第一幕 松田組の野望

弱肉強食を斬る 1

 獣狩りの吉太きちたの家は森を出てすぐの町にある。四季の住んでい村よりも栄えており子どもたちが楽しそうに道を駆けていた。


「素敵な町ですね。子どもがたくさんいます」

「この辺は隣町と距離が近いからお互いに支えあってるんだ」

「私が住んでたところはお年寄りしかいなかったのでなんだか新鮮です」


 吉太は町に到着すると知り合いのもとへ向かい台車を用意させ獣を持ってくるように伝えた。


「へぇー、この子が一人で。にわかに信じかだいな」

「俺だっていまだに信じられんさ。でも、この血を見てみろ。全部獣の血なんだ」


 四季は顔に付着した血だけ拭いたが浴衣には赤黒い血が残っていた。


「四季ちゃんだったかな。ちょっとまってな」


 そういうと吉太の知り合いは自身の家に向かい浴衣をもって戻り四季に渡した。


「これは?」

「やるよ。うちの娘のもんだったが」


 少しくたびれているが水色の涼しげな浴衣を笑顔で受け取った。


「ありがとうございます!」


 天真爛漫な姿をみるとより目の前の少女が獣を一人で倒したなど誰も想像できない。だが、木刀についている血がそれを証明していた。


 吉太の家に向かうと色白で美人な女性が出てきた。吉太の妻である三千代みちよだ。事情を説明し理解した三千代は四季を家にあげた。

 

「あの、吉太さんはどこへ?」

「獣の運搬を手伝いに行ったわ。大型なら一人二人で台車には乗せられないからね」

「そうですよね。私、なんとかして一人で運ぼうとしてました」

「ふふっ、それは無茶よ。まぁ、一人で獣倒すのも十分無茶なんだけどね」


 戻ってきた吉太は獣の一部を食べられるように処理し三千代が仕込んでいた味噌汁へと入れた。


「ほら、できたぞ。米もあるからな」


 獣肉の味噌汁のいい匂いにうっとりしつつ差し出された茶碗に入っている米を見て四季は驚いた。


「あ、あの……これってお米ですか? なんだか真っ白なんですけど」

「白米食ったことないのか?」

「これが白米……。噂では聞いたことありますけど。そうだ、白米ってお金持ちしか食べられないんじゃないんですか!?」

「隣町と協力して白米が食えるようにがんばってんのさ。いっぱい食うといい」

「そうなんですね。では、いただきまーす!」


 四季が食事を頬張る中の三千代はどこか浮かない顔をしていたが四季はその事に一切気づかなかった。

 小柄な体型ではあったが大人顔負けの量を平らげ笑顔で手を合わせた。


「ごちそうさまでした! お腹いっぱいですよ」

「それはよかった。あ、そうだ。これ獣を売ったお金だ」


 手渡されたのは八万札さつ。およそ一ヶ月程度なら過ごすのに困らない額であった。


「こ、こんなに……。いいんですか!」

「何をいってんだ。君が倒したんだから君のもんだろ。手間賃は少しばかりいただいたけどな」

「手間賃抜いて八万ですか!!」


 あまりにも反応が大きい四季を見て吉太は腹を抱えて笑った。しかし、やはり三千代の顔は浮かない。何かを言いたげで言おうとすると吉太が目線を送りそれを止めた。


「四季ちゃんはこれからどうするんだい? 君さえよければしばらくうちにいて狩りの手伝いでもしてくれると助かるんだが」

「それも面白そうですけど私は強くなりたいので、今日はもう少し進もうかなって思ってます」

「それは残念だ。なら、少し迂回して進むといい」

「どうしてですか?」

「直線で進めないのさ。川があるんだが橋が壊れて通れないからな。迂回して進んで浅瀬から渡るといい」

「そう……なんですね……」


 四季の言葉はたどたどしかった。体は右へ左へと揺れ、目蓋が重くいまにも目をつむりそうな状態。


「なんだか……眠くなってきちゃいました……」

「旅の疲れだろう。空き部屋があるからそこで休むといい」

「でも……進まないと……」

「そんな状態じゃ危険だろう」

「そうですよね……」


 すると、四季は机に突っ伏し寝てしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る