第21話 謝罪と感謝と非難
この短時間に、たくさんのことが起きた。
ライラは心身ともに疲れを感じて、大きく息を吐いた。
「駄目じゃない、テッド。なんで知らない人についてきちゃったの」
すぐさま口を出たのはテッドへの非難である。
「しかも、あなた、わかってたんじゃない? こんなことになるんじゃないかって」
「まあね」
テッドは悪びれもせず頷いた。
ライラは、やっぱり、と自分の額に手を当てた。
なんとかなるって思うことも大事だし、テッドのいいところでもあるとは思うけれど、今回は絶対危険だったわよ。
ぶつぶつと小さく文句をぶつけるライラを眺めたのち、テッドはアルビーを見て面白そうに口の端を上げた。
「なあ、ライラ。彼は?」
聞かれて、はっとなる。まだ紹介をしていなかった。お互いにだ。
「あ! アルビー、ごめんなさい。彼はテッド。なんとなく察しはついたかもしれないけれど、小さいときからずっと一緒に遊んでいたお友達なの。それで……私が癒しの力を使うきっかけになった人」
「あー、だろうなって思ってた」
こくんと頷いて、もじゃもじゃの頭を掻く。
表情は前髪でわからない。
それでね、と今度はテッドに向き直る。
「彼はアルビーよ。この王宮で、素敵なガーデンを作っていて、」
第二王子だと言いかけて、思い留まった。
気を遣われるのが苦手なようだから、ライラが勝手に伝えるのは違うだろうと言わないことにして。
「一番、安心できる人よ」
そう言った。
キラキラオーラがない。気負わずに会話ができる。植物が好き。
彼を表すのにぴったりな言葉だと思った。
「ふうん? よろしくね、アルビー」
テッドは持ち前の人懐っこさを発揮して、手を差し出す。内心どきどきしたものの、アルビーもまた手を差し出していた。
お互いを紹介できたところで、ライラは話を元に戻す。
「テッド、さっきの話だけど。どうしてわかってたのに、きちゃったのよ。そんなにお金が必要だった?」
困っていたなら、きっとお父様が力になってくれたわ。
心配そうなライラを安心させるように、テッドはにやりと笑った。
「ああ、ライラに会いたくて」
「え、どうして」
「なんだ、会いに来たら駄目だった?」
「そうは言ってないじゃない、どうして会いたかったのかなって」
首を傾げるライラに向かって、やれやれというように肩をすくめた。
「ほら、ライラのおかげで治ったんだ。見せたくてさ。手紙だけだと伝わってるかわからないし」
それを言うなら、ライラはテッドのおかげで崖から落ちずに済んだのだ。
ライラは勢いよく頭を下げた。
「ごめん! あのときは本当にありがとう! テッドのおかげで私は無事だった。……ちゃんと顔を見てお礼が言えて、嬉しいわ」
「でしょう。きた甲斐があったよ。あの魔術師の人たちがこなかったら、王宮なんて簡単にこれるものでもないし。聖女のお手伝いっていうから、ライラの手伝いなわけだろ。王宮に連れてってくれてライラにも会わせてくれるって言うから、二つ返事で了承したんだ。報酬は、まあ、ついでね。もらえるものはもらっとかないと。母さんにお菓子でも買ってこうかと思ってる。なんだっけ、マカロン? 美味いんだろう?」
それは崖に落ちる前、木の上で交わした会話。
随分と時間があいてしまったが、お互いが無事だったことに泣きたくなる。
「うん。マカロン、美味しいから。おばさま、絶対喜ぶわ。見た目も可愛いのよ。でももう二度とこんな危険なことやらないで。おばさまも悲しむわ。今回はたまたま治ったからよかったものの、おばさまを泣かせるようなことになったら、本当にどうしたらいいかわからないわ」
「うーん。俺は危険だと思ってなかったんだよね」
「なんでよ」
「ライラなら、絶対また治してくれるだろうなって思ってたからさ」
刷り込みのような信頼感に思わずぞっとした。
確かに今回はうまくいった。けれど今まではうまくいったことがなく、次回もうまくいくかはわからない。
次、同じことが起きたとき、ちゃんと治してあげられるかは保証できない。
とにかく、とライラは強く言う。
「もう絶対、やらないで! ちゃんと成功するかはわからないんだから」
テッドは、はいはい、とわかっているのかどうかいまいちわからない感じである。
しかしそれが彼の普通で。
久しぶりにした旧知の人との会話は、とても楽しいものだった。
歩きながらテッドに教えてもらったが、なんと王宮内に三日ほど滞在するらしい。
客室が用意されているそうだった。
魔術師の言い分では、協力してくれた者への労い、ということらしいが、貴重な実験体、もしくは人質に近いのではないだろうか。
さすがに考えすぎかしら。
つい先ほど彼らがしたことを思えば、そのまま好意として受け取るには無茶な話だった。
少しの不安はあるものの、テッドとは客室がある建物で別れる。
くれぐれもしっかり休むのよ、と言い含めるのを怠らなかった。
気の置けない様子で二人は話していたが、その間アルビーは混ざることなく、黙って見ているだけだった。
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