今よりも前へ 2
闘気を解放したジェットならば、より硬質になった怪物相手でも戦える。四季はいまの自分がこの場でどれだけ頼りない存在かを理解しながらもジェットの強さを信じた。
しかし、蓋を開けてみれは現実はあまりにも非情なもの。
力を抑えず全力で怪物の体へと拳を当てると、ジェットの拳からは血が吹き出した。激痛で顔を歪ませるがジェットはさらに拳で打つ。殴る度に血が溢れ自らの血飛沫を浴びる。
「殴り合いで勝てるわきゃねぇだろうが!!」
怪物が再びジェットを狙うと、次は怪物の拳に亀裂が入る。
「拳がダメなら足がある!」
亀裂が入ったことに対し怪物が一瞬だけ怯んだ。その隙を逃さずジェットは蹴りの連打で一気に畳み掛けた。
複数箇所に亀裂を入れることに成功し、蹴りならば倒せると確信したジェットはさらに大技へと繋げるために強烈な蹴りを繰り出した。
だが、この時のジェットは言うならばハイになっていた。ようやく見つけた勝利の糸口。そこへ突き進むことしか考えられなかった。
未知なる存在との戦いにおいて、それは死に直結する可能性があると理解しながら。
希望が絶望へと変わるのに時間はそういらなかった。
ジェットは無心で蹴りを続けた。いや、無心といえば聞こえはいいが現実ら一心不乱というほうが正しい。
そんな中、ジェットの耳には雑音が聞こえる。ずっと同じ音が聞こえる。まるで耳なりのように。
「うるさぁぁぁい!!!」
「――ジェット!!!」
目の前に鉄の拳が迫る。直後、体に何かが激突し間一髪のところで鉄の拳を回避した。地面に体が打ち付けられ何が起きたかもわからず体を起こすと、四季がジェットに被さっていた。
「四季……私は何を……」
「死ぬつもりのなの! あんなのにやられたら師匠の腕を斬った人も見つけられなくなっちゃうじゃん!」
ずっと聞こえていた音は四季の声だった。離れて見ていたからこそ四季はジェットの異変に気づくことができた。制御できないと言っていたのは力だけじゃない。戦いにおいて意識的か無意識的か、思考さえも制御できないと言うことだったのだ。
「まだ体は動く。私は戦える。闘気を使えば肉体の回復ぐらい早められる」
「だったら、それまで私が戦う」
「戦うだと? 武器もないのにどうするんだ」
「当たらないってのは誰だって嫌でしょ。そうなれば判断が鈍って動きも悪くなる。そうなればジェットの打撃が当たるチャンスになるから」
武器もなしに怪物の前に行くなど常人ならできるはずもない。自殺行為である。だが、今の四季には強い思いと数日の経験がある。獣を倒し、組の支部を倒し、松田組の人間と戦い、ジェットと戦い、店を救い、圧倒的な強者の壁を痛感した。
初めて怪物と会った時とは確実に違う。恐怖をない、負けるつもりもない、今の四季はジェットに最高の状態で交代するためにただ避けることだけに集中する。
四季の動きは怪物をの速さを凌駕し軽々と避けていくが決して余裕なわけではない。全力を出したジェットでさえもあの状態なのだから、四季が直撃を食らえばほぼ命はない。
予想通り徐々に動きが乱雑になり始めた。しかし、ここからが問題である。流す攻撃、避ける攻撃を見極めつつ今まで動いてきたが、すべてが避けるべき攻撃となるとそれだけ体力を消耗する。
そして、それは四季の弱点にも繋がることだった。
四季は修行を続け身軽な動きや常人を圧倒する体力、木刀使いを体得してきたが極度の緊張状態を維持し続けることに慣れていない。
獣は経験上倒したことがあり、柳との戦いでは実力の差を理解していた。
目の前の怪物は格上であり一歩間違えれば死が待っている。それを目の前にして常に死を回避し続けるのは並大抵の精神力では維持できない。
一瞬の油断が命運をわける。
不覚にも四季は体力の消耗か精神のすり減りからか涼真との一戦と同様に着地を疎かにした。
四季自身わかっていた。今の着地が甘かったことに。怪物が気づかなければよかったが、現実は非情にも起きてほしくない現実ばかりが発生する。
怪物は鉄の拳を全力で四季へと向けた。
(だめだ、避けられない……)
その時、硬質な音が響く。
「二人が命懸けで作った時間のおかげで間に合った。さぁ、ここからはどうするかな」
怪物の攻撃を鞘に納まったままの刀で防いだのは涼真だった。
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