2−4

 試験期間を終えた7月の第2土曜日は久々のバイトの日。莉子は今日、竹倉純への告白の実行を決意していた。


 年の差やジェネレーションギャップ、そんなことをひとりでグダグダと悩んでも仕方がない。大切なのは気持ちを伝えること。


 しかし告白しようと決意はしたものの、問題は告白のタイミング。莉子も純も今日の勤務はいつもと変わらず18時終わりだ。

 告白するなら勤務後となる。開店前の朝礼もそわそわとして落ち着かなくて、純の顔をまともに見られなかった。


「帰りに少しお時間いいですか?」と誘えばいい。でもいつ切り出せばいいのか……仕事中にそんなプライベートなことは話せない。


 バイト復帰の今日はお喋りな井上も厳しい荒木も休みだった。代わりに見知らぬアルバイトの男性と初対面の挨拶を交わした。

 莉子が試験期間で休んでいる間に加わったアルバイトの大橋は、莉子の見立てた推定年齢は20代半ば。彼の指導係は竹倉純のようだ。


 7月を迎え、文具フロアには小中学生向けの夏休みの自由研究や工作用の特設売り場が設置されており、6月とは店内の雰囲気が様変わりしている。


 3月、4月は新学期や新生活用のコーナー、6月はジューンブライドの影響もあってウェディング関連の売り場が設けられていた。

 ノートやボールペンなどのメジャーな文房具を除けば、季節関係なくコンスタントに売れているのは手帳のリフィルやボールペンの替芯、万年筆や祝儀袋だ。


 夏休みの宿題用に絵の具や画用紙を買い揃える小学生達の接客を終えるとちょうど昼休憩の時間だった。


 シフトのメンバーがこれまでの土曜のメンバーとは違うせいか、純とは休憩時間が合わなかった。代わりに新人の大橋と昼休憩が重なった。


 バックヤードで莉子は大橋に話しかけてみる。


「大橋さんはいつ頃入ったんですか?」

「まだ先週ですよ」


 お喋りな井上とは対極で大橋は会話が得意なタイプではなさそうだ。莉子より数歳年上に見える彼は一言で言えば物静かな人間。

 大橋と二言三言会話をし、莉子はひとりで休憩室に向かった。


 今日は秋元結梨とも休憩が合わず、ひとりで黙々と食事をとる。

 告白すると決めて緊張状態の心を察した胃が小さくなってしまったのか、食欲がまったくない。


 純は大橋の指導をしているから莉子の近くにはいてくれない。忙しい今日は暇な時に雑談でも……な状況でもない。


 結局、昼食は半分も食べられなかった。告白の件を考えるだけで速くなる鼓動を抑えつけて莉子は机に突っ伏した。


(ううう……どうしたらいいんだ。次? 次の機会を狙えばいいの? でも今日は名付けて恋する乙女メイクをしてきたのよ。告白する気マンマンで出勤したのよ。それを今更、やーめたは出来ないよぅ……)


 莉子は告白をした経験がない。19歳と数ヶ月にしてこれが人生初の告白だ。


(告白って何をどうしたらいいの? 漫画みたいに好きですって言えばそれでオーケ?)


 悶々とした昼休憩を過ごして午後の業務が始まる。

 午後は13時から16時までレジ担当、16時から勤務終了の18時までは商品の品出し、掃除と巡回、ゴミ捨て。


 純の昼休憩は13時になっていて莉子と入れ違いだった。莉子が純と一緒にいられる時間は彼が休憩を終えた14時から16時まで。今日に限ってなんと言うすれ違い。

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