第九十六話:ルーシィの決意、そして……
ルーシィさんはギルドを出てから、私の家族話をする辺りから元気が無くなっていた。
それに加えて先程の武器屋での話…… 関連があるのかわからないけど、聞こうと思う。
「あのね…… 私…… ううん、私達……実は」
ごくり……
「三年前から家出してるの……」
はい……?
三年前から…… 家出……?
それってもう家出というより「家を出て自立して三年が経過しました」とかいう話なのでは?
”家出して三年”ってちょっとしたパワーワードなのではないかと思った。
しかも私達ってことは、チェスカさんも家出中って事なのだろうか。
チェスカさんに視線をやると我関せずと言った感じで一人でケーキを食べている。
私にこの話をするという事は聞いていいって事なのだろう。
「何故、家出を?」
「家族と喧嘩したから…… もう家には帰らないって怒って出て行ったはいいんだけど……私達は今年で十八歳だし、強制的に実家に戻される前に自分で戻ろうかなって思ったんだ」
家族と…… だからあの時、私に家族仲を聞いてきたのね、ということは……
「仲直りする為に、戻るって事ですか?」
その時のルーシィさんは決意に満ちた表情をしていた。
「ううん、絶縁する為に戻る事にしたんだ」
えええぇぇぇっ!
私の予想の逆を行っていた。ウチの家庭事情から仲が良い事アピールしたからてっきり仲直りなのかと思ってた。
「本当にいいんですか……?」
「うん、あの人たちは私を利用する事しか考えない人達だし…… あのままだったら私は飼い殺しにされていたから」
その言葉の端々だけでも家族仲が壮絶なものである事が伺える。
そんなルーシィさんの表情はやはり暗い……。
利用する、飼い殺し…… その話はまるで政略結婚の材料にされる貴族のご令嬢の様だった。
え…… まさかね……
でも、口を開かなければご令嬢と紹介されても違和感はないと思う。
チェスカさんとコンビを組んでる二人の言動を見て、貴族という単語から最も遠い位置にいる人物にしか見てなかったから。
「チェスカと一緒に家出をしてから、とにかく遠くに行こうと思って、逃げた先の果てに辿り着いたのがここだったの……。他に生活費を稼ぐ手段もなかったから、冒険者になるしかなかったんだけど初めての事だったし、何もかもが手探りの状態から始まったけど、色んな人の手助けもあって一年無事に過ごす事ができたの…… ランクも上がって、調子に乗ってオークと戦って「あー、死んだ」と思った時に出会ったのがマルミーヌちゃんなんだよ」
あの時の事ね…… 私が六歳になって今日から魔獣狩りがはーじまーるーよーって浮かれてた日……。
「いやあ、あの時は本当に間一髪でしたよね…… 奇跡的に間に合ってよかったです」
「グランドホーンの件でもそうだったけど…… いつも私達がピンチになると颯爽と現れて助けてくれる。私達にとってマルミーヌちゃんはヒーローなんだよ」
目の前でここまで絶賛されると気恥ずかしい。
愛想笑いしかする事の出来ない私にルーシィさんはついげきをしかけてくる!
「奇跡……ううん、これは運命。マルミーヌちゃんと私達が出会うのは運命とか言いようがないの」
どんどんエスカレートして最早ルーシィさんの止め様が無い。
チェスカさんに視線をやるも、彼女は私からの視線を逸らしてケーキとのバトルに勤しんでいる。
おのれ…… あとで覚えておきなさい。
「それでマルミーヌちゃんにお礼がしたいんだ」
お礼はありがたいんですけど、話の内容がヘビーなだけに素直に喜べない。
「嬉しいですけど…… 素直に喜んでいいのか……」
「魔導武器…… 必要でしょ? だから余計に運命を感じちゃったの」
うん? なんで私が武器を必要としたら運命感じちゃったんですか?
そういえば、さっきの武器屋であの剣の事を知っている様な物言いだったけど……。
「必要って言ったって…… そんな簡単に手に入るものではないのでは……」
「大丈夫、そこは私に任せて」
ルーシィさんの事がよく分からなくなってきた。この人何者なの……。
そこで我関せずとしていたチェスカさんが割り込んできた。
いつもと違ってそこには飄々としたチェスカさんではなく、
「ルーシィ、本当にいいのね?」
「うん、もう決めたから…… でもチェスカまで無理に一緒に来な「バカ!!」」
ヒエッ、チェスカさんがマジ切れしてる。
普段、怒らない人が怒ると妙な迫力を感じるのは何故かしら……。
「アンタが私に言うべき言葉は「私にどこまでもついてきなさい」……これだけよ」
「…………ありがとう」
二人の置かれている状況は私ではうかがい知れない程に重いのだと思う。
それでも二人は支え合ってここまで来た。その二人の決意に水を差すわけには行かない。
私にできる事は笑顔で送り出して、戻ってきたら笑顔で迎える事……。
そして…… 二人は次の日にグラヴェロット領を後にした……。
また再会できる日を信じて……。
◆
あれから二カ月が過ぎようとしている。
私はアリリアス大森林で時間を見つけては魔獣狩りをしている。
いや、しまくっている…… と言った方が適切かもしれない。
しかし、ランクは一向に上がっていない。
理由は…… 二人がグラヴェロット領から出たその日…… つまり私が武器屋で粗相をした翌日の事だった。
ギルドに顔を出して二人が戻ってくるまでにさらに成長した私を見て欲しかったから決意を新たに頑張ろうと思った矢先の事。
受付に立ってるエミリアさんが手招きで私を呼んでいる。
何かと近づくと小さな声で「フェリシア様がギルドマスタールームで待ってるって」と耳打ちしてきた。
昨日の今日で何事? と思ってエミリアさんにギルドマスタールームへの行き方を教えてもらった。
階段を昇る最中にチラリとエミリアさんに視線を送ると、私に向かって合掌していた。
な…… なんで……。
その異様な光景に嫌な予感がした私は来たばっかりなのに帰宅したくて仕方なかった。
ギルドマスタールームが地獄への入口にしか見えなかったから……。
意を決してノックする。すると中から「入れ」とだけ声が聞こえて来た。
「失礼します」
空気が重い……。フェリシア様に何があったのだろう。
「何故…… ここに呼ばれたか分かるか?」
「いえ、わかりません」
私がそう答えると、部屋…… いえ、建物全体が震えだした。それどころか一階でくつろいでいるであろう冒険者達の悲鳴も聞こえてくる。
くうぅぅ、息苦しい…… 全身が震える…… 立ってるのがキツイ……。もう無理…… なんちゅう圧をかましてくるの、この人……。
「わからない? とぼけているのか、私をおちょくっているのか…… そうか、私を舐めてるんだな?」
な、な、なんで怒られてるのぉぉぉ?
私が『???』な顔をしていたらフェリシア様も『???』な表情をしていた。
「なんだ、その間抜け面は。本当に分かっていないのか? ……では聞くぞ、お前は昨日ギルドを出てからどこに行った?」
えっと…… 昨日はギルドを出てから武器屋に行って、そこで……………………
「あああああああっ!」
フェリシア様が頭を抱えてため息をついている。
「何が「あああああああっ!」だ、馬鹿者。お前は所かまわず暴れないと気が済まんのか!
いやああああああああああああ、これ以上女の子から遠ざかっていくネーミングはやめてえええええ。
「ギルドの代表として
副ギルドマスター? そんな人いたんだ……。謝罪が得意…… 面白い特技の持ち主の方なのね……。
そういえば、武器屋入る前から変な視線を感じたけど、関係ないかしら……。
敵意は感じなかったから放っておいたのだけど。
「分かりました……。以後気を付けます……」
「お前の謝罪は信用できそうもないからペナルティを科す事にした」
「えぇっ……」
ギルド入って二日目でペナルティとか…… 小説の追放モノで主人公が最初に絶頂から奈落に突き落とされるその気持ちがよく分かってきた……。
「なんだ、そのやる気の無さは……。ちなみに次やらかしたら両親を呼びつけて如何にお前が悪行を行ったかをこれでもかという程に四者面談で語ってやるからな、覚悟しろ」
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい、それだけはほんとおおおにまずい。
両親…… 特にお母さまに知られた日には……。一生外出禁止にされてしまう!
「喜んで対応させて頂きます!!」
私の気合の入った言質を取ったフェリシア様はとてもうれしそうにしていた。
「やる気があってとてもよろしい。では早速だが――」
何がとてもよろしいなのよ……。両親を呼ばれる事だけは何としても阻止しなければならない。
そんな私に課せられたミッションは最近増え気味の魔獣の間引き。
FランクからCランク相当の魔獣を2000匹狩るまでランクアップ一切なしの罰ゲーム。
一応換金は許してくれたからお金に困る事だけは無さそうで良かった。
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