謎多き男、坂本涼真 1

 涼真と名乗る人物は隣の客車へと四季を招き自身が座っていた席の対面に座らせた。


「君の名前は?」

「四季ですっ」

「まだ子どもなのによくあれだけの男たちを相手にできたな」

「私よりは弱いってわかってましたから」

「だが、あの環境ではまともに戦えんだろう」

「それは相手も同じです。それに狭い場所なら集団の強みはいかせませんから、むしろ山賊たちの方が大変だったと思いますよ」


 あまりにも平然と答えるものだから、涼真は目の前の少女が本当に子どもなのかと思い問いかけるが、本人は十三歳だと言った。

 密かに途中から戦いを見ていたため四季が実力者であることはわかっているが、見た目と話し方の幼さが先の光景をまるで夢だったかのように現実味を消していく。


 一連の騒動が終わり車掌が四季の下へとやってきた。


「お客様……」

「あ、もしかして拘束勝手に解いちゃったの怒ってます?」

「いえ、そのことはもう大丈夫です。お客様がいなければこの列車は山賊に支配されていたことでしょう。無賃乗車に関してなかったことにしておきます」

「いいんですか!? やったぁ!! 内心捕まっちゃうのかぁ~ってビクビクしてたよ。車掌さん、ありがとうございます!」

「こちらこそありがとうございます。今はこれくらいしかできませんが、いずれちゃんとお礼をしますので」

「気にしないでください。私はやれることをしただけですから。その結果牢屋を免れたんですからお釣りが来るくらいですよ」


 二人のやり取りを見ていた涼真は四季の天真爛漫で純真無垢な姿が着飾ったものではなく純粋なものだと理解した。


「君はどこへ行くんだ?」

「最初は黄海に言ってそこから列車に乗る予定だったんですけど、乗れちゃいましたから次の目的地は東戸です」

「東戸なんかに何のようだ」

「竹中剣術道場ってところで修行をさせてもらうんです。私、ずっと一人で修行してきたので誰かの教えを吸収してもっと強くなりたいんですよ」

「確かに東戸なら竹中のとこが一番でかいし強いが入るのは至難の技だぞ」


 竹中剣術道場は東戸一の道場で門下生も多い。しかし、昨今のサムライに対しての国からの圧が強まり、竹中剣術道場はいざとなれば対抗できるように猛者だけを揃えている。


「サムライってもう少ないんですか?」

「少なくなってはいるな。新しくなろうとする人がいないんだ。刀よりも槍の方が楽だし、それよりも銃の方が携帯性も優れてるからな」

「じゃあ、目立てばまたサムライになる人が増えるかもしれませんね!」

「君はどこまでもポジティブだな。そういうとこ嫌いじゃない」

「自分が憧れたもののためにすべてを尽くしたいだけですよ。あわよくば誰かの憧れになりたいんです」


 涼真は四季の強さが不思議で仕方なかったが、まっすぐに憧れに進む純粋で愚直な精神が今の四季の実力に繋がっているのだと理解した。


 列車は森を抜け海岸沿いを走る。四季は初めて見る海に目を輝かせ眺めた。


「すごーーい!! これが海か~」

「海を見るのは初めてか?」

「はいっ。村のおじいちゃんから話は聞いていましたが本物は初めてです」

「そういえば、君の両親はどうしてるんだ?」

「私は捨て子なんですよ。小さな村のおじいちゃんおばあちゃんたちが私を拾って育ててくれました。親代わりのおじいちゃんはいましたけどね」


 年端も行かない少女だというのに年相応の遊びをせずにサムライのための修行ばかり行い、周りには老人。

 物事への経験の少なさが少し危うく見えた。


「海って綺麗ですね~、この先には何があるんだろう」

「この海の向こうにはアメーリア大陸がある。ジパングの何十倍も広い場所だ」

「村を出たばかりの私じゃあ想像することもできません。でも、いつか行ってみたいです」

「死ななきゃいつか行けるさ」


 列車はしばらく進むと海岸沿いの町で止まった。


「あれ、止まっちゃいましたよ」

「一度燃料を補給するんだ」


 黄海を含む舞蔵むさしの隣である駿瓦するが史水しみずという町で停車し、燃料補給を終わらせると再び列車は走り出した。すでに夕方で空は橙色に染まり徐々に夜と夕方の境界線がおぼろげになっていく。

 

 いつのまにか寝ていた四季は列車の停車音で目覚めた。体にはスーツのジャケットがかけられており涼真の姿がない。


「……涼真さん?」


 周囲を見回すと貨物室から涼真が出てきた。


「起きたか。黄海についたぞ。今日はここで終わりだ」

「私寝ちゃいました。これありがとうございます」

「気にするな。それより今日の宿は決まってるのか」

「まったくそんなこと考えてなかったです」

「仕方ないな。俺と一緒に来い。空き部屋がまだあったはずだから」

「いいんですか!? ありがとうございます!」

 

 こうして四季は涼真の泊まる宿に向かった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る