第8話 俺は頑張ったと思う
自宅のドアが開けられない。買い物袋を両手に抱えてるから当たり前なのだが、それにしてもこの量はやばい。
「アンナすまん。ドア開けてくれ」
ドアを引いて開け、少し脇にずれて俺を先に通すアンナ。執事かよ。だが目がメシになってやがった。
それから俺は厨房へ向かい、モモとアンナはリビングへ向かう。俺はひたすら料理を作り、彼女たちはまったりとくつろぐ。あいつらさっき『相手の事も考えろ』って言った俺の言葉聞いてたはずなんだが。
孤立無援の俺は黙々と料理を作り続け、ビーフとマッシュルームのソテー、ポテトがメインの野菜スープ、イチゴとポテチのミルフィーユ風、山盛りのミートパスタを食卓へ並べた。リビングで遊んでいるアンナたちを呼ぶと「待ってました」と言わんばかりに飛んで来た。
「ミューリありがとう。いただきます!」
適当な料理で申し訳なかったがアンナはがつがつ食べてくれる。モモは好物の段重ねに大喜びだ。まあ、食堂のメシよりは美味いと思っている。あそこはメニューからおかしい。俺は料理を作ったせいかあまり食欲がわかず、酒を飲みながら適当につまむことにした。
食事が終わり軽く雑談をした後、アンナは自宅へ帰っていった。
俺は食器を洗いながら考え事をしていた。
アンナは俺に対して率直な態度で接してくるものの、見知らぬ相手へ人見知りが激しい。先のウザ男は論外だが受付と話しているときも妙に緊張してんだよな。そもそも俺たちがソロしてた理由は――
・俺の場合、何もかもが身勝手な奴だったから誰も近寄ってこない
・アンナの場合、色々あって内向的になってしまい皆から距離を置いている
俺はアンナと行動して少しだけだが自分を見つめなおすことが出来たと思ってる。
アンナはどうなんだろう。少なくとも今日のようなウザ絡みする連中がいる限りダンマリは直らないと思う。……お節介だろうけど、少し対策してみるか。
俺は洗った食器と思考を片付けリビングに戻った。
「モモ、明日はアンナさえよければ休日にしよう。やりたい事が出来た」
「うん。やりたいことって?」
「ちょっとでもアンナが絡まれにくくなるようにギルドでペア登録し直す。あとはアンナの昇給条件の確認だ。」
「わかった。トリのフリしとくね」
フリも何もトリそのものだろ。何言ってんだこいつ。
「あ、じゃあわたしも一緒にギルド行く」
「おいィ!? いつ入ってきた!? 忘れ物か?」
いつの間にか戻ってきたアンナの返事にびっくりする。
「忘れ物と言うか……部屋にゴ〇ブリ入ってきてたの忘れてた……」
「モモ、ミッション追加だ。明日はアンナの部屋を掃除するぞ」
「もう一緒に住んじゃえば? あたしも楽しいし」
アンナの肩に止まりモモが言う。アンナはわくわくしながら俺を見ている。
「わかった。却下」
「なんで!?」
抗議するモモとアンナ。
「モモはともかくアンナ、お前それでいいのか。男と住む意味わかってんのかよ?」
「ミューリのごはんが出る?」
やっぱこいつわかってねえわ。
「はぁ……とりあえず今日も俺の部屋使っていいぞ」
「ありがと! お風呂借りるね?」
「男物の洗浄料しかないぞ?」
「持ってきた!」
「そうか……モモにも貸してやってくれ」
◇ ◇ ◇
翌朝。
ギルドに到着した俺たちは受付でペアの登録を済ませた。ちなみにアンナの昇格条件はペアとして試験を受けることとなり、もう少しポイントが必要になってしまったが問題ない。
俺たちはアンナの自宅へと向かった。
「お邪魔します。……普通に片付いてるな。変な勘違いして悪かった」
「窓開けたら入ってきたのよ。部屋くらい綺麗にしてるわ」
「す、すまん。それじゃ調べるぞ。――いないな。もう出てったんじゃねえのか?」
俺は床からベッドの下、家具の隙間や裏なども調べたが虫は見つからなかった。
「イヤ。タンスやクローゼットの中もちゃんといないか見て」
「仕方ねえな……下着とか触っても怒んなよ?」
「こっそり持ってかないかぎり怒んないわよ」
おい変態扱いすんな。
「じゃあクローゼット開けるぞ。…………いないな。次はタンス開けるぞ」
下から順に開けていくが見つからない。
「ミューリ、いまタンスの裏から黒いの逃げたし!」
モモが見つけてくれた。俺はベッドの下へ逃走しようとする虫を捕まえて窓から外へ捨てる。ようやくミッション達成だ。
「さすがモモちゃん! 頼りになるわ!」
「ピピィ! ミューリより役に立つあたしがパーティーでさいきょうね!」
俺はこの後昼食を奢らされた。
ぼっちとぼっちがコンビ組んだら両方そなわりさいきょうにみえる RSIM @RSIM
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