第2話 石が投げられない①

 ニホン人ゴブリン族の男の名前は火渡ひわたりさんと言った。ダイガクセイだそうだ。ダイガクセイはお金がない生物なまものなので、そんなに食うんじゃないぞ、と念押しされた。


 ダイガクセイは貧乏なので、狭い部屋に住んでいる。その狭小なアパートを出ると、狭い路地に出る。若干下水が臭い。そして、隘路を抜けると一気に開けた。目の前をたくさんのゴブリンがうろついている。

 ゴブリンは種族的地位が低いので、こんな多数を一度に見たの初めてだった。


「駅前まで十分くらいかな」

「はい……」


 地獄の十分であった。

 外気が異様に暑いのも地獄だったが、何よりもすれ違うゴブリンが自分をあけすけなまなざしで見てくることだ。

 奇妙なものを見る目だった。

 普段見慣れないものを見定めようとする目。

 ゲロカスゴミブスだから仕方がない。ずっとそうやって生きてきたのだ。でも、酷くない? 異世界でも同じ目にあうなんて!

 そして、スィは投石を恐れていた。生まれた村ではブスには石を投げても無罪どころか面白エピソード扱いだったからである。

 何が面白いのかわからないが、キャッキャ言いながら、石を投げられたものだ。

 しかし、待てど暮らせど石は飛んでこない。


「君は何で目を付しているんだ??」

「投石を恐れているのです」

「は?」

「痛いんです」

「よくわからないが、こんな街中で石を投げるやつがいたら間違いなく逮捕だな」

「そうですよね。不細工罪で逮捕ですよ……」

「あ、ここ右曲がって」


 じろじろじろじろ。

 奇異の目。


「本当に飛んできませんか? 石」

「こないって言ってるだろ」

「あ、う。でも、皆さんが私をじろじろ見てきます。きっと、投石のタイミングを見計らっているのでしょう」

「単純に物珍しいんじゃないのか?」

「物珍しい? 確かに、エルフは珍しいかもしれないですね。ゴブリンの国では」

「あんた面白いな」

「お、面白い顔面ですいません。ごめんなさい……」

「いやあ、5chじゃ外人はエルフだっていうやついるけど、まさか自分で言うやつがいるなんて思わなかったな!」

「私のような面は、エルフの面汚し。エルフを名乗る資格すらないとそう、おっしゃるのですね?」

「いやいや。確かに、あんたのことをエルフだと思って見てるかもな。あんたすげー 綺麗だし」

「もしかして火渡さんは、私を煽てて何か企んでいますか??」

「きれいな子は見ちゃうだろう。俺だって、あんたみたいな子を隣に歩かせているなんて気分がいいんだぜ?」


 うーん。

 スィは考えた。

 ここゴブリンの国だ。ゴブリンの美的感覚はエルフのそれと違っている可能性がある。ということは、私はこの世界では美人なのでは??

 え?

 すごい。

 これぞ異世界転生の醍醐味なのでは??


「えへへ。まあ、いいですよ。今はそういうことにしておきます」

「お、ついたぞ」


 目の前に大きな皿の絵が描いてある。『異世界探訪記』に書いてあって回転寿司であった。

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エルフ界のブスが日本に来てアイドルする話。 @fzy_

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