第九十五話:お店に来ると目的と関係ないものもつい見ちゃうよね

 私達は現在、ルーシィさんとチェスカさんがおススメしてくれた武器屋に来ている。

 

 武器屋に入るのは王都で冒険者を行っていた以来だから結構ワクワクしながら入ったんだけど、その第一印象は……

 

 

 

 王都の武器屋より大きい!

 

 

 

 流石は冒険者隋一の人数を誇るグラヴェロット領の武器屋。人数が多ければ武器屋も大きい!

 

 パッと見た感じは”100人入っても大・丈・夫!”とか誇らしげに広告が打てそうな程。

 

 周りを見渡してみると、高価そうな武器はショールームの様にガラスケースに格納されている。

 

 近くで見ると、武器に詳しくない私でも目を引くような短剣、剣、槍などが並んでいる。

 

 サイズによっては当然入らない武器もある為、壁一面に飾られていたり、店員さんの後ろ辺りにまで飾られている。

 

 やっぱり剣が一番人気なのか種類が豊富っぽい。短剣や槍、斧、弓などもあるんだけどやっぱり取り揃えている数は段違い。

 

 かくいう私も昔は騎士としての手解きを受けたから基礎である剣を学んだ。

 

 冒険者になってもそれは変わらなかった。

 

 身体のサイズが平均よりも小さかった私はショートソードと小型のバックラーで魔獣狩りを行っていた。

 

 そんな過去を思い返すかのように端から端を移動しながら色々な武器を見ているとチェスカさんに話しかけられた。

 

「どう? マルミーヌちゃん、なにかお気に召すものはあった?」

 

「あっ、今は普段目にする事のない武器に興味があって見てました」


 そうだった…… 久しぶりに見て楽しんでしまった……。私は自分の武器を探しに来たというのに……。

 

「そうなんだね、その気持ち分かるよ。お店に来ると目的があっても関係ない商品をぐるっと見て回っちゃうもん」

 

 そんな他愛もない会話をしていると、ルーシィさんがいない事に気付く。

 

「あれ?ルーシィさんは……」


 先程から元気が無かったルーシィさんが私は気になっていた。

 

「ごめんね、さっきはルーシィが変な事を言っちゃって」


「ルーシィさんに何かあったんですか?ご家族と何かトラブルでも……」

 

「……私の口から言っていい話じゃないから、ごめん」

 

 確か二人は幼馴染だと聞いてた事があったから事情は知っているのでしょう。

 

 辺りを見渡してみると、元気の無さそうなルーシィさんを見つけた。

 

 ルーシィさんは壁に飾られている一本の剣を見つめていた。

 

 私も釣られてその剣に視線を送る。

 

 その剣は額縁に入っている程に他と違って扱いが異なっていた。

 

 近くに寄ってみると違いが分かった。明らかに出来栄えが他の武器とは違う。

 

 私は武器に対して目利きが効くとは思っていないけど、素人の私でもハッキリと分かるくらい他とは一線を画していた。

 

「…………すごい」


「凄くないよ、こんなの……」


 ルーシィさんは無表情でその剣を見つめていた。

 

 その言い方は目利きが効かない人間の言葉というより、まるで分かっていて・・・・・・わざと否定している…… そんな言い方に聞こえた。

 

 

 あれ………… これよく見たらどこかで見た様な……。

 

 全く同じ武器って訳じゃないはずだけど、これよりももっと凝った作りの剣……。

 

 

 そうだ、ジェラール様が持っていた武器にそっくりなんだ。

 

 私が使っている魔法である『纒』は武器の無い私は身体に纏わせていたけど、”本来の用途”は武器に纏わせて使用する魔法。

 

 『纒』の考案者であるジェラール様は所有していた武器に纏わせて戦っていた…… ここに飾られている武器がジェラール様の所有していた武器に似ている。

 

 

 あの武器は特殊な作りだと聞いていたけど、確か…………

 

 

「その武器が気になるのかい?」

 

 後方から声が聞こえてきて、振り返るとそこにいたのはお店の従業員の人だった。

 

「ええ…… 素人目ながら見事な作りだと思いまして見入ってしまいまして……」

 

「良い所に目を付けたね。この武器は新進気鋭の”ルシール”という鍛冶師が作成したる世にも珍しい”魔導武器”なんだ」


「ルシール…… 魔導……武器……」

 

「簡単に言えば魔導具の特徴を持った武器って事だね。魔導具って魔力をその道具に流す事で効果を発揮するでしょ? この剣の場合は、武器自体に魔力を滞留させる効果があるんだ」

 

 魔導具の特徴と言えば、魔力を流して使用する事の出来る道具。武器がその特徴を持てば当然魔力を流す事で本来の力を発揮すると考えるのが妥当。

 

 魔力を滞留…… つまり攻撃魔法をこの武器に使ってみたら…… それってつまり『纒』になるのでは?

 

 ジェラール様が持っていた魔導武器とそっくりな武器…… それに『纒』の性質……

 

 つまりこの武器から着想を得てるって事?

 

 

 剣じゃなくて、この魔導武器と同じ機能を持つガントレットがあればまさに私の理想の武器だわ!!

 

 

「ルシールさんの作成した他の武器を見せて頂きたいのですけど…… 出来ればガントレットとか」

 

 店員さんは申し訳なさそうな顔をしている。

 

 あっ…… これ絶対無い奴だ……。

 

「ルシールが活動していたのは五年前から二年程らしくて、数本の剣が世に出ただけでそれ以来は音沙汰がないんだ」


 剣のみ……。まあ、人気順でいったらどうしてもそうなるわよね。

 

 私の様に蹴って殴るタイプの方が珍しいのだから仕方ない。

 

 でもちょっとこの武器に興味があるわ……

 

「あの…… 握らせて頂く事って可能ですか?」

 

「振り回したりしなければいいよ」

 

 店員さんは大切そうに額に飾られていた剣を取り出すと私に渡してくれた。

 

 長さはブロードソードと同じだけど、軽い…… 魔導具用の金属は通常の鉄より軽い上に強度が高いし、何より魔力との親和性が滅茶苦茶高い。

 

 だったら普通にその金属を使えばいいじゃんと思うかもしれないけど、実はそうもいかない。

 

 この金属の産出国は魔導国家パラスゼクルでしか取れない貴重な金属。だからあの国は魔導国家として栄えたのだ。

 

 しかも未加工のまま他国への持ち出しには厳しい制限が掛かっているため、魔導具として作成されたもの又は武器として作成されたものといった加工済み以外の輸出はほぼ無理だと思った方がいい。

 

 私にはパラスゼクルに知り合いがいるはずもなく、大人しく武器屋巡りをするしかないのです。

 

 これに『纒』を使ったらちゃんと伝導するのかしら。

 

 

 ちょっとだけ、試してみたい……。

 

 

 私が握っている武器も私の一部…… 手の先から武器にも浸透する様に魔力を流す。

 

 流しているつもりではいるんだけど、いまいち実感がないわね。

 

 うーん、少しだけ『纒』を使って確認してみようかしら。

 

 

 まあ、少しなら大丈夫よね……。

 

 

 直前、背後からルーシィさんの大きな声が聞こえた。

 

《纒・紫電》

「マルミーヌちゃん、ダメっ! その武器は……」

 

 思った以上の声量に吃驚して、いつもの魔力量を流してしまった。

 

 剣から迸る稲光は私の予想をはるかに上回る勢いで放出されていく。

 

 まるで部屋中に大蛇が現れたかの如く、不規則な軌道を描いて稲光は部屋中を蹂躙していき、ショーケースウィンドウを悉く破壊していく。

 

「ヒエェェェッ! なんでっ、なんでっ、こんな……」

 

 パニックになった私は魔力をすぐに止めなければならないのに、止める? 止めるってどうやるんだっけ? などとわけわからない事をいっていた。

 

 

 

 必死の思いで魔力を止めた私に待っていたのは……

 

 

 

 とんでもない惨劇となった部屋の残骸と顔面に青筋を立てまくりの店員さんだった。

 

 

 

 彼は私の肩を叩くなり「わかってるよね?」と凄み、私は首を縦に振るしかなかった……。

 

 

 

 

 

 

 お店を出た私達は近くの喫茶店でお茶をしていた。

 

 先程、お店でやらかしてしまった私の所持金は弁償により底を突いてしまった。

 

 武器代金が…… どうしよう……。

 

 凹む事しか出来なかった私は余りの悲しみにテーブルに突っ伏していた。

 

 これでもかという程に大きなため息をついてしまう。

 

「ど、どんまい…… まあ、奇跡的に武器には損傷がなくて部屋中のガラスの弁償と部屋のリフォーム代で済んだだけでもヨシとしようよ」

 

 チェスカさんが笑いを必死に堪えて慰めてくれてる。頬がリス以上に巨大になっていて如何に笑いを我慢しているが見て取れる。

 

 もうちょっと顔に出さないでくれると嬉しいんですけど、チェスカさんには期待するだけ無駄と思った。

 

 でもまあ…… そりゃあねえ、武器屋であんな惨劇を引き起こしておいて傍から見てたら笑うなという方が無理かもしれない。

 

 

 もしもこの事態がギルドにでもバレたら……次はフェリシア様に『武器屋クラッシャー』とか命名されるかもしれない……。

 

 それだけは避けたい。

 

 

 そうだわ!!

 

 

 ククク、黙ってればいいのよ。

 

 そうそう、臭い物に蓋をするってね……。

 

 そんな不都合なものは見なかった事にすればよいと最低最悪の発想をしていた邪悪令嬢マルグリットにルーシィさんが話しかけて来た。

 

 

「あのね…… マルミーヌちゃん、私の話を聞いてほしいの」

 

 

 そんなルーシィさんは神妙な面持ちをしていた。

 

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