第4話 地雷コンビに連携はなかった

 急造パーティを組んだ男女は雷獣の調査へと向かう。

 女の武器は銃槍。一部の紳士に絶大な人気を誇る武器だ。

 槍の先端に銃身があり、槍術と銃撃を併せ持つ攻撃的な武器だ。

 男の武器はやはり鉄棒「おいモモ、ハンマーな! いい加減覚えろ」

 ハンマーは名前の通り槌で相手を殴るだけのシンプルな武器だ。


「ちょっとミューリ。モモちゃんいじめないの」


「イジメナイノ」

 2人から非難の声が上がる。


「お前らホント仲いいな……おいアンナ。一匹いたぞ」

 ミューリはかっぽかっぽと歩く雷獣の後ろ姿を捉える。


「まだ気づかれてないな。先制攻撃で一気にスタンさせてやるぜ!!」

 ミューリはハンマーを構え、力を溜めながら雷獣の背まで駆け寄った。

 即座に放った全力での振り下ろしは、雷獣へ気づかれることなく頭部へ

 ヒットし、眩暈による昏倒を与えた。


「アンナ! 同時にボコすぞ! オラァ!!」

昏倒した雷獣の頭をボコす俺にアンナが追撃する。


「ド龍撃砲!!」

ド龍撃砲とは銃槍の瞬間最大火力を誇る技で、 


「ピャアウ!!」

 煙を上げながらぶっ飛ばされ地面をゴロゴロ転がる俺の身体は樹木に激突することでようやく止まる。

 痛みを堪えて立ち上がれば、ゴミを見る様な視線のアンナに怒鳴られる。


「ミューリ、何遊んでるの!? 真面目にやってよ!!」


「お前ゼロ距離ド龍撃砲とかなめてんのか!!」


「うるさい 起きたらさっさとしっぽきって やくめでしょ」


「お前目ン玉腐ってんのか?ハンマーで切断できるわけねえだろ!」


「あ、雷獣ってしっぽ切れないんだった。もっかいスタンさせて?」

 ああ、俺の堪忍袋の尾がブッチ切れたわ。


「任せろやオラァ!! ムロフシホームラン!!」


「きゃあああ!」


「頭を譲らない味方を飛ばすのは不可抗力らしいぜ!」

 飛んでいくアンナへ俺は叫ぶ。

 パンツ見せながら飛んでくアンナがめっちゃアホっぽくて草生えるわ。


 ホームランで体力を削りきったのか雷獣は動かなくなった。

 討伐だ。遠くで頭から着地してるアンナへ呼びかける。


「おーいアンナ、早く戻ってこい。素材取るぞ!」


アンナがダッシュでこっちに戻ってくる。なんか笑顔が怖い。

……アンナさん? 後ろから雷獣が2匹付いてくるんですけど。


 アンナは俺の目の前まで走ってきて、ぶつかる寸前で直角にターンする。

 雷獣は俺にヘイトを変更し、自慢の角で突き上げる。


「お前なぁぁぁぁ!」

 俺は雷獣にアンナ以上の飛距離で打ち上げられる。

アンナは飛んでいく俺をよそにニッコニコで雷獣から素材を取っていく。

 雷獣もスッキリして帰っていく。


「ぷぴぴぴ! ミューリだっさ!!」


 さっきまで野生に還って地面をついばんでいたはずのモモが顛末を見逃さず煽る。

 腰を庇いながら泥だらけで戻ってきた俺にアンナはノータイムでおとり役を命じるのだった。









――――――


「アンナさん? 雷獣が地面に吸収されそうなんです。

 ちょっとだけ素材取りたいなって……あ、はい。寝言言いましたすみません」


「次の群れよ? 見てきなさい」


「行ってきます!!」


「次あっち。早く行け」


「逝ってきます!!」


「おい いけ あれでさいご」


「死んできます!!」



 俺は味方ホームランですっかりご機嫌ナナメになったアンナに媚びを売っていた。

 あいつのゼロ距離ド龍撃砲はノーカンなんだろうか?


 首をかしげながらもホイホイ命令を聞いているうちにアンナの機嫌は直りつつあり、俺の体力も尽きつつある。調査を終える頃には討伐した雷獣もすっかり地面に吸収され、俺の素材袋には雷獣に地面へとダイブさせられた時に混入した雑草だけが入っていた。


 青筋を立てる俺、モモはアンナの手のひらで爆睡中、

 のどかな午後の風景、さわやかな風をあびながら、怒りが有頂天。


「ミューリ、お疲れ様。 雷獣の数はほとんど把握できたわ」


「先輩をアゴでこき使うお前のメンタルに脱毛、いや脱帽だよ」


「もう、機嫌直して? 元はと言えばミューリがいけないんじゃない」


 先にド龍撃砲を放ったバk……いや、ここで一歩引くのが大人の醍醐味。


「お前もこの調査クエストでだいぶポイント稼げたと思うけど、年内でのランクアップを狙うなら竜種でも狩りに行くか?『空の逃者』とか『陸でサマソ』とか」


「空の、赤竜ってほんとすぐ逃げるもんね。ミューリはどうやって倒してるの?」


「アイテムを使いこなしてこそハンターだ。どこかの総司令も『あるものは全て使え!! 体のみならず頭を使え!!』って言ってたぞ」


「ミューリの頭ってハンマーないときの打撃武器以外に使い道あったっけ?」


「おいケンカ売ってんのか」


「次のクエストは赤竜討伐にいこ? さっさと帰ってごはん食べるし」

 俺たちの会話でいつのまにか目覚めていたモモの催促に、2人の口論が止まる。

 トリ頭な2人の脳内は完全にメシ一色に変わった。


 俺たちは帰路を急ぐ必要もないまだ日の高い草原を、競うかのように街へと戻って行くのだった。

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