第8話 たまにはちゃんと戦う。
日曜白昼、その黒い集団は青山通りを疾走する。車線など一切無視だ。もちろん交通法規など守るはずもない。
ジョッターの機動部隊である。
5台のダークグレーの戦闘バギーの中心には漆黒の移動要塞スコルピオンの姿があった。
32トンの巨体は2基のガスタービンエンジンにより最高時速230キロをたたき出し、主砲は44口径120ミリ滑腔砲を搭載する。
タングステンカーバイドの高速弾を吐き出す陸の魔物でジョッターきっての武闘派幹部デス・スコーピオの専用車両だ。
集団は路上の車両を弾き飛ばし、あるいは踏みつぶし進行する。
集団の行く手に白い影が一つ、ホッパー跨るライノ号だ。
「将勝君、気を付けて、もう滑腔砲の射程内よ。」
ホッパーは右手首を煽る。いきなりのフルスロットル、V6が吼え前輪が高く浮き上がった。小春に「了解」の返答をする代わりにエンジンサウンドで答える。
ホッパー自体には兵装はないが、ライノ号には畑中精機開発の武装がなされている。
機銃2門、各門取り付けのヘリカルマガジンに7.62ミリ弾が100発装填されており装弾数は計200発。
主砲は中央搭載のロングリコイル方式アンチマテリアル砲だ。
14.5ミリの瞬発式高性能焼夷弾が10発装填されて、対物砲でありながら秒3発の速射が可能である。
ロマン武器としてフロントフェンダーを起点に反り上がった鋭利で巨大なツノ。
「ラインクローズ・ホーン(犀角)」をおごる。ライノ号の名前の由来となった白サイのツノだ。
これら主要武装の他にフェアリング内には携行武器として機関拳銃が格納されてある。使用弾は通常の9パラではなく、より強力な10ミリオート25発が装填されている。
2門の機銃から弾をばらまきながらライノ号は集団に迫る。
頭上を衝撃波が通り抜けた。スコルピオンの主砲である。衝撃波の後を追うように雷のような轟音が響く。さっきまでのライノ号のいた地点に着弾した。
各戦闘バギーからの一斉射撃がホッパーを襲う。シュピーゲルの車体とプロテクターには効かない。カンカンと音を立てる。
さすがにコンバットスーツの部分には痛みがはしる。
レベルF仕様とはいっても敵は5.56ミリを使っているので柔肌にBB弾くらいには痛む。
スコルピオンの砲塔が動く、中々に素早いポイントアクション。砲手のレベルの高さがうかがえる。
だが、スピードはライノ号の方が断然上だ。乾燥重量1.8トンの白サイを170キロの速度で突っ込ませる。
敵陣真っただ中に躍り込み乱戦に持ち込む。
ブレーキングは減速のためにあるのか?
…否! コーナーで向きを変えるためにある。
想定したバンク角をクイックに極める。ジャイロモーメントが進みたい方向に向かい、一気に方向転換する。あとはスロットルをガバ開けするだけだ。
キチガイじみた高速2輪ドリフトを極めながら機銃掃射する。敵バギーの装甲もさるもので7.62ミリ徹甲弾でも貫通しない。
フロントカウル上部中央から長く突き出た主砲がうなった。
高性能焼夷弾はバギー鋼板外皮を焼き切り内部に入ると爆発し多数の焼夷性の破片に分裂して踊り狂う。搭乗員はズタズタにされ燃料や火薬は誘爆した。
「まずは、一匹。」
背後から銃撃を喰らう。アクセルターンで方向を変えて正面から主砲をお見舞いする。二匹目はその場で炎上した。
14.5ミリの前にはバギーの車体は段ボール同然であった。残り3台も程なく息絶えた。残りはスコルピオンだけ。
さすがにこの大サソリの外皮は固く主砲を全弾費やしても灼けるのは表面だけである。相変わらず砲塔の回転速度は速い。連射間隔も短い。しかも車体のあらゆる銃眼から全方向に向け機銃掃射をばらまき始めた。
如何にシュピーゲルが優秀でも44口径タングステンの直撃を喰らえば鎧は無事でも中身の将勝はただでは済まない。
「おい、小春!俺は避けるのに忙しいからお前がサソリの中身をスキャンしろ、砲手の位置を探れ、ロマン武器を使う。チャンスは一度だけだ。」
「わかった。待ってて。」
白サイは2門の機銃を撃ちまくるが牽制にもならない。苦し紛れに撹乱用の目隠しスモークを噴射して時を稼ぐ。
「おい、まだか、こっちは一杯一杯だぞ。」
「もうちょっとよ。お願い、がんばって。」
サソリの砲質が変わる。多弾分裂型にチェンジした。避けきれない、うち一発を背中に被弾する。
プロテクター部分で致命傷は受けなかったが、プロボクサーのパンチ程度の衝撃は感じた。一瞬息が出来なくなる。
一発の威力は劣るが連射でばらまかれてはとても避けきれるものではない。
その時、ヘルム内のモニターに解析画像が表示された。同時に小春の声が聞こえる。
「ハック完了。データ転送。」
向かって砲塔直下から右の部分に赤く表示がなされた。
「サンキュー、あとで何でも言うことを聞いてやるぜ。」
そう言うとホッパーはロマン武器ラインクローズ・ホーンを発動させる。
フロントフェンダーにそそり立つサイのツノは一気にユニコーンのツノのように前方へ鋭く伸びて変形した。
シュピーゲルの刃と化したライノ号は一気に体当たりを敢行する。
サソリは側面から刺し貫かれ、ユニコーンのツノの先端は砲手兼操縦士、デス・スコーピオの心臓に到達する。
漆黒の移動要塞スコルピオンは完全停止した。
将勝は妙に合点がいかなかった。
それはママンダーが不在だと、どういう訳か戦いがシリアスになるからである。
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