剣客と拳客のメイド 2

「いらっしゃいませー!!!」


 ハツラツとした声が店内に響く。

 入店した客はあまりにも元気な四季の声に驚くが悪い気はしていなかった。


「ささっ、こちらへどうぞー」


 客が席に着くと四季はじーっとそれを見つめた。


「な、なに?」

「ご注文をお願いしますっ」

「いや、メニューもらってないよ」

「あ、そっか。これです!」

「ありがとう」 

「ご注文をどうぞ!」

「早いって!! まだページめくってないよ」

「確かに」


 ペラペラとページをめくる客を四季はじーっと見つめる。


「あ、あの」

「決まりましたか!」

「見られてると決めづらいんだけだ」

「確かにー。決まったら大きな声で呼んでくださいね!」

「大きな声じゃないとだめなのか……」

「あっ、水持ってきますね!」


 勢いはあるが順序がぐちゃぐちゃであったが大きな粗相してないためクイーンは一旦観察を続けた。

 一方、ジェットはというと。


「メニューはこれだ。とっとと決めて」

「なんだろう。メイドなのに高圧的……。でも、なんだか悪くないかも!」


 雑な接客だったが以外にも好評でありクイーンは新たなメイドのスタイルを模索する。

 

 二人は自分のやり方で接客をしていきそれが自然体でありつつほかのメイドとの雰囲気の違いが大きく表れると同時に新人ブーストが乗っかって四季はスタンプ三つ、ジェットは二つ獲得していた。


「いまのところ私が勝ってるね」

「負けないからな!」


 二人とも負けず嫌いなところがあり競争心に火がつく。それは回りのメイドたちへと共鳴しいつも以上に店は活気づいた。

 そこへ、一人の女性がやってきた。


「いらっしゃいませー!!」

「席につきな!」

「――いきなりなにかと思えば新人ちゃんかしら?」


 やってきたのは紫色の長い髪をなびかせる美女。


「あら、媛花ちゃん。今日はもう来ないかと思ったわ」

「なんだか胸騒ぎがしてね。一応スタンプ稼いどこうかと」

「クイーンさん、この人知ってる人ですか?」

「このお店のトップランカー弥生やよい媛花ひめかちゃんよ。スタンプは今月で三百。このまま行けば彼女が今月の優秀賞ね」

「さ、三百……」

「私らの百倍以上……」


 媛花が着替えると場の空気が一変する。たかが仕事されど仕事。媛花自身の行動に絶対的な自身を持ち極めていた。

 今まで四季やジェット、その他のメイドに注文していて客たちは一斉に媛花を呼ぶようになっていった。


「こ、これはまずいかも」

「あんなのやられたらどれだけ声かけても無駄になっちゃうでしょ」

「あら、あなたたちの力ってそんなもの? 得意分野じゃないからって格上が出た瞬間諦めるわけ」


 クイーンのその言葉は二人に深く刺さる。なまじ強いからこそ得意分野において二人も自信はあった。だが、どこかで微かに思っていたこと。知らない分野なら負けても仕方ないと。


「負けていい何て思った人には負け癖がつく。そうなったらいろいろ理屈こねて負けることが悔しくなくなるのよ。一度勝つと決めたからには玉砕覚悟で挑みなさい。アタシはあなたたちが媛花を越えるのを見てみたいわ」


 知らないから、不得意だから、まだ初心者だから、差が大きすぎるから。負ける理由なんていくらでも作り出すことができる。

 ほんの少しだけ勢いを落としかけた二人の心に再び山火事のような火が燃える上がる。


「クイーンさん、私が勝っちゃっても恨まないでくださいね!」

「勝つのは私。あんたは私の下だ!」

「「絶対に私が勝つ!!!」」


 四季とジェットは同じことを同時に思いつきクイーンへと頼んだ。それはビラ配りで客寄せをする作戦だった。

 現状はただ待っているだけであり客の人数も限られてしまう。客が増えれば増えるど自分達が対応する確率が上がると判断した。


「面白いわね。いいわ、言ってきなさい。ほかのメイドちゃんたち、何人か今日は裏方に回って調理と食材の調達をお願い。きっと忙しくなるわ」


 客が増えれば増えるほど在庫は減り一回に調理するメニューも増える。メイドたちの多くが裏方に回り四季たちが戻ってくるのに備えた。

 しかし、そこへ白いスーツを着た横柄な男がやってくる。客を無理矢理どかし座るとテーブルへと足をのせた。


「おい、ささっとめメニュー持ってこい!」

 

 メイドたちが怖がる中、媛花はいつも通り近づき接客をする。


「お水とこちらがメニューでございます」

「へぇ~、噂通り可愛い女がいるじゃねぇか」


 そういうと男はマッチでタバコに火をつけた。


「お客様、店内は禁煙となっていますので」

「うるせぇな。俺はこの辺を牛耳ってる須藤組の人間だ。店を潰されたくなけりゃおとなしくしてな」


 この男の名は黄海の三大組織の一つ須藤組。クイーンも周りの店が荒らされている話を聞いていたがまさかここに来るとは思っていなかった。組の人間は酒と食事を好きなだけして帰る。酒を提供していない浪漫道には無縁な話のはずだったのだ。


「そうか、四季ちゃんたちが外でビラ配りしてるから普段よりも目立ってしまったのだわ」


 何とかして帰ってもらいたいクイーンであったが、逆らえば店そのものが潰されかねない。


「おい女、こっちへ来い」

「どうされましたか?」

「ここに座れや」


 男は媛花に隣に座るように言った。


「ここはそう言ったお店ではないので」

「いいから来いよ!」

「や、やめてください!」


 咄嗟のことだった。強引に引っ張ってくるから媛花は咄嗟に手に持っていたおぼんを振り男の頭を叩いてしまった。

 男は怒り露にし媛花の頬を拳で殴る。


「調子乗ってると店潰すぞ!」


 一足遅かったのは理解していた。だが、これ以上は何があってもスタッフたちに傷をつけさせないためクイーンが立ちはだかる。


「お客様、うちのメイドがご無礼を働いたのは申し訳ございません。しかし、店に店のルールがあります。それを守ってもらえなければ純粋な接客はできませんよ」

「ここら一体を管理してやってんのにちょっとくらいサービスしろや」

「管理? 力で支配して物を言えないようにしているだけでしょう。もし、あんたらに力なんてなければ誰も従うわけがない!」

「だったらここで力見せてやるよ。そしたらなんでもやってくれるよな!!」


 クイーンも決してただ図体がでかいだけではない。こういったお店を営む上で変な客が来ることを想定し鍛えている。

 だが、純粋な筋肉トレーニングだけであり戦いの基礎はまだ体に染み付くほど体得できていない。

 クイーンは防御こそするが男に半ば一方的に攻撃をされた。

 

 

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