師を求めて 2

 東戸に到着した二人だったが、あまりにも広い駅で早速四季は迷子になっていた。


「う~ん、困ったなぁ。ジェットどっか行っちゃったよ」


 とか言っているが実のところ四季がいろんなものに目を奪われ勝手にはぐれたのである。


 東戸は国の開国後に様々な国から多様な文化を取り入れているためか、四季の知るような木製の住宅や着物を着た人間はそう多くない。

 スーツやロングスカートなど人の服装も多岐にわたる。


 横海では刀をもっている人間は少なくなかったがここ東戸ではほとんどの人が刀をもたない。腰に装備しているのは銃がほとんどだ。


「お嬢ちゃんどうしたの。迷子かな」


 声をかけたのは駅員だ。きょろきょろと周りを見回していた四季を見て咄嗟に迷子と判断したのだろう。その上四季は浴衣姿に木刀。東戸の人にしては珍しい姿だ。


「う~~ん。どっちが迷子なんだろう」

「お母さんとはぐれたのかい?」

「友達かな」

「お友達ね。駅構内に呼びかけるから名前を教えてくれるかな」


 ジェットの名を伝え駅員室へ向かうとマイクを使用し駅全体へと呼びかけた。全体に声を届けられることに四季は大きく驚いた。

 ほどなくしてジェットがやってくるといきなり四季の頭を小突く。


「あんたうろちょろしすぎだ」

「だって、見たことないものがいっぱいなんだもん」

「ったく。悪いね、迷惑掛けてしまって」

「いえ、仕事ですから」

「ついでと言ってはなんだけど竹中剣術道場って知ってるか。こいつが行こうとしてる場所なんだが地図を見てもさっぱりわからなくて」

 

 駅員室から小さい地図を取り出し赤ペンでしるしをつけてジェットに渡すと、なぜ剣術道場へいくのか問いかけた。


「私、強いサムライになりたいんですっ! でも、教えてくれる人がいなくて。だから、強い人のところに行けばいろいろ教えてくれるかなって」

「サムライが減りつつある時代に健気だね」

「あの、ずっと気になってたんですけど。どうしてサムライって減っているんですか」

「まぁ、単純に刀よりも便利で使いやすい武器が量産され始めたのもあるけど、東戸、というよりこのジパングのトップである地王じおう様が刀じゃなくて銃やその他の輸入武器を買うときに割引してくれるって言うし、それを修理する人たちにもお金を配っててね」


 地王はまさしくこの国の王であり国を管理する者。多くの人々は地王の存在を知っていたが、四季だけぽかーんとした表情で聞いていた。


「あんた、もしかしてこの国に住んでるのに知らないのか?」

「だって森の奥の村だったし……」

「外から来た私でも知ってるぞ。ジパングは国を統治する地王と有事の最終決定権などを決める天帝てんていのツートップがいるって」

「また知らない言葉使ったな~!」

「常識だろうが」


 駅員にお礼を伝え竹中剣術道場に向かう途中も四季は周りの建物の大きさに驚いていた。すでにジパングらしさを表す和の雰囲気はあまりなく、どの建物も暴風程度ではびくともしないようなしっかりとした建築が施されている。

 横海と比べるとまるで別の国のようなこの町に四季が慣れるまでは少し時間がかかりそうだ。


 そうこうしていると住宅の多い場所になり、そこに古風な建物があった。竹中剣術道場だ。開いている門をくぐり道場の扉を叩くと袴姿の青年がでてきた。


「お宅らなに? 門下生ならいま募集してないけど」

「えっ、そうなんですか」


 すると、四季たちの後ろから声がする。木刀を腰に据えた男性だ。


「こんなとこで何をしているんだ?」

「竹中師範、この子が門下生になりたいそうで」

「あ、いやまだ決めたわけじゃないんですけど。この手紙を見てください」


 四季はビートから手紙を竹中へと渡した。


「ほう、君はビートと面識があるのか」

「私のことを助けてくれたんです。それで、強くなりたいって話をしたらここを教えてくれて」

「そうか。ちなみにさっきまだ決めたわけじゃないと言っていたがどういうことかな」

「竹中さんが私の求める強い人なら剣術を指南してほしいなって」


 すると、門下生である青年は怒りを露にしていたが、竹中は四季の発言に端麗な容姿に似合わず大きく笑った。


「これでもこの地域ではトップの剣術道場だというのにそこまで言うとはな。いいだろう。君の実力を見せてもらおうか」

「おまかせください!」


 偶然にも四季にピッタリあう稽古着があった。それを身に付けると異様な間隔包まれる。ほかの門下生の稽古着は練習の影響でクタクタになっているのに四季が身に付けている稽古着はまるで未使用のようだった。


 稽古場へ入ると門下生たちは四季の姿を見て警戒するような視線を送る。その異様な雰囲気に、壁にもたれかかっているジェットも気づいていたがさほど気にしてはいなかった。それは四季も同様だ。

 竹中は先程の姿のまま四季の前に立った。


「やはり背丈は変わらないようだな」

「この服、なんでこんなに綺麗なんですか? これも門下生のですよね」

「あまり話したくはないんだが。……そうだ、私よりも先にまずは門下生数人とやってもらおうか」


 その言葉を聞きジェットは立ち上がって不満の意を示す。


「四季の体力を削ってから倒そうとしてんだろ」

「そう思うか? だったら出ていってもいいんだが」

「んだと!」

「ジェット、気にすることないよ。私強いから」


 笑顔で言う四季の姿は周りのことを一切気にせず自分の力に確固たる自身がある様子だ。それを見たジェットは納得し再びにかべにもたれかかった。


「私はいつでもいいですよ。何なら数人同時に相手しても構いませんけどね」


 四季の瞳が天真爛漫な少女の瞳から、純粋なサムライの瞳へと変貌をしたのに気づいたのはジェットと竹中だけだった。


「やはり似ている。あの少女に……」

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