弱肉強食を斬る 3

 四季が町へ向かうと村の人たちが待っていた。


「おはようございますっ!」


 昨夜にあんなことがあったというのにまったく気にしていない様子に町長は戸惑いつつ、挨拶を返し続けた。


「君の強さはよく理解した。それに、このままでは行けないと全員が考えている。町の子どもたちの未来のために力を貸してほしい」

「はいっ、任せてください!」


 四季はすぐに返事した。まったく迷いのない返事に町の人たちは安堵すると同時に、少女に対し重荷を背負わせてしまったことへの罪悪感を覚えた。

 松田組の情報すべてを四季に教える。


「じゃあ、みなさんが関わっているのは松田組のトップじゃなくて散らばっている支部なんですね」

「そうだ。だから、例え君が倒してもいずれはその事がバレる。だが、上納金に関しては月に一回本部にもっていくようだからしばらくの間は本部に情報は伝わらないはず」

「支部を倒してなるべく早めに本部を倒せばいいわけですね。腕がなりますよ~」


 松田組支部の下へどうやって行くかを考える四季だったがこれはすぐに解決する。幸運にもこの日は松田組の人間が上納金を受け取りに来る日だった。

 四季は積み荷に紛れ目的地に向かうことになる。

 

 昼になると松田組支部の馬車がやってきた。


「どうもどうも。町長さん、今月もお願いしますぜ」

「えぇ、たくさん用意してます。すぐに町の者に運ばせます」

「その木箱はなんだ?」

「この前狩った獣をいれております。血抜きはしてますが臭いがきついので向こうにつくまでは開けないほうがいいかと」


 松田組の人間はその木箱をじーっと睨むと銃をとりだし向けた。


「あ、あの何をするんですか?」

「なんだか怪しいな。一発撃ってやる」

「そ、それは!」

「なんだぁ? 獣はすでに死んでるんだろ。なにも慌てることはない。ちょっとした用心だ」


 一切の躊躇もなく銃の引き金を引いた。

 硝煙がゆらゆらと散り静寂が流れる。

 

「血は出てこねぇな。いいだろう。俺とお前らの仲だ。疑ってしまったことには謝罪してやる。だが、次からは臭いを消して見えるように木箱にいれろ」

「は、はい……」


 野菜、米、お金、木箱を積み終わり、町長は四季の木刀を気づかれないように馬車においた。馬車は走り出すと木箱からひょこっと顔を出した四季は町の人たちに手を振った。


「よ、よかった……。あの子なら本当にやってくれるかもしれない」


 笑顔で手を振っていた四季だったが内心はかなり焦っていたのは誰も知らないままだった。


 窮屈な木箱の中で揺られること三十分。馬車が止まり複数の男の声と積み荷を下ろす音が聞こえると、四季は勢いよく木箱から飛び出した。


「な、なんだこいつ!」

「木箱の中に入っていたのか!?」

「お、俺は撃って確かめたはずだぞ!」


 木箱から飛び出し宙に浮いているわずかな時間で人数を把握すると、着地と同時に木刀を手に取り三人の男を瞬時に倒した。

 男たちの服装を見ると袴や浴衣ではなくスーツを着ており胸にはバッジをつけている。


「これが松田組のアジトか。おっきいなぁー」


 まるで見たことのない建物にの驚きつつも四季は平然と中へ入っていった。屋敷の中は畳ではなく絨毯が敷かれており、不思議な踏み心地を楽しみながら屋敷ないを進んだ。


 松田組支部柳家の家長柳やなぎ宗次そうじは大広間の奥にある自室で柳家の二番手である戸賀とが解空かいくうと茶を飲んでいた。

 柳は褐色の肌に目元には傷があり手練れであることがわかる。戸賀は色白であるが細くもしっかりした筋肉をもっており、戦うには申し分のないスタイルだ。


「本家からの連絡はどうなっている」

「黄海でさらに島を広げ現在は東郷組と須藤組との抗争の準備入っていると聞いています 」

「本家はやることが違うねぇ~。支部も応援に行くんだろ?」

「黄海にある吉田家、名蔵家、蓬田家。黄海の両隣の町の武藤家と杉家が参加する予定で我々の出番はないかと」

「ほぼ総力ということか。まぁ、それだけの戦力なら勝ちはほぼ決まりだろう。俺らは傍観して遠くから祭りを眺めておくか」


 カチカチと音を鳴らす左手で湯呑みを持ち茶を一口飲もうとすると、誰かが暴れているのか屋敷内部から騒々しい音が聞こえる。


「ったく。あいつ荷運びになに手間取ってんだ」


 二番手の戸賀が様子を見に扉を開けようとした瞬間、扉は勢いを開かれた。


「たのもー!」

「なんだお前」

「近くの町からやってきた。上納金の徴収を止めに来たよ」

「ガキ一人で俺らを止めるってのか。松田組の恐ろしさを知らねぇわけだ。子どもにだって容赦ねぇぞ」

「知らないから何言われたって怖くないよ。それに、おっさんの部下なら全員倒したし」


 扉の向こうにはまるで団子のようにつまれた部下たちが気絶していた。


「いってて……。お前なにしやがんだ!」


 扉と壁に挟まれた戸賀は激昂し銃を抜くと四季へ向け、まったく躊躇をせず引き金を引いた。だが、弾丸はあらぬ方向へと飛んでいく。

 引き金を引く瞬間。四季は木刀を振るい銃にわずかに当て狙いをずらしていた。


「こ、こいつ!」

「戸賀まて」

「で、でも!」

「こいつの話をもう少し聞こうじゃないか。なぜ町からの徴収を止めろと?」

「あなたたちは特に何にもしてないのに町からお金をとってる。しかも、町同士の関係を悪化させた。そんなことしていい権利があるわけないよ」

「得た力を使い住みやすいように周りを変えていく。ジパングという島国はいつだって力あるものがすべてを変えてきた。戦国時代よりも前からだ。権利とかの話じゃない。この国はそういうものなんだ」

「戦国時代はそんな負の時代じゃない! それにそんな国、私が変えてやる!」

「それは無理だな。君から伝わってくるこのプレッシャー。生かしてはおけん。後で大事になっても困る。戸賀、やれ」


 戸賀は鉄の棒を二本をどこからともなく取り出し四季に振るった。木刀で防御し後ろの広間へ押されるもなんなく着地し体制を整える。


「松田組支部柳家二番手、アイアンボーンの戸賀とは俺のことだ。全身の骨を粉々にしてやる」

「私は最強のサムライを目指す四季だよ。あなたたちに恨みなんてないけど、困ってる人がいるんだから見過ごしてはおけない」

「松田組にケンカを売ったことを後悔させてやるよ」

 

 戸賀は足で扉を閉め四季へと襲いかかった。


 三分間、激しい戦闘音が鳴り響く。大人と子どもの戦い。しかも、子どもに対して一切の慈悲を見せない戸賀との戦いの結果など柳にとって見る必要もなかった。

 音が静まると柳の部屋の扉が開かれる。


「子ども相手にずいぶん時間をかけたな。話の続き――」

「話すことなんてないよ。そっちが手を引くなら考えてあげるけど」


 扉を開けたのは戸賀ではなく四季だった。


「……めんどうなことをしてくれたな」


 柳は明らかに怒りを露にしていた。

 

「で、どうするの?」

「引くは分けねぇだろ。大人が、しかも松田組が子どもに負けたとなったら外も歩けねぇ。死んでもらうさ」


 柳は立ち上がり左手で四季を捕まえようとする。その手を折る勢いで叩きつけるが、手応えの違和感から四季は再び後ろの部屋と戻った。


「痛くないの?」

「痛くねぇさ。こっちは義手だからな」


 そういうと左腕の義手を取り外し引き出しから武器を取り出して装着した。ひもを引っ張ると煙が吹き出しギザギザの刃が回転を始める。


「な、なにそれ」

「チェーンソーさ。刀と違ってスパッと斬れないがどんなものだって斬ることができる。それに、相手を痛め付けるのにいいのさ。この見た目と凶悪な音。どれも素晴らしい」

「そんな見た目だけの武器になんてびびらないんだから!!」


 そう言いつつも四季は扉を閉めて開かないように背中で押さえつける。見たことのない武器に内心焦っていた。


「これでちょっとは時間稼ぎができるかな。にしてもどうしようかな。木刀簡単に斬られちゃうよなぁ」

「木刀だけじゃない」

「えっ?」


 扉は細かく振動し四季の顔の真横からチェーンソーが現れた。


「ヤバ!!」


 いともたやく扉を破壊し柳はゆっくりと歩く。


「さぁ、やろうか。お前の枝と俺のチェーンソーでな」

「結構がんばって作ったのに枝とか言うなー! そりゃあ、ちょっと形はいびつかもしれないけどさ」

「心配すんな。いびつな形を気にしなくていいくらい粉々にしてやるからな」


 座っている時は気づかなかったが柳はかなりの高身長で歩幅も腕の長さもすべてにおいて有利な状況。

 その上でかい体でありながら常人を凌駕する身体能力。四季はチェーンソーを避けるので精一杯だった。


「ったく、こいつら邪魔だな!」


 柳は倒れた部下たちを部屋の端へと軽々と蹴り飛ばす。


「すっきりした。ちょこまかと動いてないで正面切って戦ったらどうだ」


 木刀を肩に乗せ少し考えると答えた。


「いいよっ」


 渋るかと思っていた柳にとってこの反応は予想外のものだったが、殺すことにはかわりない。


「俺の愛刀に新鮮な血を捧げもらうか」

「たぶん無理かなー。だって、私もうわかっちゃったから」

「寝言は死んでからいいな!!」


 四季にとって正面から柳を相手するのは圧倒的に不利だった。腕を伸ばし突いたとしても柳は一撃受け止めてそのまま腕を切り落とすことができる。

 戦いは自分は攻撃を当てられて相手には攻撃をさせない距離を保つことがセオリー。それはこのような近接戦闘でも同じことが言える。

 だが、四季はどのように攻撃しても反撃を受けてしまう間合い。一撃でも柳の攻撃をくらえば次のチャンスはない。


 柳がチェーンソーを振るう。

 その瞬間、無数の衝撃が体の正面に伝わった。


「な、なにしやがった……」

「打ち合えないし打ってからじゃ回避が間に合わないと思ったからいっぱい攻撃したの」

「て、てめぇは怪物かよ」

「私は人間だよ。で、どうする。あの町から撤退するなら見逃すよ」

「……わかった。大人しく身を引く。だから、お前が俺らを倒したことを広めないでくれ」

「別にいいよ。私は松田組のことはよくわかんないから町からさえ手を引くんならそれでいい。でも、また変なことしたら次は容赦しないからねっ」


 四季がその場を去ろうと背を向けると、柳は腰の銃を取り出し四季へ向けた。


(誰が逃がすかよ。絶対に生かしては返さねぇ)


 引き金を引こうとした瞬間、柳の肩に誰かが乗り口を押さえつけ、首に針をくっつけた。


「にゃはは~ん。だめだよ~。四季ちゃんは東戸に行くんだから邪魔はさせないにゃ~」

「て、てめぇはシノビの――」

「ハイ、口封じっ!」


 四季が立ち去ったあと、松田組支部の建物からは全員姿を消した。まるで神隠しにあったように。


 

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