(3)

「一体、何ね? 急に呼び出して……」

「どうしたの、優希ちゃん?」

 翌日の夕方ごろ、あたしはウチの牧場にスーちゃんと真子ちゃんを呼び出した。

 そして……。

 のっしっ。のっしっ。のっしっ。

 やって来たのは……軽自動車ぐらいの大きさの……自称「ちびすけ」さん。

「おや? あんたは?」

「ようやく見付けたぞ、我が宿敵よ。いざ、尋常に……ん?」

 けど……ちびすけさんは……スーちゃんの姿を見て、顎カックン。

 え……えっと……?

 あ……あの……?

 一体、どうしたんだろ?

 ちびすけさんは……あたしの方にゆっくり顔を向け……。

「お……おい……聞いてないぞ。たしかに、こいつだが……俺の知ってるスーは……もっと体がデカくて……」

「そ……それに何の問題が……」

「この体格差では……尋常の勝負にならないだろうがッ‼ こんな小さいのと戦って勝っても……誰が俺を町内最強の恐竜と認めてくれるモノかッ‼」

 ……あ……ああ……すごいミスだ。

 どうやら、あたし、厄介な人……じゃなかった厄介な恐竜を頼ってしまったようだ。

「おい、スー。すぐに……元の大きさに戻れッ‼」

「え……えっと……ちょっと、すぐには無理やけん、これでどうね?」

 スーちゃんが、そう言った途端……。

 あ、ウチに居候してた草食恐竜さんなのだ♥

「あ……あ……あ……お……お前は……」

 ちっちゃくって可愛いのだ♥

 ガジくんは可愛い生物いきものさんをガジガジする習性が有るのだ♥

 ガジガジするのだ♥

 がじ♥

 がじ♥

 がじ♥

 がじ♥

 がじがじ♥ がじがじ♥ がじがじがじがじ……♥

「うわああ……やめろッ‼」

 でも、ガジくんにとって、世界一可愛いのはスーお姉ちゃんなのだ。

 なのに、今のスーお姉ちゃんの大きさだと、ガジガジじゃなくてゴックンになってしまうのだ。

 スーお姉ちゃんを飲み込んでしまうのはいけない事なのだ。

 スーお姉ちゃんが居なくなったら、ガジくんは悲しいのだ。

 だから、スーお姉ちゃんが元の大きさに戻るまで、この草食恐竜さんをガジガジするのだ。

 がじ♥

 がじ♥

 がじ♥

 がじ♥

「やめろッ‼ やめてくれッ‼」

 って、やめろッ‼

 人間さん、どうしたのだ?

 この体は、あたしのモノだッ‼

 人間さんに嫌われてしまったみたいなのだ。ガジくん、悲しいのだ。

 うるさい、とっとと体を明け渡せッ‼

 もっと、草食恐竜さんをガジガジしたかったけど、仕方ないのだ。

 ああ……ちびすけさんの胴体の傷跡は……これが理由かッ⁉

 って……?

 真子ちゃん……。

 あの……真子ちゃん?

 何で……服脱いでるの?

「あ……あの……ガジくん……」

 違う。あたしは「ガジくん」なんかじゃないッ‼ 優希だッ‼

 その自称「獣脚類の妖怪」のせいで、恐竜に変えられてるだけだ。

「おなかがすいてるんなら……私を食べていいよ♥」

 待て〜ッ‼

 何を言ってるッ?

 どうなって……ああ、そうか、あの妖怪に洗脳され……あれ?

 だが……全ての元凶の筈のスーちゃんも……真子ちゃんの方を見て……顎カックンしていた。

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