拳客 3

 ジェットの凄まじい勢いのパンチが当たる直前、四季は自然と足を後ろへと運んでしまった。後ろに海があるとわかっているのにかかわらず。

 それは四季が今まで自由すぎる修行をしすぎていたからだった。足場の悪い場所でも確実に移動できる場所を見つけ避けることのできる四季は、いわゆる背水の陣の戦い方を体が体得できていない。

 狭さや足場の不安定さではないこれ以上は逃げられないというこの状況に対応ができなかった。


(まずい。このままじゃ落ちちゃう……!)


 四季は押すも引くもできなかった。


「ここいらで終いだ」

「なっ!? 私のライトニングバレットを素手で!」


 二人の間へと涼真が割って入り、左手で四季をつかんで右手でジェットの攻撃を受け止めた。

 

「ジェットとか言ったな。君の話、もう少し詳しく聞かせてもらおうか。場所を移してな」


 不貞腐れるジェットと事実上の敗北を経験した四季の二人をつれ食事処へとやってきたが空気は最悪。

 しかも、涼真はなぜか二人を隣同士に座らせた。


「好きなもん頼め。俺の奢りだ」

「だったら遠慮なく、と言いたいとこだけどあんたいったい何考えてんのさ」

「強いて言うなら何も考えてない。単純に君の話が気になっただけだ。俺は四季とこの二日行動しているが持っているのは木刀のみ。刀を持つ姿も隠してるそぶりもない。君の話は通らないんだよ」

「師匠は女の子どもに腕を斬られたと言っていた。そんなやつ二人といない。こいつに間違いない!」


 ジェットはジパングの開国後武器商人をしている両親と共にアメーリア大陸からやってきた。右も左もわからない中、偶然にも同じくアメーリア大陸から自身の腕を試すためにやってきたアリスターと出会う。


「師匠はファイタージョブをもちあらゆる格闘術を使うことができる。私のようなものにも親身になって教えてくれた」

「向こうの大陸ではハンターだったわけだな」 

「涼真さん、ハンターってなに?」

「ハンターってのはギルドって言う場所から依頼を受けて、それをこなすことでお金を稼ぐ人たちのことだ。討伐、捕獲、採取、護衛と依頼内容はいろいろある」


 ジパングでいうところの獣狩りがハンターに近い存在だが、違いとしてはハンターは依頼と報酬を前提とし獣狩りは自身の生活のために自らが見つける。

 

「でだ! こいつが犯人じゃない証拠はないんでしょ!」

「それって逆に四季が犯人である証拠もないだろ」

「そ、それはそうだけど」

「わはしひゃってないもん!」


 力強く言う四季であったが口いっぱいに天ぷらを詰め込んでいた。


「口の中のもんなくなってから言え! ったく、私に負けた癖にもう気にしてないのか。悔しくないの?」


 四季は食べ物を飲み込んでからまっすぐとジェットの瞳をみて言った。


「悔しいよ。だから次は勝つ」

「言ってくれんじゃん。あんたの悪行を暴くついでにまた返り討ちにしてあげる」


 四季は初めて人に敗北した。言い訳などは一切せずそれを認めている、あっけらかんとしているように見えてその表情はいつもよりも神妙な雰囲気を帯びる。

 だがらこそ、もう一度悔しい思いをしないように勝ちたいのだ。


「よし、俺からいい提案をしてやろう。ジェット、今日一日四季と行動を共にしろ」

「はぁ!? こいつは私にとって倒すべき相手であり恨む相手だなんだ。なんでそんなやつと一緒に行動しなくちゃならないんだ」

「四季は東戸に行くために金を稼がなきゃならん。今日一日の四季の姿をみて本当に君の師匠の腕を切り落とすような存在か見極めてみろ」


 ジェットは四季の方をみてみると再び口いっぱいにご飯を詰めていた。

 師匠の言っていた話ではもっと殺伐としている人間だったことを思いだし、だんだん目の前の四季が話に出てくる少女とは違うように思えた来たが、それを確かめるため行動を共にすることにした。


「いつまでも綺麗な面で隠し通せると思うなよ」

「ひゃくしてひゃいよ」

「だから口の中身食べてから言え!!」

「面白くなってきたじゃないか」




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