第7話 気負い過ぎてキャラまで変わってた不器用な男
俺たちは街を出て赤竜の棲む山岳へと向かった。山岳地帯すべてを探索するのは困難だが、クエスト依頼書の情報を頼りに歩き目的地である荒野を見つけた。
付近を探索し、最近出来たと思われる焼け焦げた痕跡を見つけた俺は、薪を集め狼煙を上げる。こちらを見つけてもらうのだ。
「さて、襲ってくるまでしばらく休憩しようぜ」
木陰を見つけアンナと共に腰を下ろす。
――アンナは昨日の無様な俺をどう思っただろうか。
雷獣を見つければアンナの意見も聞かず真っ先に飛び出し攻撃を始め、あげく自分の事は棚に上げて、吹っ飛ばして来たアンナへ仕返しまでする。
最悪だった。
次こそしっかりやろう。石を拾い閃光花火を巻き付ける。待っている間もやることはたくさんあった。
横で退屈そうに空を眺めていたアンナがこちらへ向かってくる赤竜に気づいた。武器を構え、アンナの前に立つ。
「先に目を眩ませるぞ。嫌がって降りてきたら俺が引き付けるから徹底的にどちらかの翼を攻撃してくれ!」
あとは行動で信頼を取り戻そう。
赤竜は早速上空から炎を吐こうとしてくるが、予備動作を察知していた俺は閃光花火を投げつける。顔の前で光ったそれに一時的に視界を悪くした赤竜はゆっくりと何処かを目指し降りていく。俺たちは走り追いかける。程なくして地に降りた赤竜は振り返り俺たちを威嚇する。
すぐに仕掛ける事にした。俺が飛び出すと赤竜は咬みつこうと頭を伸ばす。それをかわしながらハンマーで横面を殴る。何度か攻防を続け敵意をこちらへ引き付ける。アンナは左の翼へ隙を見つけたのか銃槍で攻撃している。繰り返された槍突きに翼の鱗が剥がれたのが見えた。弱点となった箇所を銃槍で深々と突き刺し、刺さった槍先を切り離しド龍撃砲を打つべく銃槍の砲身を構える。やはりアンナは判断が早い。
赤竜を見ると、翼に傷をつけたアンナを脅威と見なしたのか彼女へ視線を向ける。その隙を見逃さずハンマーを上段から振り下ろし頭部を地面に叩きつける。さすがに眩暈を引き起こしたのか、起き上がることが出来ず地面でのたうつ。
ド龍撃砲が放たれた。
銃槍から放出される衝撃が左翼の骨を砕き、残っていた槍先はより深く刺さり貫通する。赤竜は悲鳴を上げながらめちゃくちゃに暴れまわり、でたらめに振り回した尻尾がアンナへ当たろうとするも、ハンマーで撃ち払い相殺する。飛べない赤竜に脅威はない。俺たちはその後も油断せず攻撃を続け、やがて討伐することが出来た。
信号花火を空へ撃ち上げる。しばらくすれば依頼書に記載されている回収班がこちらに到着するだろう。
地面に足を投げ出しガチモードに入ってた頭を切り替えているとアンナが横に座ってきた。
「アンナお前めちゃめちゃ強いじゃねえか。俺ほとんどオマケだったわ」
「ミューリこそたくさん守ってくれたじゃない。ありがとう」
「昨日は悪かったな。いいとこ見せようと調子に乗ってた、すまん」
「それってわたしのために? へぇ~」
ニヤニヤすんじゃねえよ。だけど嬉しそうに笑うこいつの顔に俺は少し照れてしまい、強引に話題を変えた。
「そ、その服いいよな! 最初はそんな貧弱な装備でナメてんのかと思ってたけど、回避性能いいよな。俺も欲しくなってきた」
「え? 汗かきたくなかったからなんだけど。あとこれ可愛いし」
「そうかお前やっぱ色んな意味で天才だわ」
「えへへ~褒められた!」
「さて、そろそろ帰ろうぜ? 今日はメシ奢ってやるよ」
帰りの道中、ずっとアンナは上機嫌だった。
◇ ◇ ◇
夕刻頃、ギルドへ到着した俺たちは報告を終えると一度解散する。食堂で落ち合うことを約束して自宅へ戻り、ドアを開けるとすぐにモモがばさばさと飛んできて頭の上に乗った。
「おかえり。なんかミューリ機嫌いい?」
「おう。思ってた以上に連携が上手くいった」
「じゃあお祝いしよう! イチゴとかクルミとか」
「今日は留守番してもらったし、好きに食っていいぞ。着替えたら出かけよう」
俺は私服に着替え、モモと一緒にギルドの食堂へ向かった。
食堂では既にアンナが到着していて席に座って待っている。だがアンナの向かい側の席に男が座り一方的に話しかけてる。……朝に俺を睨んでいた男の一人か。
アンナへ近寄り、男に声をかける。
「おい、今からメシを食うんだ。席を譲ってくれ」
「うるせえよ。後から来て偉そうにすんなよ。邪魔なんだよ」
「マジか悪かったな。アンナ、そっちの席に行こう。俺たち邪魔らしい」
俺が少し離れた席を示すとアンナは喜んで席を立つ。すかさず男も立ち上がろうとするが、男の頭を掴んで力ずくで席に座らせる。
「ここはメシ食うとこでナンパするとこじゃねえんだ。それにそいつの顔よく見ろ。どう見ても嫌がってんだろ」
「お前には関係ねえだろ……口出しすんな」
「お前自分のことしか考えてないだろ? ちょっとでいいから相手の事も考えろよ」
どの口が言ってんだろうな俺。だが昨日の自分を見てるようで非常に苛つく。そろそろ周囲から悪目立ちしてきたしもうここでメシは食えねえな。
「そんな殺すような目で見んなよ? 消えてやるから安心してくれ。アンナ、店を出よう」
ギルドを出た俺たちは他に当てもなく、食材を買い込み自宅に戻った。
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