1−3
莉子のシフトは火曜、金曜、土曜。
火、金は学校が終わった後の18時から閉店の21時まで、土曜は開店時間の10時から18時まで。
竹倉純は土曜は必ず勤務に入り、金曜と日曜が休み。純も土曜の勤務時間は18時終了だ。
土曜勤務では昼に一時間与えられる休憩時間が彼と重なっていた。昼休憩は莉子も純も12時からの1時間。
4階の休憩室には各フロアで12時休憩の店員が集まっていた。
この休憩時間がなければ莉子は竹倉純を〈良い先輩〉以上に意識することはなかっただろう。
気が合う人間、合わない人間、年齢も立場も違う様々な人間がいる職場でも、気軽に話せる存在ができた。
雑貨レジ担当の秋元結梨は気さくな性格で年齢も4歳差のため初日にすぐに打ち解け、連絡先も交換した。
3月末の土曜日、休憩時間が重なった結梨と一緒に莉子は4階の休憩室に向かった。広くもなく狭くもない休憩室には長机が4つ並んでおり、莉子と結梨は空いている席に並んで腰掛けた。
休憩室は誰がどこに座るのも自由。だから莉子達よりも後に休憩室に入ってきた竹倉純が迷わず莉子の斜め向かいの席に腰かけた事実も、この時は特に意味のないことだと思っていた。
そうして幾日が過ぎ、ゴールデンウィークも越えた5月中頃の土曜日、この頃から莉子はその不可解な謎に気付く。
竹倉純も大抵の土曜は勤務に入っていて、莉子が出勤した4月と5月の土曜日も昼休憩は彼と同じ時間だ。
休憩室の席は他にいくらでも空いているのに毎回、純は莉子の斜め向かいの席に座る。
莉子よりも遅れて休憩室に入り、まるで莉子のいる位置を確認した後に座るみたいに、彼は決まって莉子の斜め向かいの席にいた。
誰がどこに座るのも自由の休憩室ではもちろん先客がいる場合もある。莉子の斜め向かいの席が先客で塞がっている時、彼は莉子に背を向けて違う席についていた。
他の席があるのに何故、純は莉子の斜め向かいに座るのか、それも目の前ではなくひとつふたつずらした斜め向かいという、微妙なポジション。
これは莉子限定の休憩室で起きるちょっとした謎だった。
恋に落ちる最もポピュラーな方法が単純接触効果だ。接触回数が多い相手ほど好意を抱きやすいと言われる。
たびたび視界に入る竹倉純を意識し始めたのはバイトを始めて3ヶ月経った、6月の始め。
この休憩室の謎は相手が竹倉純でなければ、気持ち悪いと思ったかもしれない。よくよく考えると多少……彼の行動は、異質な方向に向かっていた気もする。相手次第ではストーカーだと怯えていただろう。
でも純だから嫌な気はしなかった。
きっと最初からそうだった。
初めて会ったあの日から、莉子は竹倉純に恋をしていた。
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