第2話 先輩ムーブしたらゲスカウンターくらった

「ピピィ!」


 モモと名付けられているインコがテーブルの上でニッコニコでクルミとイチゴを啄んでいる。


 王都のペットショップで「おしゃべりコアクマインコ」ってフレーズにつられて衝動買いしてしまった。


 初日から俺の物真似をするのでずいぶん利口な子だと感心してたが、先日のとある事件で、普通に喋っていることが俺にバレた。


 某なんとかインコのような外見で、喋ることを除けばとても可愛い。

 だが喋るとクソうざい。


「ミューリ、アイガトー! アンガトー!」


 こうやってギルド酒場でメシを食ってるときはおしゃべりインコのフリをしている。


「こんばんは、ミューリ。モモちゃんもご機嫌ね」


 苦笑しながらウィスキーを飲んでいる俺の背に声がかけられる。


「お疲れアンナ。雷獣の調査は順調か?」


 俺は彼女に視線を向け挨拶する。アンナは俺の向かいの座席に腰を下ろすと、幾分疲れた表情で溜息をつく。


「痕跡は見つかったんだけどね? たぶんだけど、群れになってる」


「個体数まで全部調査しようと思うなよ? 報酬は多いが危険も跳ね上げる」


「だよね…… でも早くランクアップしたいのにな。 はぁ……」


 中級ハンターであるアンナはテーブルに突っ伏すように俯く。

 肩口で切り揃えられた赤い髪は少しほつれ、彼女の心情を表しているように見えた。


「ピュイッ」


「あらモモちゃん。慰めてくれるの? ありがと!」


 モモがアンナの肩に飛び乗り、耳元へ嘴をくっつける。


美女と愛玩動物のイチャイチャは傍から見れば眼福だが、両者は最低な企みを巡らせていた。


「我、天啓を得たり……」


「ふむふむ?」


「ミューリを同行させ、現場でおだてて雷獣に特攻させよ。

さすれば逃げるミューリを顔真っ赤で追いかける雷獣の数を数えるだけの簡単なジョブ……ククク……」


「さすがモモちゃん! どこかの軍師もシブヤで泣きながら土下座ラップしそうよ」


 聞こえてんだよクソが。伝説のスキル、高級地獄耳なめんな。

 モモが喋れることは俺とアンナしか知られていない。だからモモはアンナによく懐いている。



「フハハハハハ!! 我に供物を捧げよ!! ね、アンナさん? シブヤってどんな魔界?」


「ゾンビがね、朝は無言でどこかへぞろぞろ早歩き、夜はウェーイって叫びながらスタンピード起こしてる世界らしいわ」


「ぴぃっ! こ、こわくないし! それよりアンナさん、いまのうちにミューリおだてとこ? こいつちょろい」


「任せといて!」


 あのヤキトリ魔王RPスッカスカじゃねえかよ。 

 おい、アンナこっち見んな。お前の笑顔から邪悪な欲望だだもれなんだよ。


「ねー、ミューリ?」


「断る」


「なんで!? まだ何も言ってないじゃない!」


 涙目で両手をぶんぶんさせて文句を言うアンナ。


「お前も俺と同じくソロでがんばってんの知ってるさ。

 先輩からの忠告だ。命は大事にしろ。怪我だけはアカン」


「え? 命かけるのミューリよ?」


「おまえの血の色教えろやコラ」

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