬間、発砲音が響き渡る。だが、四季はまだ数歩歩いたところ。
「――街中で喧嘩するには、ちょいと物騒すぎるんじゃあないかい?」
スーツの男が撃った銃弾は地面にめりこんでいた。男たちの間にわって入ってきた色白で杏色の髪を一つ結びにした袴姿の青年が、男の手を抑え下へと向けていた。
「若いの。大人の間に割って入ってきてなんのつもりだ」
「別に。ただ、こんなとこで暴れられちゃ困るって話だ。俺はそこでゆっくり茶でも飲みたいのにこんなとこで、カンカンキンキンバンバンと音を鳴らされちゃあたまったもんじゃない」
「袴姿……。お前も向こうの仲間か。こいつを捕まえろ」
銃をもったスーツの男たちが 青年を取り囲む。しかし、ものの一瞬で全員を地面へねじふせた。武器をもたずにだ。
「こちとら遥々京から隠居したサムライを捕まえに来たんだ。面倒ごとに巻きないでくれ」
「お、お前の顔どこかで見たことがある。それに京からと言ったな。……お前もしかして、
「正解」
沖田と呼ばれた青年は無邪気な笑顔で答えた。
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