うどんと蕎麦ならどっちが好き?

「うどんと蕎麦だったらどっちが好き?」


初めましての次に相手から出てきた言葉がこれだった。

何故そんなことに興味がある?逆か?興味がないから聞いているのか?初対面の会話あるある「天気の話」も興味ないながらなんとなく話が続くから、便利に扱われているのだ。コレもその類かもしれない。それにしては特殊だが、まあ、気にするほど変ではない。

なんて返すのが正解なんだろう。この人のキャラがまだ読めないからなあ。「それ一番最初にする会話か?」だと、傷つける恐れがある。やめておこう。

いや、これもしかしてアレか?しっかりめにウケを狙ってきたのか?だとすると、さっきの返事をするのが適切かもしれんぞ。うーむ。無難にいこう。


「その二択ならうどんだけど、麺類でいったら素麺が好きかなあ」

「へえ〜。素麺派かあ。」

「そうそう、素麺って茹で時間が短いのとスルッといけるのがいいよねえ」

「確かにねえ。」

「……。」

「……。」


あっ、やばい。ミスったかもしれん。沈黙しちゃった!えー、何か話題を、話題。話題。


「今日の天気、晴れすぎてて能天気って感じしない?」

「ああ、うん。そうね。」

流されてしまった。

「そういやさあ、雨ってあるじゃん。」

流されてなかった。

「あるね。」

「めっちゃ強いのと、めっちゃ弱いのどっちが良い?」

「え〜それちょっと悩ませてもらえる?」

「OK、待つよ。」

……めっちゃ強いとびしょびしょになるし、めっちゃ弱いとひたひたになるのが雨だよなあ。濡れても良い時は強い雨のが楽しいけど、濡れたくない時は弱いのが良い……外から見る分には……強い方が楽しいか?

「決めました。」

「はい。」

「強い方が好きです。」

「ほう。じゃあ、長靴とカッパの二択なら?」

「えっ、長靴じゃない?傘あるでしょ。」

「ある。へえ、これは悩まないんだ。じゃあマフラーと手袋。」

「手袋かな。」

と、質問がくりかえし繰り出され、なんだかんだで会話が盛り上がる。やるじゃん。やるじゃんよ〜。変な質問ばっかりだけど。


「あ、じゃあ、猿とゴリラだったらどっち派?」

変わらなくない?「変わらなくない?」

あ、そのまま声に出ちゃった。これはあまりにもだよ、あまりにもな質問だったよ。

「変わるじゃん!大きさとか可愛さとかさあ!リスザルとマウンテンゴリラって全然見た目違うじゃん!」

やけにムキになって返してきた。地雷だったかもしれない。せっかく仲良くなってきたのに、ここで喧嘩をしたらもったいない。

「た、確かに……!それならゴリラがいいかな。なんか、こう、ね、強そうだし。」

「動物を強そうという理由で選ぶのってライオンくらいだと思ってた。今までは猿派が多かったから、面白を狙ってでの回答じゃなくゴリラ派って答えたのは君が初めてだよ。」

「え?”今まで”?結構こういう質問してるの?」

「してる。メモも取ってるよ。見る?」


と取り出したラップトップの画面にはExcelが表示されていて、一番上の行には「出会った日、名前、うどん蕎麦、長靴カッパ……」と続く。質問は20個ほど用意されていた。一番最後は「ソフトクリームシャーベット」だ。あれ、結構良いかもな、この質問。

純粋に気になるが、どうしてこんなことをしているんだ。あ、そうか。人の名前と何を話したかを覚えるためか。ずいぶん健気なんだなあ。自分なら投げやりになりそうなところなのに、この人ちゃんとしてるわ。すごい。

え、てことは、これまでの質問って全部初めから用意されてたんだ。……にしては会話デッキ組むのかなり下手じゃない?


「え、どうしてこんなことを?同士でもいるの?一緒にこういうことをやろうって言い合った感じの、幼馴染とかの。」

「いや、そういう訳じゃなく、個人的に趣味だから。どうでもいい情報を収集するのが好きなの。」

あ、会話したい気持ちが変な方向にずれてる人じゃないんだ……僕は興味と恐怖を胸部に強固に抱いた。とはいえ僕もこっそり韻を踏むのが趣味だからな、人のことを言えない。良いんだよ、韻を踏んでも、ふ〜んで済むんだから。

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