謎多き男、坂本涼真 2
宿に到着し涼真の計らいで宿代も部屋も用意してもらった。西の大陸で使われるような西洋風オブジェに驚きつつも四季はベッドへと飛び込む。
「ふかふかだ~!」
今まで古風な畳の部屋で過ごしていた四季にとってこの部屋は全てが新鮮だった。
仰向けになりベッドの心地よさを楽しんでいると、徐々に心がざわめく感覚を覚える。
「……おじいちゃん。助けられなくてごめんね」
村を怪物に襲われてから四季の生活は激動のものだった。大型の獣と戦い、町を傍若無人な組の支部から救い、列車では山賊との戦い、列車で長時間の移動。
ようやく安心して過ごせる場所に到着したことで四季の中で思い出さないように止めていた記憶が濁流のように現れた。
部屋の明かりを消して四季は泣いた。
裕福でも恵まれてもいなかったが、なんの見返りもなしに支えてくれた人たちや育ててくれた人たちに対し、恩返しもできず守れなかった事実を忘れないと誓う。
もう二度と目の前であんな悲惨な出来事を起こさせないように、次は絶対に自分が守り通すと胸に秘め、その日は眠りについた。
四季は夢を見た。村で過ごしていた頃の夢だ。四季は育ての親のような存在である
朝、木の実を取りに行っていた四季は突如戻ってくると家の戸を全力で開けて言った。
「おじいちゃん!!」
「お前は朝から騒々しいな。いったいどうしたんだ」
「サムライがいたの!!」
「なに?」
森で木の実を探していると、微かに人の声が聞こえた。音を頼りにどんどん奥へと進んでいくと、そこには勇ましく男らしい風貌をした二刀流のサムライと、女性のように美しく細い体に、物干し竿のように長い刀をもったサムライが向かい合っていた。
こんなところに人が来るのはめずらしく、それがサムライならばなおさらこんなとこには用がない。それで慌てて四季は戻ってきたのだ。
三郎を連れて影から見ていると、三郎は言った。
「あれは武蔵と小次郎か」
「おじいちゃんの知り合い?」
「……いや、有名なサムライだ」
すると、二人は何かを話していたが四季たちには聞こえなかった。
二人は刀を抜き、じわじわと間合いを詰めると刀をぶつけ合い激しい戦いを見せた。森で足場も悪いというのにそんな素振りをまったく見せず、飛び回るでも走り回るでもなく、一定の範囲から出ずに戦う。
「喧嘩してるの?」
「さぁな。でも、殺しあいじゃない」
「ねぇ、私もあんな風にカッコよく刀を振るえるかな」
「……興味があるのか」
「うん。なんであの二人が戦ってるかわかんないけど、なんだか綺麗でカッコいい。私もあんな風になりたい」
「――理想と信念をもて。その上で何が出来るかと模索し努力をすれば、お前は立派なサムライになれる」
それから四季はサムライを目指すことにした。あの二人のサムライは戦い終えるとどこかへと去っていった。
なぜあの場所で戦っていたのかは不明なままだが、四季にとってそれは大した問題ではない。偶然あそこにいてくれたからサムライに憧れることができた。そこに複雑な理屈など必要なかった。
誰かの声がし四季は目覚めた。
「四季ちゃん」
「……誰ですか?」
着物姿の女性がベッドの縁に腰掛け四季の方を見ていた。
「お
「涼真さんはどこに?」
「少し用があって出掛けてるわ。朝になったら起こしてほしいって頼まれてたの。朝ごはん食べるでしょ」
「食べます。食べますけどもうちょっとだけ……」
四季はまだ寝ぼけておりそのまま抱きついてまた寝てしまった。
「あらあら。だったらもう少しだけね」
十分後、完全に目が覚めた四季はいきなり知らない人に抱きついてしまったことに恥ずかしさを感じ、食事中もお怜のことをまっすぐと見れなかった。
「気にしなくていいのよ」
「で、でも子どもみたいなことしちゃったから」
「ふふっ、私は嬉しかったわ。きっと子どもはもう作れないから」
「それってどういう――」
すると、宿屋の食堂に涼真が戻ってきた。
「四季、腕試ししてみないか」
「腕試し?」
「あぁ、海岸沿いの広場で武器をもった奴らが集まって力自慢してるんだ。勝ったら賞金がもらえる」
「面白そうですね。お金なくなっちゃいましたしここいらで稼がないと」
「そういうと思ってすでにサインしてきた。飯くったら行くぞ!」
「はいっ!」
黄海はサムライや船乗りや各地から力に自信のあるものたちが集まる。月に二回開かれる大会に四季も参加することになった。
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