第九十九話:ルーシィの秘密
まさか他国の…… それも貴族で…… 侯爵家で…… なんかもう色々情報過多で頭が「っぱーーん」って破裂しかける程に脳みそ限界令嬢マルグリットです。
ようやく合点がいった。だからあの時、私に「魔導武器…… 必要でしょ?」って言ってたんだ。
パラスゼクルの貴族であれば確かに用意するのは難しい事ではないのかもしれない。
だけど、私が必要としているのはマイナー武器のガントレットなのよね。
確かに私には何が必要で、課題は何でと言った感じでヒアリングは散々されたけど、そう簡単に見つかるかしら。
と、とりあえずうちは子爵家でルーシィさん…… ルシエラ様は侯爵家…… 今後は粗相のない様にしなければならない。
貴族の悲しい性やって奴ね。
「ルシエラ様、失礼しました。今後はそそ「やめて!」」
ヒョエッ! ビックリした。最近のチェスカさんもそうだったし、ルシエラ様も心臓に悪い様な大声張り上げるの勘弁してほしい……。
「私は貴方にそんな態度を取って欲しくて身分を明かしたわけじゃないの。今日の話に必要だから明かしただけ……。お願いだからいつも通りにして欲しい、せめてここにいる間はルーシィでいたいから……」
「わ、わかりました、ルーシィさん。貴族として生きてると、どうしても爵位の違いが分かった時点で脊髄反射してしまう癖みたいなものがありまして」
「その気持ちは分かるよ。私も公爵家や王族相手だと同じ事を思っちゃうだろうしね」
引き合いに出してくる爵位が天上人すぎてもうヤバイ…… って思ったけど、よく考えたら私が学生時代に一緒にいたフィルミーヌ様は公爵家だし、喧嘩相手のアルヴィンも侯爵家、王子はいうまでもなく王族なのよね……。なんかそう思ったら心が落ち着いてきた。
「王国の人には馴染みは無いでしょうけど、魔導具作りでアールストレームと言えば結構国内では有名なんだよ。だけど、高祖父の代から魔導具に加えて武器を作る産業を追加する計画が始まったの」
「それが…… 魔導具の性能を持ち合わせた武器…… つまりは魔導武器って事ですね」
高祖父…… 大分前から計画は始まっていたのね。でもそれだけ前ならもっと魔導武器が広まってもおかしくないはずなんだけど、どうして聞かないのかしら。
むしろあの武器屋で初めて知ったほどだったから吃驚したわ。
「そう、具体的には計画発足後に高祖父の側室に加えられた第二夫人以降は鍛冶師の家系から娶ったんだけど、その子供達には鍛冶師としての才能は無かった……」
そりゃあそうよね…… 鍛冶師の家系というだけで鍛冶の才能が生まれたら苦労はしないと思う。
「もちろん鍛冶師の家系というだけでなく、鍛冶経験者本人だったり、その子供達にも鍛冶経験をさせたりしたらしいの。だけど、大成するほど鍛冶師にはならなかった…… 先代までは……」
先代までは…… という事は……
話の流れと今の状況を鑑みると答えは一つしかない。
「今代に鍛冶師の才能を持った人が誕生した。それがルーシィさん…… という事ですね …………ん? という事はルシールってもしかして……」
「うん、魔導武器の第一人者という事になるのかな…… マルミーヌちゃんの言うとり、”ルシ”エラ・ア”ール”ストレーム…… ルシールとは私の事なの。だからあの武器屋に飾られていたあの剣も実を言うと私が作った試作品…… 父が私に許可を取らずに勝手に持ち出して、どうしてもと言われて売却したらしくて巡りにに巡ってあの武器屋にたどり着いたって訳ね。それも喧嘩の理由の一つではあるんだけどね……」
あれで試作品…… 魔力を普通に込めてしまったとは言え、本来以上の威力になっていた事に驚愕した。
「あの時、想定以上の威力になったんですけど、あれが魔導武器の特徴なんですか?」
「魔力増幅機能の事ね、あれは魔導武器と呼んでいいか怪しいくらいの最低中の最低ラインね」
あれでそんな評価なんだ…… という事はルーシィさんが納得する魔導武器の定義ってどんだけなの……。
「ルーシィさんは納得のいくものを作ったことあるんですか?」
ルーシィさんは微笑む。そこでチェスカさんに荷物を出すように指示していた。
私の目の前に置かれたのは一つの木箱だった。
「これは……」
「それが私の納得のいった魔導武器よ。それを作っていて時間が掛かってしまったの。開けてみてくれる?」
私はルーシィさんに言われるがまま木箱を手に取り、開けるとそこにあったのはシルバーグレーのブレスレットが置かれていた。
作りはシンプルで装飾も凝ったものではないけど、中央にいくつか細かいグリーンの宝石のような…… これは魔石かな。
実際、手に取って確かめてみる。軽い…… まるで何も持っていない様な感覚。
色々な角度を変えてブレスレットを眺める。
「すごい……」
私がポツリと漏らすと、ルーシィさんは嬉しそうにブレスレットの説明をしてくれた。
「通常時はブレスレット形態だけど、魔力を流して特定の
このブレスレットの中に武器が格納されて、最も難問だと思ってた遠距離問題も解決? これ一つで?
これが本当の魔導武器の真髄って事なのね。
一体金額換算したら幾らになってしまうのかという生々しい事をつい考えてしまい、ごくりと喉をならしてしまう。
そんなことより私は肝心な事を聞きそびれていた。
「この武器の名前って何ですか?」
「この武器の名前は――」
一呼吸置いてルーシィさんはこの武器に付けた名前とそれに込めた想いを私に教えてくれた。
その後、私はルーシィさんとチェスカさんの見送りに共にギルド建物の外に出る。
馬車が用意されており、老齢の執事らしき人が待っていた。
ルーシィさんは最後まで笑顔を作っていたが、やはり表情に陰りを残していた。
あの底抜けの明るさが取り柄のチェスカさんですら今回は無表情の上、無言だった……。
彼女達に何があったのか聞き出せなかったけど……
私は…… 居ても立っても居られずに彼女等に向かって叫んだ。
「例え、世界が貴方の敵になったとしても私は貴方の味方ですから」
私は周りに味方がいなくて責められた時の辛さを知っている。苦しみを知っている。
でも私はあの人に救われた。
そして…… 国に捨てられても最後の瞬間まで隣には友がいた。
それだけで私の心は壊れずに済んだ。
だから…………
私も救いたい、貴方を……
私を救ってくれたあの人の様に。
◆
夜、私は自室のベッドに仰向けにダイブして、左腕にはめたブレスレットを眺める。
「こういう時に自分の無力さを痛感しちゃうなあ」
あー、ダメダメ…… 一度悩むとドツボにハマる性格なんとかならないかなあ。
私はため息をついて天井を見上げる……。
そのまま目を瞑る……。
すると……
屋敷内で数人が走り回っている足音が聞こえた。
何、こんな時間から……
私は部屋を飛び出して足音が聞こえた方に移動する。
足音の方向はお父さまの書斎付近で聞こえていた。
あまり近づきすぎるとお父さまにバレてしまうから慎重に近寄ると、男性の野太い声が書斎内で響き渡っていた。
「赤狼の牙を自称する集団が領内複数の村から金品略奪及び制止しようとした村人を数人殺害し逃亡を図っている事が確認されました」
――赤狼の牙
その単語を認識した途端、私の全身の血液が沸騰しそうになる程、身体に熱を帯びていくのを実感した。
来た……
今後こそ…………
お前たちを………………
一人残らず……………………
根絶やしにしてやる……………………
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