目指すは東戸

 四季は宿屋で目を覚ました。お怜に起こされることなく自然と目が覚め、食事を取るとすぐに外へと出ていく。

 

「四季はどこへ行くんだ?」

「私も聞いていませんが検討はつきます」

「そうか、なら問題ない」


 四季が向かった先は病院だった。まだ面会時間ではなかったが壁をよじ登り部屋の窓を叩く。ほどなくして窓が開き、だるそうな声で四季の名を呼ぶ。


「四季、あんたなんで壁から来てんだよ」

「まだ面会時間じゃなかったから」

「いや、だったら待てよ!」

「寂しくしてないかなと思って」

「するわけないだろ! ったく……。ほら、とっとと入れ」


 四季は病室入るとそこは個室だった。涼真の計らいだ。四季はよじ登る際に背中に担いでいた木刀を壁に立て掛け椅子に座るとジェットの姿を眺めた。


「痛そうだね」

「心配してんだろうけどなんだかバカにされてるようにも聞こえるな」


 ジェットは闘気を利用し常人よりも回復力を高めていたがまだ脚には痛みがあった。松葉杖はあるのだがジェットは頑なに使おうとしない。

 

「これ使った方が便利じゃない?」


 四季は松葉杖を木刀のように振っていた。


「使い方がちげぇよ!」

「意外とずっしりしてるね。修行になるかも」

「はぁ、あんたといると疲れるよ。で、なにしに来たんだ?」

「私、東戸にいくんだ」

「師匠になる人を探すんだってな」

「うん。でさ、ジェットも一緒に来ない?」


 まったく予想してなかったことだった。勘違いとはいえ四季をいきなり襲ったというのに、四季はそんなことをまったく感じさせない。


「私は敵だぞ」

「私にとっては敵じゃないし、もうジェットからしても違うでしょ」

「……行く理由がない」

「涼真が言ってた。東戸はいま刀がどんどん縮小傾向にあるって。でもね、そのかわりに体術の道場が栄え始めたらしいの。ジェットもきっといい経験になるよ」


 四季は怪物との戦いを通して経験の重要さを強く実感した。そして、経験を積むために一人だけでは到達できない境地があると。


「なんで私なんだ」

「ジェットの本気の姿を見て思ったの。一緒にならもっと強くなれるって」

「あんたが強くなるためについてこいってか? ……いや、今のは意地悪かったか。四季のことだからきっと私のことも考えてのことなんでしょ」


 四季は頷いた。

 怪物との戦いでジェットは奥の手を使い挑んだ。結果は実力の差を痛感させられ圧倒的な力の前に倒れた。だが、ジェットの瞳から闘志の炎は消えていない。

 そんなジェットとなら、共に高みへいけると四季は確信したのだ。


「あんたには恩がある。それに私自身もあんたのことが気になってた。怪物を斬ったあんたは確実に私より強い。強いやつのそばでそいつを越える。私の好きなことさ」

「じゃあ、東戸でも一緒に強いやつ倒しちゃおっか」

「あんたの師匠に相応しいやつかどうか、私が見てやるよ」

「言ったな~! サムライはそう簡単にやられないもんねっ」

「一度私に負けてるくせに」

「あ、あれは違うって!」


 笑い声が病室にこだました。

 その時、二人の声に気づいた看護士が力強く扉を開ける。


「ジェットさん! 誰と話し……ってあれ。誰もいない」


 病室には転がる松葉杖と開いた窓から吹き抜ける爽やかな風。

 

「いってぇ……。さすがに病み上がりでこれはきつい」


 咄嗟に木刀をつかみ四季を抱えて三階から飛び降りたために、脚には想像していたよりも強い痛みが走りその場にしゃがみこんでいた。


「すごーい! もっかいやって!」

「できるかっ!! ……改めてよろしく頼むよ」


 ジェットは立ち上がり手を伸ばした。


「私はジェット。出会い方はあまりよくなかったけどあんたの強さと純粋な精神見た。一緒に強くなろう」

「うん!」


 四季は怪物を倒したあと、その生々しい殺しの感覚に戸惑っていた。でも、ジェットを助けられたことが強く心に残り、かつて後悔した思いに一端の決着をつけられたような気がしたのだ。

 これからが始まりで師を探しもっと強くなる。それは村での後悔をもうしないようにという気持ちももちろんあったが、それ以上に自分が戦うことで救える命があるのだとわかったから。

 がむしゃらな修行から信念をもって強くなることを決意した。


「そういやその木刀どうしたんだ? あんたのは涼真に壊されたろ」

「涼真さんがくれたんだ」

「ふ~ん。でも、前のやつにも思い出あったんじゃないのか」

「あったけどもういいの。私はこれからもっと強くなる。あの木刀じゃもうだめなんだ。私も一皮むけたって感じかな」

「そうかい。なら、行くとしますか」


 東戸へ向かう線路は職人の手により奇跡的な早さで復旧しすでに運行が再開していた。二人は涼真のもとへ向かい共に東戸へ行くことを伝えた。

 二人とも四季たちの見送りで駅まで来てくれると、お怜は桜がらの包みを窓越しに渡した。


「これなんですか?」

「おにぎりとちょっとしたおかずを入れておいたの。二人ともよく食べるから足りないかもだけど小腹を満たす程度にはなると思うから」

「おいしいですっ!」

「あんたもう食ってんのかよ!」

「だってお腹空いたんだもん」


 小さく笑うお怜ににぎやかな二人を見て涼真は山から昇る朝日のような期待と希望をそこに見た。


「四季、ジェット。これから二人は強くなるという目標に向かって進む。だが忘れるな。強くなるというのはあくまで手段だ。その先に何を見るかで強さは正義にも狂気にもなる。それでも、楽な道と棘の道があるのなら迷わず棘の道に進め。人は苦難を経験し乗り越えた時に大きく成長できる」


 四季とジェットはお互い見てその意味を理解する。死ぬかもしれないという経験が二人を肉体的にも精神的にも成長させた。実際に体験したからこそ涼真の言葉が着飾ったものでないことがわかる。


「また会いに来ますね。次はもっと強くなってますから」

「次は私とも一戦頼むよ」

 

 そうして列車は東戸に向かって出発した。

 

 

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