第7話 やるせないスミレとやるせない小春
ここは関東北部にある某採石場。緑の山肌は削られ人為的に段々の崖が造られて赤土がむき出しであった。
ガレ場にはザコーズ隊員の屍があちこちに転がっており、中央にてホッパーと怪人が対峙していた。怪人は、腕は毒ヘビで頭はハエの姿だ。
そこから少し離れた場所にてママンダーが成り行きを見守っている。ビビットピンクのハイレグスーツにミミズクを模したベネチアンマスクで顔を隠している。
「いくぞっ、トォー!」
ホッパーの右腕に仕込まれた唯一の兵装「スラッシュ・セイバー」が怪人の両腕と頸を一瞬で切り落とした。またもや勝利である。
「ジャスティス・ホッパーがいる限り、この世に悪は栄えない。」
キメ台詞を吐くと、トォッの掛け声とともにジャンプをして、無意味なムーンサルトを披露の後にライノ号にまたがった。
セルスイッチを押すとV6DOHCは滑らかなサウンドを奏でる。
「まて、ホッパー!」
ライノ号の前に立ちはだかるのはビビットピンクのママンダーだ。
「どけっ女っ、危ないだろ。」
「一体いつになったら始めるのだ?貴様、再び現れてからもう一年は過ぎたぞっ。」
「何の話だ?始めるってなんだ?」
「白々しい、じらしプレイも過ぎると白けるぞ。」
「だーかーらー、何の話だと聞いておる!」
「お仕置きタイムに決まっておろうが、しらばっくれるな!」
「お仕置きタイム?? 何じゃそりゃ?」
「ファイトの後はいつもやっていただろう、私と、ほら」
なぜかママンダーは内股になり何やらモジモジとし始める。
「将勝君っ! 早くその女から離れて、危険よ!」
ソリトン通信、小春が金切声で慌てている。
「と、とにかく俺は忙しい。早く帰ってカレーを作らねばならんのだ、ママンダー、貴様と遊んでおるヒマなど無い、これに懲りたら二度と悪事には手を染めぬことだ。さらば!」
アクセルターンで方向転換をして猛ダッシュで立ち去る。
「あぁ、待って、私はもう我慢できないのォ、待ったのよォ18年も、」
ママンダーは切なげに叫んだがその声はホッパーには届かない。
「なーんか今日のママンダーは変だったな、しかし色気はムンムンだったな、普段の3割増しって感じだったし、」
自室でPCをいじりながらつぶやく、モニターに映るのは今日のママンダーの股間の食い込みの拡大映像である。
しかしながら今日の小春の叫びようも奇異に感じる。ママンダーごときに何をそんなに狼狽えるのか不思議であった。
「ただいまー、今日は疲れた。」
スミレの帰宅である。声がいつになく切なそうだ。
「お帰り、カレーできてるよ。今日はちょっと早いね。」
「サンキュ、いい子ね。大好きよ。」
いきなり抱き寄せられ顔が胸に埋まる。十うん年ぶりだ。柔らかくていい匂いがする。スミレがママンダーに対抗できる唯一の武器は胸であると将勝は思った。
「ゴメンね、だらしない母ちゃんで、」
溜息混じりのアンニュイな声に思わず鳥肌が立った。妙に様になっている。実の母ながらうっかり欲情しそうな溜息である。
スミレの意外な一面を垣間見た。普段のダサオバとはまるで違っている。
ピンポーン
チャイムが鳴った。モニターを見ると小春である。
「ごめんくださーい。畑中でーす。」
白のオフショルダーのトップスにパステルカラーのフレアスカート、清楚系コーデだが将勝の好みではない。
「また来たか、何の用だ。」
冷たく言い放つ、
「あーら、小春ちゃん。いらっしゃい。」
スミレがよそ行きの声を出した。
「お前さぁ、家が金持ちなんだから、わざわざ俺んちのショボいカレーなんかたかりに来んなよ。自分ちでもっと良いもん食えよ。」
「小春ちゃん、遠慮なくお替りしてね。」
「はい、おば様。」
「おふくろっ、こいつを甘やかすなよ。おい小春、聞いてんのか、次から金とるからな、一皿650円だ。」
「ねえねえ、小春ちゃん。あなたた達付き合ってからどれくらいたつの?もうチューくらいした?」
「いや~ん、おば様。まだ手も握っていません。」
「握るわけないだろ、そもそも俺たちは付き合ってなんかいねぇ。おふくろ、変なこと言うなよ。こいつが勘違いするだろ。」
畑中小春は将勝に好意を抱いており、こうして頻繁に出入りしていた。
中国の詩人杜甫の有名な一節に、
「将を射んと欲すればまず馬を射よ。」
がある。
小春は将勝が自分になびかないと分かるや母親の調略に舵を切った。
一年生の内から週一程度の割合でスミレの在宅中を狙って訪問した。尋ねる際の服装はハイブランドを避け、畑中グループ内の中堅アパレルメーカーのものをチョイスして華美な印象はもたれないよう気を遣う
手土産は手作りにこだわった。自宅常駐の専属シェフにクッキーやケーキを作らせるが、あくまで低めの出来栄えを命じた。
素人感重視にこだわる。
ルックス、学業、家柄全てを兼ね備え、且つあざとく素朴さと女子力の印象付けが功を奏してスミレから信頼を勝ち得ることに成功した。
「お前、
将勝は呆れ顔で皮肉った。
小春の家はちょっとしたテーマパークができるほどの延べ面積を誇り、大胆な曲線を基調としたガラスのカーテンウォールが特徴の巨大な母屋はもはや住宅とは呼べない。
小春は邸宅の自室にいた。勉強が一段落したところである。部屋のソファに寝転がりながら昨日の戦闘映像をタブレットで検証する。
ホッパー支援システムのオペレーターを務めて1年ちょっとであるが一向に将勝との関係は進展しない。
それどころか事もあろうに彼は敵方の幹部に執心という体たらくだ。
「ったく、あんな年増のエロババアァのどこがええんじゃ。取柄はでっかい乳だけだろっ、あんなん絶対につくりもんじゃん。」
これまでの人生において小春は常に輪の中心にいた。老いも若きも、男も女も、例外なく小春に注目し褒め称える。それが当たり前であった。
にもかかわらず将勝は平民の分際で小春を無視し敬意を払わず雑に扱う。ありえないことである。
昨日も押し掛けたが、夕食後はまるで野良犬でも追っ払うかのように追い返された。
タブレットをタッチしてフォルダを出す。このデータは偶然本部の隠しアーカイブから発見したものだ。
過去の戦闘映像と、全お仕置きシーンである。
このデータを発見したのは一年前のことだ。初めて見た時は腰が抜けてその場にへたり込んだのを覚えている。
画面の二人はおぞましく汚らわしい。
小春が想像していた男女の交わりとは程遠く、そのまぐわいは相手への愛情や敬意など一かけらも存在しない。
唯々、己が獣欲を満たすのみの野蛮で乱暴な行為であった。
あり得ない場所にあり得ないものを入れ、大量の体液を泣きながら啜る女幹部は醜悪そのものであった。
小春は吐いた。
視てしまったことを後悔した。
しかし、翌日も続きを見てしまった。
回を重ねるごとに内容は過激になり外道の様相を見せ、人の所業とは呼べぬレベルに達する。
いつしか小春は毎夜お仕置き動画を見るのが日課となっていた。
初代ホッパーはまさに鬼畜である。シュピーゲルを駆使してよくもまぁこんなアイデアをと感心する。
…が、ママンダーも序盤こそ屈辱に震え泣き叫んでいたものの、中盤以降は全身のあらゆる器官を駆使して対抗し、嬉々として敵の白濁物をむさぼり陶然となる淫獣と化していた。
ここまでくると性行為というよりは戦闘行為と呼んでも差し支えない状況である。
そして小春はホッパーとママンダーの行為を、脳内で将勝と自分に変換して自慰にふけるのであった。
彼女は自分が真正Ⅿであることにまだ気づいていない。
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