剣客と拳客のメイド 1
涼真は用事があると言いあとのことを二人に任せた。店を出て四季は黄海の町並みを眺めながら人の多さに驚きつつ何をしようか考えていた。
「ねぇ、ジェット。なんかいい仕事ない?」
「私に聞くなよ! 私は敵だぞ」
「ジェットにとってはそうかもしれないけど私にとっては敵じゃないよ」
「私からすれば敵だっていってんだろ!」
「私は敵と思ってないよ」
「だーかーらー! ……ったく、あんたといると調子が狂うよ」
港での賞金がうやむやになってしまい東戸まで行く列車代とできれば宿代も手に入れたい四季であったが、十三歳の少女が即日採用されるような場所はそうそうない。
その上四季は畑仕事の経験はあるがそれ以外は剣術のみでこれと言った強みもなし。
本人が思っておる以上に金を稼ぐの難しい。
「ねぇねぇ、ジェットも探してよ」
「こいっつ……。はぁ、とりあえず茶屋でも探したらどうだ。物運ぶくらいなら誰でもできんだろ」
「あったまいいね! そうするよ」
「褒めてんだろうけどなんだかイラっとすんな」
開国後に他国の文化が多く入ってきたこの国では現在元々の古風な建物と西洋的なお洒落建物が混合している。
四季は両開きの扉を力強く開け「たのもー!」と呼び掛ける。そこにはいわゆるメイドの装いを着た物たちが料理を運んでおり、四季の声でみな一斉に振り向いた。
「おいおいなんだか場違いなとこに来ちまってねぇか?」
「そうかな。可愛い人がいっぱいいるよ」
浴衣とメイド服を組み合わせたような装いに四季は目を輝かせている。
奥からスーツを着た筋肉質な男が出てくると四季に顔を近づけ言った。
「あらぁ~可愛い子ねぇ~」
見た目とのギャップの激しさにジェットは呆気にとられる。
「あなたお名前は?」
「四季です!」
「元気ねぇ。アタシの名前はミス・クイーン。この
「私、お金が必要なんです。ここで働かせてください!」
「そうねぇ~」
クイーンは四季とジェットをしばらく眺めると手を打った。
「二人とも働いてくれるならいいわ」
「はぁ!? 私は働かねぇぞ! そんなフリフリした服なんて着れるわけがねぇ」
「ジェットお願いだよ! 私とジェットの仲でしょ」
「敵っつってんだろうがっ!」
「いいでこぼこコンビね。むしろこっちからお願いするわ。ほら、こっちで着替えなさい」
「やったぁー!」
「おま、やめろっ! なんだこの馬鹿力、全然離れねぇ!」
力自慢のジェット以上の怪力を誇るクイーンに連れていかれ二人は着替えさせられた。
「二人とも似合ってるわよ」
四季は桜柄のメイド服、ジェットは稲妻のような黄色のメイド服へ着替えた。
小柄な四季はメイドと言うよりおてんば娘のような雰囲気があるがクイーンはこれにご満悦。
ジェットは髪をかき嫌そうな表情をうかべるが可愛い服とサバサバとした雰囲気の融合が妙にマッチしていた。
「やることはそんなに難しくないわ。お手拭きとメニューと水を渡して、注文を聞いて出来上がったらもっていく。それだけよ」
「それだったら私でもできそうです!」
「なんであたしまで……」
「ちなみにこのお店ではお客さんが気に入ったメイドさんにスタンプを押してくれるの。その腰にぶらさげてる手帳にね。これの数で月毎に優秀賞を決めて賞を勝ち取った子はお店ができる範囲でお願いを聞いてあげるの」
「勝負と言うことですね! なら負けませんよ!」
四季は勝負事に対してはとことん本気でやる性格だがまだ気づいていない。今日が月末であることに。
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