強くなるために 3
四季はビートの借家で体の疲れを癒したのち早朝から出発することにした。この場所から東戸までは馬でも丸二日以上はかかる。だらだらと過ごしている時間はなかった。
「道を間違えずに横海にたどり着ければそこから列車に乗って東戸へ行ける。
「列車……ですか?」
「線路の上を走る乗り物だよ。馬よりも速く移動できる。といってもお金が必要だけど」
「では、どこかでお金を稼ぐ必要があるということですか」
「私が恵んであげてもいいけど」
ビートの言葉に一瞬考える四季だったがすぐに断った。その返事を聞きビートは小さく笑みを浮かべる。
「そういうと思ったよ。まだ君のことは詳しく知らないけどきっと強くなれる。経験を積んで成長してね」
「はい! 一宿一飯の恩義、いまは返せませんが成長してかならず返します!」
「それまでこの国にいるかわからないけど一応楽しみに待ってるよ」
四季は木刀を腰に据え緩んでいないかを確認すると一礼をしてから走り出した。
その後ろ姿見てビートは呟く。
「身分も生い立ちも違うけど、あの子ならミーアのように強く成長できるかも」
四季の姿を見送り見えなくなるとビートは次なる目的を果たすために支度を始めた。
ビートの下を離れ、すでに太陽は真上にあった。四季は森の道を歩いていた。
「ずっと森ばっか……。村の外はもっといろんなものがあると思ってたのになぁー」
四季はいままで村の外にほとんど出たことがない。外に知り合いがいないのもあったがなにも知らないからこそ特別憧れることもなかった。
それよりもサムライとして強くなるために修行を続けることが四季にとっての充実した日々。
だが、ビートと出会い話を聞いて外に出なかった自身のことを少しだけ後悔した。
もし、積極的に外へと出ていたならば早くに師匠と呼べる存在に会えたかもしれない。そうしたならあの怪物たちを倒せたのかもしれないと。
「なんで怪物が集団で。しかも、あんな早くから……」
ビートは怪物の出現については語らなかった。でも、四季はなにかを感じた。隠しているのような雰囲気を。
道なりにそって歩いていると茂みから音が聞こえる。すぐに木刀を構え意識を集中させた。
ほどなくして茂みから飛び出してきたのは四足歩行の小さな獣。耳が長くふわふわした毛でしっぽ小さくまんまるとしている。
「ラビィっていう小獣だったかな。小さくて可愛いかも」
四季の住んでいた周りは森で囲まれていたがそこに生息する獣は中型なものか、虫獣といわれる異様な形をしたものばかり。小獣を見たのはこれがはじめてだった。
ラビィは茂みから出ると四季の姿を見つけ走り出した。その直後、茂みから新たな影が飛び出す。
四季の頬にはべっとりとした液体が触れた。
「そ、そんな……」
目の前には大型の獣がラビィを食らう姿があった。獣に恨みはない。だが、目の前の光景に対し心がざわつく。愛着もとくにない獣が食物連鎖の果てに犠牲になるのは自然の摂理。
四季は、自然の摂理に対し怒りを覚えた。
「弱いものが強いものに食われることが自然の摂理だというのなら、そんな現実、私が斬る!」
ラビィを食らい次なる標的である四季を睨む。すぐには襲わずじっくりと四季を観察していた。
「来ないの? だったら私から行くね。後悔はしないでよ。私の方があなたより少しだけ判断が早かっただけなんだから」
四季は獣へと木刀を振るった。
近くにある町の獣狩りの男が森で食料を確保するため罠を仕掛けていると、何かが何度もぶつかる音が聞こえその方向へと向かった。
倒れている大型の獣を発見し警戒しつつ近づくとその側には血だらけの四季が倒れていた。
「嬢ちゃん大丈夫か!!」
すると、四季はスッと起き上がり何事もなかったような表情で答えた。
「ちょうどよかった! あの、この獣って売れますか?」
「……へ?」
「倒したはいいものの調理の仕方はわからないし持っていくには重くて」
「ちょ、ちょっとまってくれ。もしかしてこれ嬢ちゃんがやったのか?」
「はいっ! あ、この血は私のじゃないのでご心配なく」
獣狩りは異常な出来事に言葉を失った。
大型の獣は獣狩りが罠を駆使し猟銃を使って複数人で立ち向かうほど強力な存在。それを年端も行かない少女が立った一人、しかも手作りの木刀で倒したなど現実離れしている。
倒された獣は両目を潰されており片目はかなり奥深くまで刺されていることがわかる。そこからを脳を刺したのだろう。
「あ、あのー?」
「あ、あぁ。町まで運べば売れるぞ」
「ほんとですか!? よかったぁ。お金稼がないといけなかったので助かります」
「お金をためてどうするんだ?」
「横海まで行って列車に乗るんですよ」
「一人で横海まで行くのか。そんな危険なことを」
「獣なら大丈夫ですよ」
「恐ろしいのは獣だけじゃねぇ。いまは怪物の出現報告が多い」
「問題ないですよ。強くなって倒しますから」
そういう四季の表情は険しくもなければ悲しみもなかったが、目だけは鋭くどこかを見つめていた。
すると、朝から歩き続けていた四季の腹の音が鳴った。
「こいつの一部を使って飯を作ってやろう。なに、うちには嫁さんもいるから警戒しなくていい」
「では、お言葉に甘えさせていただきます!」
獣狩りの男は四季の表情が少しだけ怖かった。天真爛漫で純粋な表情なのに、時折悟ったような顔を見せる。
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