第11話 技
舞い上がる砂塵が視界を覆う。
自分の周囲から小鬼の気配が完全に消え去ったことを感じ、安堵の息を吐きつつ周りを眺めてみると、あの漆黒の空間は跡形もなく消滅し、代わりにいつもの荒野が出現した。
「会得したようだな」
いつの間にか師匠が隣に立っていた。
「小鬼の巣に飛び込むとは……流石に肝が冷えたぞ」
「すみません。何か声が聞こえてきて、そうしなければならないような気がして……」
「……声、か」
「はい。黒夜叉ともう一人の声です」
そう言うと、師匠は少しだけ考える仕草をした。
「まあ良い。それで技は何というのだ」
「一の太刀、『扇』、といいます」
「ふむ。なら、二の太刀、三の太刀もありそうだな」
師匠は珍しく愉快そうに答えた。
「お主の技が何者によって導かれたのかはわからぬ。だが、流石に神刀というべきか、この威力は凄まじい。小鬼もおらんし、場所を変えるとするか」
師匠の提案に従ってしばらく死者の行列と並行して歩いた。数分歩くとまたしても
いつものように突撃しようとすると、
「待て、ここから先程の技を放ってみよ」
と、師匠が言う。
師匠に肯定の返事をしてから、黒夜叉を構える。
「黒夜叉……頼む」
語り掛けてから、黒夜叉の柄を握りしめて視界一面を覆う小鬼の群れに向かい、
「一の太刀『扇』」と発し、弓なりに構えた黒夜叉を振りぬく。
すると、黒夜叉から放たれた剣気が扇状に伸び、触れた小鬼を次々に消滅させていった。
「ふふふ。完全に会得しているな」
師匠はそう満足げに語ると次々と小鬼の群れを見つけては技を放つように指示した。
数十は放ったであろうか。もはや呼吸をするのと同じくらい技に馴染むと、師匠に首根っこをつかまれた。
「では、己の技も伝授しよう」
そういうが早いか、有り得ない超常の
数百メートルは放り出された気がする。
「そなたの技は扇状に広がるもの。射程が長く威力も強いが範囲が狭い。今から教える技は水平方向に全方位を攻撃するものだ。天地を軸にして回ってみよ」
頭から落下しそうになるのを必死でこらえながら、黒夜叉を振り回して何とか回転させる。
「そのまま無心に回転しろ。そして足が地に着いた瞬間に回転技を想像し
みるみるうちに地面が迫ってくる。地面に衝突する恐怖と闘いながら回転を想像する。自分が一つのコマになって回転の勢いで地面を
「今だ!」
「二の太刀、『
そう叫ぶと今にも地面に衝突しそうになっていたのが噓であるかのように身体が浮き上がり、高速で回転しようとする。その回転に委ねるように黒夜叉を胸元に添え、水平に振り切った。すると、自分を中心に同心円状の剣気が発生し、周囲の空間を切り裂いたのである。
「会得したようだな」
そう満足げに師匠は語ると、今日はここまでと言い残して去っていった。
ユリの待つ家に帰る。念願の技をふたつも会得したせいか少々浮ついた気分であった。
「ただいま」
ひなたを抱いたユリに声を掛ける。
「おかえりなさい。何か嬉しそうね」
「ようやく技を会得できたんだよ。しかも二つもね」
ユリはその美しく整った目を見開きながら、
「おめでとうございます」
と、品よく優雅に頭を下げた。
そのユリに、
「ねぇ、声が聞こえたんだよ。一つは黒夜叉、もう一つは……
「…………技の名前を、……教えてください」
震える声で少し不安げにユリはたずねた。
「一の太刀『扇』」
そう口にした瞬間、ユリはその澄み切った目をみるみるうちに潤ませ嗚咽を漏らしだした。
「やはり、そうなんだ」
修太朗はそう言うと、新右衛門に感謝を捧げ、ひなたを抱きながら嗚咽を洩らすユリの小さな背をさすりながら、新右衛門の代わりに二人を抱きしめていた。
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