目指すは横海 3

 先程までよりも速く進む列車の中は立つだけでも姿勢を制御するのが忙しい。その中でいまから戦いをしようしているのだから、乗客は動くこともできずこの状況を見守ることしかできなかった。


「慈悲はねぇよ。ぶっ殺せッ!!」


 列車の中は長い武器では戦いづらい。一般的に殺傷能力が高い刀や槍といった武器は、この状況においてその真価を半分も引き出せない。

 しかし、四季は違った。

 森での修行はいりくんだ地形の連続。振るえば他の木に当たることも珍しくはない。そんな環境で修行を積んできた四季にとって、多少足場が悪いことや狭いことは対した問題ではなかった。


「ほらほら、こっちだよ~」

「ちょこまかと動きやがって!」


 男が飛びかかると軽々と避け尻を蹴って窓の外へと放り出した。


「ぎぇあぁぁぁーー!!!」


 それからも次々と襲いかかる男たちを躊躇せず外へと飛ばし、粗方放り出すと前後を銃をもった男に挟まれた。


「さっきまでは仲間に当たるから不用意に撃てなかったが、幸か不幸かいまなら当てられるぜ」

「確かにそうだけどさ。私が通路に立ってる限り撃てないよ」

「何言ってやがんだ。むしろその方が狙いやす……」


 男の一人はあることに気づいてしまって引き金にかけていた指を外した。しかし、対角線上にいたもう一人の男は引き金に指をかけいまにも撃ちそうな状態である。


「まて! いま撃てばお互いに当たっちまう!」


 この一瞬、撃つのを躊躇したこの一瞬こそが四季にとっての最大のチャンスだった。さすがの四季でもほとんど避ける場所がない状態で銃弾を避けるのは難しい。

 だが、わずかな時間さえ稼げれば四季にとっては十分だったのだ。

 

「隙あり!」


 瞬時に二人を倒し残るは団長のみだった。


「や、やるじゃねぇか。でもな、こっちには刀があるのを忘れてねぇだろうな!」


 刀を振るといともたやくす列車の座席を切断。その切れ味には四季も驚きを隠せなかった。

 他の武器と比べ刀は切断することにおいてはトップの力を誇るが、素人が振った程度では上物の刀だろうと本来の力は発揮されない。

 だというのに、たかだか山賊の団長が強引に振っただけでまるで達人のように斬ってしまったのだ。


「これはちょっとヤバイかもね……」


 これだけの狭い場所で、相手が長物を持つ中、間合いを詰めて一撃で仕留めるのは至難の技。


 動きをしっかりと観察しつつ隙を伺うが、山賊はゲリラ戦術で戦っているとはいえ戦闘経験のある団長は大きな隙を見せはしなかった。

 柳のように慢心するわけではなく生きるために徹底的に隙を減らした動きは玄人レベルではないにしても、この列車の中では猛威を振るう。


 このままでは埒が明かないと判断した四季は攻撃から避けることに集中した。


「どうした! そんなんじゃ俺は倒せないぜ!」


 何度もギリギリで攻撃を避けながら四季は待っていた。チャンスがやってくるのを。

 そして、ついに機が熟す。

 攻撃を避けてついに反撃の一撃を浴びせた。


「ようやくやる気になったか。だが、いつまで避け続けられるかな」

「もうあなたの刀は怖くないよ」

「なに? ……ま、まさか、お前はこの状況を待っていたのか!」


 車両を見渡すとそこにはボロボロになった椅子とその残骸が転がっていた。異常なまでの切れ味を誇る刀は、周りの障害物をすべて切り裂いていく。しかし、それと同時に四季にとって動きの妨げとなっていた障害物を壊す手伝いをしていたのだ。


「戦いってのはその場にあるすべてを利用するんだよ。こんなものでもね!」


 残骸を木刀で勢いよく飛ばし団長の体へと刺さっていく。致命傷にはならないが動きを鈍らせるのには十分な威力。

 そのまま一気に接近し手首を叩くと、痛みで刀を離した。団長を貨物車両側へと飛ばし客を背にして構えた。


「これで終わりだよ。大人しく列車から降りるんならこれ以上攻撃はしない」

「まるで自分が優勢に立ったような言い草だな。これを見ろ!」


 団長が取り出したのはなにかを遠隔で操作するボタンだった。


「ボタンで戦うの?」

「ちげーよッ!! 爆弾のスイッチだ!!」


 乗客はその言葉に動揺したが四季だけはよくわからない表情浮かべ乗客へと訪ねた。


「ねぇ、爆弾って何?」

「あれを押したら列車がドカーンって壊れちゃうの!」

「……えぇーーーー!!! それまずい! どどどどうしよう!」


 戦いにおいては滅法強い四季だったが未知なるものに対して耐性がまったくなく、乗客の誰よりも慌て始めた。


「わかったら大人しく俺にすべてを渡せ! じゃなきゃこのボタンを――」


 その時、隣の客車の扉のガラスが割れ銃弾が飛んだ。四季の顔をすれすれで避けそのまま男の手へと当たるとボタンは床に落ちた。

 四季はこの隙を見逃さなかった。慌てた姿から一変し即座に木刀を構え団長の頭を木刀で叩く。

 

「これでなんとかなったね」


 団長は気絶し力なく床に突っ伏した。

 

 すると、隣の客室から銃をもった男がゆったりやってきて、軽い雰囲気の口調で四季へ言った。。


「そっちは終わったかい? お嬢ちゃん」


 その男の見た目はボサボサとした黒い髪に黒いスーツ、正装というには着こなしかたがややカジュアルな印象を与える。


「助けてくれてありがとうございます! あの、あなたの名前は?」

「涼真、坂本さかもと涼真りょうまだ。よろしくどうぞ」

 

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