エルフ界のブスが日本に来てアイドルする話。
@fzy_
第1話 ニホン転生
スィはそれはもうブスである。
エルフ界始まって以来、一万年に一人のブスと言われ、育った。伝説のブス。
同級生の男子からは目が腐ると貶され、ゲロカスゴミブスとまで呼ばれ、親からもオークの子ではないかと疑われた。
そのせいで両親は離婚した。
どちらもゲロカスゴミブスの娘なんて引き取る気にもならず、誰も住んでいない廃屋に住むことを余儀なくされた。毎日雨漏りがしたし、ネズミがチュゥと鳴く。泣きたいのはこっちだった。
スィは卑屈に育った。
育たたないはずがない。踏まれた続けた雑草はまっすぐのびたりしない。むしまっすぐに育ったとしたら、それは奇跡としか言えなかった。
現実が嫌で嫌でたまらなかった。
異世界にいきたいなあと思いながら、毎日、眠りについていた。しかしながら、朝目が覚めるといつも同じ。雨漏りだらけのいつもの天井しかないのだった。
そんなある日、森へ狩りへ出かけた折、子供ドラゴン(学校に遅刻しそうで急いでいた)に轢かれた。そして意識を失った。死んだかもしれない。ブスは死に方までブスだった。
交通事故なんて面白くもないし悲劇的でもない。美人が死ぬ理由といえば白血病じゃないのか?
で、目を開けたらどうだろう?
夢にまで見た異世界にきているではないか!
一時の夢でもいい。
スィはこの場所の名前を知っている。ここは四畳半というのだ。畳という敷物が四枚と半分で床を覆っていて、木製の柱と漆喰、砂壁でできている。
ニホンという国の伝統的な建築様式だ。『異世界探訪記』に書いてあったもん!! ちなみに、『異世界探訪記』は
――目の前にはゴブリンがいる。
知らなかった。
ニホンがゴブリンの国だったなんて。異世界は憧れていたけど、ゴブリンとかオークは苦手だ。得意なエルフはたぶん存在しない。
「ひぃ!」
「ちょ、怯えすぎだろ! 何もしないって!」
「こ、殺さないで! れれれれレイプしないで!!」
「しねえよ! 犯罪じゃねえか!」
ゴブリンやオークは人間やエルフを犯して子孫を残す。
狭い四畳半だ。逃げる場所はふすまが一つくらいしか見当たらない。窓は怖い。空しか見えないし、少なくとも一階じゃない。
絶体絶命だ。
「
「何でもってなあ。こっちも困ってるところなんだけどな」
「あ、でも性的なのはやめてください……初めては好きな人とって決めてるんですぅ……」
「だからしねえって!?」
「ひぃ!」
「ちょ、ま。落ち着けって。あんたさ、財布ももってないみたいだし、身分証もないから、あんたの身元を確かめようがないんだよ。俺の顔が悪人に見えるか? これでも、虫も殺せないって言われてるんだが」
「ゴブリンに見えます……」
「ご、ゴブリン?」
「お願い……犯かさないで。私を犯してもいいことないです。エルフ界始まって以来のゴミカスゲロブスの子宮に価値はないです……。ゴブリンよりも不細工な私はスライム以下なんです。だから許してください……」
「おまえ何言ってんの?」
「ふぇ」
「どう見たって、クソ美人じゃねえか」
「え? もう一回お願いします」
「……美人だと思うぞ」
「んあぁあ」
「何その、耳がおかしくなってしまった。ここはどこ私は誰みたいな表情。とりま、鏡見ろ。ほら」
スィは差し出されたスマホを覗いた。
紛うことなき自分が映っている。
間違いない。ゲロブスだ。
これがゲロブスでなかったら一体全体何だというのだ。もはやヒューマノイドですらない、ということか。スライム以下。やっぱり。
「はは……相変わらず、私ってブスだね……はは……」
悲しくなっちゃう。女の子だもん。ブスの自分を見るのが嫌で、鏡なんて10年は見てなかったのに。
「だから! おまえ何言ってんのって! 価値観のおかしい国からきたのか? 確かに金髪劇眼だし、欧米人って、ルーシーリューとか澤穂希を美人っていうからな……。おまえがブスの国もあるのかもしれんが、少なくとも日本ではクソ美人だと思うぞ」
「あゝ。やっぱりここはニホンなんですね!」
「急に元気になったな……」
「あ。でも、私はゲロカスゴミブスだから……」
「なぜまたしょげる!!」
ニホンはゴブリンの国です。私の居場所なさそうです。
「私ずっとニホンに来たかったんです」
「あれか? 最近はやりの日本大好きオタク外人ってやつか? 確かに日本語上手だな」
「
「お。やっぱそういうノリなんだな。なんだよ。早く言ってくれよ。ゴブリンとかなんとか、そういうロールプレイだったってことでいいんだな」
「やっぱり、ノリで犯すんですね……」
スィは半ばあきらめた。
ゲロカスブスがニホンに転生できただけでも万々歳なのだ。もう人生の運気を全部使ってしまったようなもの。
だったら最後にダメ元でお願いしてみよう。
「私を犯す前に、ちょっといいですか。ゴブリンさん」
「あ? いつまで俺をゴブリンって設定にする気なんだよ。あんた。俺これでもイケメンだと思って二十年育ってきたんだけどなあ。これでもちゃんと彼女だっていたことあるんだぜ?」
「信じられません……」
「もう好きにしてくれ」
「あの。お願いがあってですね……」
「なんだ?」
「寿司を食べさせてください。ニホンの一番おいしい料理だときいてます」
「寿司? まあ別にいいけど」
「回るやつですよ? できれば新幹線の
「回転寿司がいいのか。変わってるな」
「ありがとうございます。寿司が終わったら、えっと、トージンボーに連れて行ってください」
「あんた外人なのに変なこと知ってんな……東尋坊は自殺の名所だぞ」
「ハイ知ってます。もうこの世に未練はないので……」
「おいおい。死ぬ気じゃないだろうな」
「はは……もう一回死んだようなもんなんですけどね……。あ、あとは秋葉原とかも言ってみたいですね」
「まあ、つきあってはやるけど、ちゃんと滞在先のホテルかホームステイ先か民泊か知らんけど、帰るんだぞ」
スィの目が泳いだ。
「はは。善処……します」
「政治家っぽい言い回しだな。それ」
「はい。日本では、心の中ではする気がないのに、やる気を見せるときの一般的な表現とききました。フォーマルな席で多用される、と」
「変なことに詳しいな。ほんと」
「『異世界探訪記』は読み込んでいるので」
「イセカイタンボウキ?」
「心の愛読書です」
スィの相貌は遠い銀河のきらめきのようにきらめいていた。
本に書いてあった内容から想像した国とはちょっと違っていたけど、悪いゴブリンではないみたいだし、もう少しニホンの姿を見てみよう。
スィはそう思った。
「そういう日本のガイドブックがあるのな」
「はい」
「じゃあ。いくぞ。って、あんた財布もってないよな……」
「……すいません。ブスですいません」
「卑屈になるな! もう、奢ってやるから、泣くな!!」
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