隠居したサムライ 1

 竹中剣術道場の師範、竹中半十郎は四季が求める強さを持っていなかった。だが、それを悲観せず自分と対等に渡り合えるサムライと出会えたことに四季は喜んでいた。

 

 刀を抜いたことに対してのお詫びとして竹中は家に招待し四季とジェットに食事をごちそうすることにした。


「君はその小さな体にどうやってそれだけの食事を詰めているんだ……」

「まだまだ食べれますよっ!」

「こいつ、小さな村育ちでなんでも食べたい時期なのさ」

「裕福ではなかった反動か。太らなきゃいいけど」

「うっ……」


 太るという発言に一瞬止まってしまう四季だったが、食欲には勝てずまた食べ始めた。


「こいつなら大丈夫だ。常人よりも何倍も動くからな」

「そのようだ」


 食事を終えて四季は気になっていたことを問いかけた。


「さっきなんで木刀から刀になってたんですか?」

「これはそういう木刀なんだ。木刀は仮の形。全力で戦わないため、相手を殺さないため。もちろん君に対してそれを解放したのは全力で戦うためだ。殺意は微塵もない」

「それは動機だ。四季が聞きたいのはそれの方法だろ」

「わかってる。――世の中には職人と達人がいる。職人は作り、達人は実践する」


 職人はただ作り直す者たちとは違う。そこに秘められた技術により刀はより硬く鋭く、建物は強固に、食べ物はより美味しくなる。

 達人はただの使用者とは違う。刀を持てば百人斬りを達成し、槍を持てばどんな間合いでも刺し、弓を持てばどんなに離れていても射る。


「職人により作られたことで、木刀はただの練習道具から自身への枷となり、本来の力を隠し、いざという時に殺す道具へと変わることができる」

「職人さんに頼めばいいんですね」

「そうは言ってもいまや刀を作る職人も減少している」

「サムライが減っているからですか?」

「そうだ。どうやら幕府はサムライと言う存在を消したいらしい」

「ったく。国がサムライを消すか。その理由はなんだ。周りの国は魔法を使える。それに対抗できるのはこの国じゃサムライとどこかにいるかもしれないシノビくらいだ」

「何かを隠してる。僕にはまだわからない」


 竹中はサムライの衰退を阻止するべくこうやって道場を開いているが、自身の弱さに対し嫌気がさしていた。

 そんじょそこらのサムライに負けることはまずないがそれでも誰かの前に立ち、引っ張るほどの力も強い精神もない。

 だが、四季の姿を見て一筋の希望をが見えはじめた。


「僕は君を成長させられるほど強くはない。でも、あの人なら」

「その人は強いんですか」

「強いさ。達人を超えるほどにね。四大人斬りの一人――河上かわかみ幻斉げんさいだ」


 現在は東戸の近くにある森で暮らしているサムライはかつて人斬りと呼ばれていた。危険な存在ではあるが、竹中はいまの四季を圧倒できるサムライはこの地域でその人しかいないと確信している。


「場所を教えてください。いまから行ってきます!」


 本来、四季は強くなるためにこれと言った時間の制限はない。しかし、あることを思いだし、すぐにでも河上に会いたかった。

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