拳客 2

 松田組という存在は横海にとって厄介なものだ。組という存在が様々な地域で発生し治安維持を名目に好き勝手やる。その始まりは西側の町で最初の組が立ち上がり活躍した影響だ。

 それぞれの組で掲げる目標は違うが、強いものが弱いものを支配する構図を国が直接対処せず、警察と組の激突なども珍しくはない。

 そんな厄介者の一味である源だったが、四季と戦う姿はどこか清々しく組というしがらみなどから解放された一人の男性として見える。


「おじさん強いね」

「ガキ……いや、お前も中々やる。なぜそれほどの力をその幼さでもっているんだ」

「憧れを追いかけてるからだよ」

「憧れか。懐かしい響きだ」


 二人は何度も何度もお互いの攻撃避けては果敢に攻める。本気で楽しみながら戦う二人の姿は源に対し敵意を向けたものでさえも激しい攻防に夢中にさせた。


「なんで組に入ってるの?」

「そうすることでしか生きられないからだ」

「組のことが好きなの?」

「そう単純な話じゃない」

「ふ~ん。そっか。まぁ、何があってもこの戦いは譲らないけどねっ」

「その大口だけは叩き直してやる。大人としてな」


 その時、銃の音が鳴り響いた。港にいた人たちが一斉に音のなる方へ振り向くそこには紺色の制服に身を包む警察が三人たっていた。


「舞蔵警察だ。そこにいる源原を確保する。速やかに道を開けろ」

 

 怪訝な表情を浮かべつつ周囲の人々は道を開けた。ちょうど源と四季がいる場所へ一本の道が出来上がり警察たちはゆっくりと歩き源の前て止まった。


「松田組の人間がこんなとこで油を売ってるとはな」

「警察こそ何のようだ。こちとらただ力比べをしていただけなんだが」

「お前には逮捕状が出ている。大人しく来てもらおうか」

「なに……?」


 組の人間が捕まるというのは決して珍しいことではないが、源の反応を見た涼真はきな臭さを感じていた。

 抵抗しつつも源は手錠をかけられ連行された。何が何だかわからないと言った風だがそれは周囲の人々も同じだった。


 せっかく互角に戦える相手と出会えたのに決着がつかず残念がる四季の前に少女が空から現れた。

 拳を地面に打ち付け着地し立ち上がると、力強く指を指し言った。


「アンタが師匠の腕を斬った犯人だな! これ以上は逃がさないよ!」


 少女はジパングのものではない衣類を着ていた。革で出来た黒いジャケットにデニム生地のショートパンツ、褐色の肌が露となっており靴はブーツを着用している。少し長めのツンツンとした向日葵色の髪が揺れた。


「私あなたのこと知らないよ?」

「私のことは知らなくても私の師匠のことは知っているはずだ! 名はアリスター、最強のファイターだ」

「いや、そんな人知らないって。ついこの前村を出たのにそんなことする暇ないよ」

「そんなはずはない。例え木刀でも実力は隠しきれまい。さっきの戦い、普通の女子どもの動きではあり得ない。アリスター師匠の一番弟子であるこのジェットがお前の悪行を止める!」


 ジェットと名乗る少女はいきなり四季に襲いかかった。四季よりも頭一つ分以上大きく、その上身のこなしは源なみ。この少女もまた只者ではなかった。

 素早いパンチの連打に圧倒されるがほどなくして対応しはじめる。


「四季の強みは観察力と対応力か。だが、あの少女相手にどこまで通用するかな」


 涼真は二人の戦いを傍観した。四季の動きを見たいという好奇心と突如現れたジェットの動きが常人を凌駕していることから、十代の卓越した少女の行方が気になって仕方なかったのだ。


 ジェットの隙のない動きは源と比べ速さにおいては劣り力任せな部分が見受けられる。そんな程度の動きなら四季は対応できる四季なのだが、どこか戦いづらそうな表情を浮かべていた。


「さっきの男と戦ってた時みたいにもっと攻めてきな!」

「言ったなっ!」

 

 木刀を全力で振るい反撃に出るがジェットは鼻先のギリギリで回避して見せる。すると、四季が体制を戻す前に右の拳によるパンチを繰り出す。


「うっ……」

 

 直撃かに思えたが四季は体を後方へとそらしつつ振るった勢いを利用し後ろへと軽く下がった。

 激しい攻防だったはずなのに気づけば四季は防戦一方でじわじわと後ろへと追い詰められていた。背後に海がありこれ以上逃げられない。

 だが、ジェットはこの局面で技を疲労する。


「ライトニングバレット!!」


 右の拳が稲妻のように光ると今までとは比べ物にならないスピードでパンチを繰り出す。

 攻撃が来るのはわかっているのに四季はこれに反応できずただ攻撃が当たる様ををみることしかできなかった。

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