風鈴


リノウ式魔導工学は無限の可能性を秘めている。

魔法を導入することでガラス製品の大量生産が可能になった。


風鈴もそのうちのひとつである。

夏から姿を消しかけていたのが、魔導工学によって息を吹き返した。


職人たちの工房に魔法が導入され、作業効率が大幅に上がったのだ。


空き瓶に水を流し込むのと同じように、ガラスの核に魂を込める。

宙ぶらりんの魂をコアに捧げることで、風鈴は生み出されるのだ。


色とりどりのガラスの球が軒下に吊るされた。

普通の風鈴よりも妖艶に輝いてみえた。


風が吹くとその人の声で鳴くので、反魂の術としても人気を博した。

魂を見つけさえすれば、その人の声で風鈴が作れるのだ。


しかし、風鈴が壊れてしまうともう二度と戻らない。

魂は解放され、天へ昇る。


今も砕け散ったガラス片を抱いて泣く人がいる。

風鈴が何者かによって破壊され、魂は解放された。


魂は二度と戻らない。ガラス破片を集めても何も起こらない。

男はガラス片を喉に突き刺し、自殺した。


魂は回収され、別の商品に使われる。

風鈴は何も語らない。魂はそこにはないからだ。

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