2−3
7月上旬から学校が期末試験期間に入るため、6月最終週分と7月の第1週分のバイトは休みをもらっている。しばらく竹倉純には会えない。
放課後、莉子は専門学校の友人の知咲とファミレスで試験勉強に取り掛かっていた。勉強の片手間に莉子は純の話を知咲に聞かせた。とにかく誰かに今の気持ちを聞いてもらいたかったのだ。
「35ってオジサンじゃん」
話を聞いた知咲はシャープペンを右手に持ち、左手で器用にジェラートをすくって頬張りつつ、見も蓋もなく言い切った。
「オジサンじゃないよぅ! 年齢より若く見えるし加齢臭ないしハゲてないし、身長高くて手足もスラッとしていて、かっこいいんだよ!」
莉子もチョコケーキを食べて試験範囲のプリントの答えを埋めながら竹倉純がどれだけ素敵な男性か知咲に力説する。
純は決してオジサンではない。莉子が思うオジサンの条件に彼は当てはまらない。
笑った時の目尻のシワも可愛くて、似ている芸能人ならあの人とあの人と……。
莉子の熱弁を聞いた知咲は苦笑して、莉子の話をハイハイと聞いてくれた。
「ベタ惚れだねぇ」
「だって好きなんだもん」
「じゃあ、よく喋るマッチョの井上さん? だっけ、そっちはどうよ?」
「井上さんはいい人だけど好みじゃない。あと見た目は体育会系でもマッチョではないな」
女同士の恋の会話は時として辛辣。そういうものだ。知咲は何か思い付いたのか、プリントに書き込む手を休めた。
「竹倉さん独身?」
「多分。左手に指輪はなかった。でも彼女がいるかは、年齢の衝撃があって聞き忘れた」
「35ならバツイチの可能性あるかもよ。20代の時に大学時代の彼女と勢いで結婚しちゃったパターン」
「あー……、それはあり得るね。まぁ、今が既婚者じゃないならいい」
莉子は不倫はしない派だ。人生何が起きるかわからないけれど、それだけは固く誓っている。
中には、バイト先の既婚の店長と付き合っている同級生もいる。人は人、自分は自分な莉子は不倫をする人間を軽蔑はしないが、自分は絶対に不倫はしたくない。
彼女がいた場合は諦める。略奪もしない。
そんなものは綺麗事かもしれない。だけど不倫も略奪も誰かを不幸にして得る幸せなんて、不幸にされた側の人がいてやっと成立するもの。
不幸にした人の涙の上にある幸せはいらない。そこまでして莉子は幸せになりたくもなかった。
「童貞だったらどうする?」
「ちーさーきぃー。確実に面白がってるな? いくらなんでも35歳で女経験ゼロはないでしょ。純さんは女に避けられる外見じゃないよ。どっちかと言うと女がホイホイ寄ってきそうな見た目なの。あれは絶対、過去にモテて来てる」
「莉子もホイホイ釣られたひとりってわけだ。でも芸能人は年の差恋愛で結婚してる人多いよねぇ。アリな人はアリだろうし、莉子は年の差は気にしてないんでしょ?」
知咲の指摘を受けて改めて考えた。16歳差には驚愕しても、それで恋の熱が冷めたり彼を諦めるには至っていない。
竹倉純が30代なのは明白だった。だから年の差が10歳以上になる事態も覚悟はしていた。
「年の差は気にしていないかな。年上が向いているとは言われるし……。問題は純さんなんだよ。年下、それも16歳下のハタチの女は恋愛対象に入るのか」
恋愛対象として見られていなければ、彼女がいなかったとしてもどれだけ莉子が頑張っても恋人になれる望みは薄い。
「そこ気になるよね。こっちが好きでも向こうが恋愛対象外だったらキツイ。あとジェネレーションギャップ」
「それもあるね。ジェネレーションギャップって具体的に何がある?」
よく聞く言葉、ジェネレーションギャップ。世代が違えば見てきたものや価値観が違うのは当然のこと。
「音楽や観てるテレビ、流行ってる言葉が通じないとか? 話題も合わないこともあるよね。共通の話題って仕事しかないでしょ。35のオジサンとハタチの小娘だからねぇ」
「だから純さんはオジサンじゃないもん!」
当面の莉子の恋愛研究課題はハタチの女は恋愛対象になるか否かと、ジェネレーションギャップについてだった。
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