第6話 1人と2人。朝から世界はこうも変わる
翌朝。
普段より少し早めに起きた俺は厨房へ向かい朝食を作り始める。オムレツとベーコンを焼き、サラダを添える。バスケットにパンを並べクルミを砕いていると、待ちきれなかったのか頭にモモが乗ってくる。
「おはようモモ」
「ぴぃ! おはよ」
「さて。メシも出来たし、アンナを起こしてやってくれ」
「さっき何回かつついたんだけど全然起きてくれなかった。お腹出して寝てる」
フルパワーで寝てんなあいつ……俺は吹き抜けとなっている2階へ叫ぶ。
「アンナ起きろ、朝だぞ! 早くメシ食ってクエスト行くぞ!」
「直接起こしてくれば早くない?」
「一応女だからな。おーい!! 遅刻するぞ!! 聞いてんのか!?」
「……いまいく……あさからおおきいこえださないでよ」
何度か叫ぶとアンナが2階から降りてきた。
やっと降りてきたか……あいつ階段降りるビジュアルやべえな。昔あったホラー映画で死霊がこんな感じにうつむいたまま近づいてくるシーン思い出したわ。
「ふわぁ……くぅ……おはよ」
「おはよう。とりあえず顔洗ってこい。……おい胸元隠せ。だらしないぞ」
「はぁい…顔洗ってくる…」
ふらふらと洗面台に向かうアンナ。
「アンナさん寝相もすっごい悪いよ? 夜中に音がして目覚めたらあの人ベッドから落ちてたし」
羽繕いをしながら話すモモへ取り分けたサラダを置いてあげる。程なくしてスッキリした顔のアンナが戻ってきた。
「ただいま。あ! オムレツ大好き! いただきまーす!」
席に着くなりがつがつ食べ始めるアンナを見て俺は新しいペットが増えたような気分になる。……そうだ、今日はモモを置いていかないと。
「モモ、今日は悪いが留守番してくれないか? 空中にいる敵は危険だからな」
「うん。暇になったらギルドに遊びに行ってていい?」
「程ほどにな。アンナは昨日の作戦通り頼む。飛べなくさせればこっちのもんだ」
オムレツを頬張っているアンナへ話しかける。
「むぐむぐ……ふぇ? あーうん、わかった!」
「……」
すっげえ適当に返事したなこいつ。だが考えてみれば、俺もアンナもソロの経験しかない。いきなり言われてもうざいよな。俺もアンナに指示されたら適当に流しそうだ。こういうところもお互い直していかないと駄目だな。
「ねえ、ミューリ?」
アンナが気まずそうに空になった皿を差し出す。
「……おかわり」
「ねえよ!! 俺の食べかけでいいならそれ食え!!」
アンナは俺の食べかけたオムレツを秒で平らげた。
◇ ◇ ◇
家を出たミューリは一度自宅へ戻り着替えてきたアンナとギルド前で合流すると、朝一で出発する熟練パーティーとすれ違う形で入館する。ギルド内では報酬の配分が気に入らないのか大声で言い争っている男達がいた。彼は怒声に顔をしかめるアンナの背を軽くたたき、受付へと向かわせる。
「赤竜討伐ですか? 同行者はミューリさん、はい大丈夫です。リーダーはアンナさんですね? よろしければこちらに承諾のサインをお願いします」
「はい。では行ってきます。ミューリは準備出来てる?」
「おう。さくっと終わらせてこようぜ」
俺たちはギルドを出ようとして――掲示板前に立つ3人の男達が向ける恨みまがしい視線に気づく。
……めっちゃ睨まれてるよ。俺が。
「何してるの? 早く行こ」
不機嫌な顔のアンナに引きずられるようにギルドを出た。
「あの人達苦手なの。いっつも誘ってくるし、ひとりでごはん食べてると勝手に相席してきたり、ほんとうざい!」
ぷりぷり怒ってるアンナを改めて見つめる。確かにこいつは可愛い。体つきも出会った頃に比べかなり大人っぽくなったと思う。だが外見だけでアンナを見てる奴らに言いたい。この女ガチでやべえぞと。
「……なによ?」
ガン見してたら睨まれた。ごまかそう。
「いや、普段と違う装備だなと思ってさ」
アンナは白い膝上丈のワンピースに、空色の革で出来た鎧や籠手、ブーツを身に着けている。赤竜の炎対策か? 鎧の表面に冷気の膜の様なものが見える。涼しそうだが防御性能は低そうだ。
「前に、火山付近のクエストを受けたときに汗かいて大変なことになっちゃって。赤竜も暑くなるよね?」
バカンスにでも行くつもりかこのバカ。『暑い』じゃなくて『熱い』んだよ。
「いいデートになりそうね!」
アンナは呆れるミューリの手をとって赤竜が棲む山岳へと歩き出す。
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