第29話 告白
「アルビー!」
息を切らしながら名前を呼ぶと、彼は驚いたようだった。作業していた手を止めて近寄ってきてくれる。
「どうした? 何かあったか!?」
自分を心配してくれる言葉に嬉しくなった。自然と早口になる。
「ううん、会議は何も問題なかったわ。ロイ殿下たちとは本当に思い違いがあっただけみたいで。でもテッドをもう一度治癒させようとは殿下たちも思っていたみたい。指の先を少し傷つけることは計画してたらしいんだけど、あの魔術師の人が勝手に? 腕を切りつけたらしいの。あの人、魔術師団の副団長さんなんだって」
今はロイたちが詳しい話を聞きに行っているのだと簡単に伝えたが、きちんと伝わっているかはよくわからない。
それどころじゃなかった。
「ああ、うまくまとまらない! けど、いいの。それより、アルビー!」
「なんなんだ」
戸惑うアルビーの両腕を掴む。
解決しそうな事件よりも、もっと重要なこと。
「昨日のガーデンパーティー、アルビーが場所を決めてくれたって本当?」
数秒ののち、返ってきたのは盛大な舌打ちだった。
それでもライラの興奮は収まらない。
だって、あのアルビーが。
「……テッドか」
忌々しげに声を震わせていたが、まったく怖くない。
「アルビーが私のために、場所を選んでくれたってことでしょう?」
「普段関わらないようにしているのに、ロイがわざわざ聞きにきたからだ」
「じゃあ、ロイ殿下のためだったの」
なるほどね、と頷きかけたけれど、それには勢いよく首を振って否定する。
「そんなわけあるか!」
言った瞬間、アルビーは閉口した。
ライラの大勝利である。
「ふふふー、そっかー、そうなのね! ありがとう! 本当に嬉しい」
王宮で開かれたパーティーにしては簡素だと思っていた。
急なことだったからかとも思っていたが、日程をずらせばいいだけのこと。しかも聞けばライラが力を使うかもしれないことを事前に知っていたと言うではないか。手作り感が溢れる会場はとても気に入っていたけれど、どこか釈然としない気持ちだった。
アルビーのおかげだったのね。
ライラの好みに合っていたのも頷けるというものだ。
アルビーはというと崩れない笑顔に観念したようである。
「あれくらいでそんなに喜ぶなら、お手軽な頭だな」
「アルビーだからだよ」
間髪入れずに言い切った。
アルビーがしてくれた、という事実が嬉しい。好きそうな場所を選んでくれて、様子を見にパーティーにもこっそりきてくれて。
「俺が何かしたわけじゃない。あんたの好きそうな場所や物を聞かれたから、答えただけだ。あとはあいつらが考えたんだろ」
そう言われても、ライラは言い直さなかった。
「だから、アルビーだからだって」
他の人に何を言われても、心が一番揺らぐのは。
「アルビーだから、こんなに嬉しいのよ!」
気づいていないことにしていた。
どんなにアルビーが気になっていても、キラキラオーラがないからだと思うことにしていた。
でも、それだけじゃない。そう思うと何かがすとんとはまった。
全部アルビーだったのだ。
迷惑だと思われたくないのも、嫌われたくないのも、役に立たないと思われたくないのも。
自分がいなくなったら寂しいと思ってほしいのも。側にいて安らぐのも。
ライラを動かすものが、ぜんぶ。
「え、っと。あんた何言ってるかちゃんと理解してるか? 変なものでも食べたとか?」
「失礼ね、大丈夫よ! ちゃんと意識もあるし変なものも食べてないし酔ってもないからね」
「……アルコールはまだ駄目だろ」
「わかってるってば。 例えね、例え」
ライラはふふと笑って、それから目を伏せた。
「本当に気づいたばかりなんだけどね。私、怖かったみたいなの。アルビーに愛想つかされちゃうのが。だから少しでも役に立って見放されない人間になろうとして、聖女の力を使えるようにしたいって、思って」
だから特訓を始めた。
アルビーに認めてもらいたかったから。
目を見開いた先にはその彼がいる。
「でも、聖女であることって一番重要なことじゃないんじゃないかなって、さっきテッドと話してて気づいて。私は私、このままでいいんじゃないかなって思ったの。……いつの間にか聖女っていう肩書に縛られていたみたい」
アルビーの目は相変わらずこちらからは見えないけれど、ちゃんと見てくれている。そう思えた。
「こんな私だけど、アルビーの側にいてもいい? 私、アルビーと離れたくないみたいなの」
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