第八十九話:誕生日の後は冒険者ギルドへ

 私は誕生日が来て冒険者ギルドに行けると思い、浮かれていた事でつい忘れていた……。

 

 自分の誕生日パーティーがあった事を……。

 

 私達の国では十五歳の社交界デビュー以外は割とこじんまりとしたホームパーティが主流だったりする。

 

 上級貴族とかは見栄の為に毎年大々的に行ったりもするらしいけど、うちの様な下級貴族はそんな事をする必要もない。

 

 しかし、今回は色々あって友人となったクララ、婚約者(仮)となったイグニスフィールは呼びましょうという流れになった訳なんだけど……。

 

 

 

 これが本当に酷かった……。

 

 

 

 何がって? クララがイグニスフィールとの関係を知って大発狂して呪言を唱えながら昏倒するわ、覚醒したらでイグニスフィールに魔法を打ち込もうとするわで大変だったわ。

 

 この話をする直前まで『えっ、伯爵家のご子息ですか』とか緊張気味だったのに、即座に隠すことなく殺意剥き出しになっていてミスったと反省しました。

 

 『ギエエエエァァァァァ!!! こっ、これがNTR寝取られる側の気持ち!! 小説では味わえない生のNTRううううう! 脳があああああ! 脳が壊れるうううぅぅぅ』

 

 この後、クララにはちゃんと(仮)であること、十八歳までに私以外の誰かに気持ちがあればそちら優先でと言う話をしたら…… 直前までギャン泣きしていたクララの涙は一瞬でひっこみ、悪そうなチンピラの様な表情をしていた。

 

 今の貴方、あの時絡んできたチンピラよりも酷い表情してるわよ…… とは言えなかった。なんか怖いし……。

 

 何を考えているかは聞かなくてもなんとなくわかる……。イグニスフィール…… 地獄の誕生日パーティーから無事に生還出来る事を祈ります。

 

 『フレイムロード様……。私の新魔法の実験台になって頂けませんこと? マルグリット様の婚約者(仮)であれば造作もありませんわよねぇ』

 

 クララはまた一段と強くなっていた。私ですらヤバイと思ったほど。まあ、ヤバイ理由の大半はイグニスフィールへの殺意によるものなんでしょうけど……。

 

 流石にうちの屋敷が破壊されるのはよくないので、間に入りましたけどね。

 

 ペトラ戦以降、彼女は感情の起伏が激しい。ペトラへの信頼がまるまる私への依存に変わった気がする。

 

 よせばいいのにイグニスフィールも売り言葉に買い言葉でクララを煽り出す始末……。貴方そういうキャラだったの……?

 

 『ふふん、僕は彼女の事をマルグリットと呼んでるんだけど、君は…… 大分距離感があるようだね』

 

 『はぁ!? 私はマルグリット様から数カ月間マンツーマンで魔法を習っていたんですが? 数回会った程度で仲良くなったアピールとか、にわか風情が笑わせますわね』

 

 『僕は婚約者という理由だけで君より遥かに近い位置にいるんだ。ごめんね(笑)』

 

 『(仮)と聞いてますわよ、(私の罠により)どこぞのご令嬢でも嗾けられて火遊びがバレて破談されないようお気をつけあそばせ』

 

 『はぁ?』

 『あ”?』

 

 二人共お互いを睨み合う始末にまで発展。

 

 貴方達、貴族なんだからもう少し節度を持った対応を心がけてと言いたい。

 

 そんな二人を少々遠目から観察していたお父さまはクララを応援してたらしいし、お母さまは「まぁ、二人共もう仲良しさんなのね」どこ見てるんですか?と疑いたくなる程すっとんきょうな発言をするし、お兄さまは巻き込まれるのが怖くて隅っこで背景になっていたみたい。

 

 

 私は二人の仲裁やらでほぼ一日を費やしてしまった気がする。

 

 そんな二人は帰り際まで争い続けていた。

 

 どっちが先に馬車を出すかすら競争になっていたし…… 貴方達は帰る方向別々よね?

 

 疲れた…… あれ……? この日って…… 私の…… 誕生日…… なんだよね?

 

 今までになかった程に賑やか(?)だったから良しとしましょう。

 

 

 

 という感じであまりの疲労っぷりに翌日は休みました……。

 

 

 

 そして、今日!

 

 ようやく冒険者ギルドに行く事にしたのです。

 

 緊張するわね。何しろ前回は家に引きこもっていたからグラヴェロット領の冒険者ギルドに顔を出した事すらなかった。

 

 ガルカダに着いたはいいけど、いざ冒険者ギルドに顔を出すと思うと心臓の鼓動が早くなるのが分かる。

 

 行き交う人々をみると、やはり冒険者風の出で立ちをしている人が多く感じる。

 

 改めてこの領は冒険者が多いんだなあって実感する。

 

 そうよね、何しろ国内最大級の人数を誇るんだもの。その分、トラブルも多い。

 

 だから領軍が衛兵の役割も担っている。うちの領軍は人数は多くはないけど、質が高い事は知る人ぞ知るって感じ。

 

 うちは国内外からかなりの腕っぷし自慢が集まるけど、内情を知らない血気盛んで来て間もない冒険者は衛兵に喧嘩を売るも返り討ちにされる事が多い。

 

 領軍も喧嘩っ早い人は多いけど冒険者をそこまで痛めつけたりはしない。

 

 必要以上に恐れられてしまわない様にと言う理由と彼らは私達――領主家にとっては一労働者でもあるから。

 

 彼らがいてくれるからこそ私たちの暮らし、インフラ整備、領軍の維持を始めとする領の運営が行える。

 

 他の人からしてみれば野蛮だのなんだの言われても私達にとっては大事な存在なの。

 

 だから、喧嘩を売られたら”わからせ”程度にはしてあげましょう。

 

 

 そうこうしているうちに冒険者ギルド本部が見えて来た。

 

 そう、冒険者ギルドの国内本部は王都ではなくここグラヴェロット領なのです。

 

 なんでこんな南西端が本部かというと……

 

 ・魔獣が多い

  ↓

 ・冒険者が集まる

  ↓

 ・規模が大きくなる

  ↓

 ・冒険者を纏める為にさらに国内最強冒険者が来る

  ↓

 ・強いものに興味がある国内外から強者が集まる Now!

 

 と言う流れで国内最大規模になった上に、荒くれ者達を纏める為に国内最強とされる冒険者をギルドマスターに据える事になった。

 

 腕自慢の人達って何故か、より腕自慢の人に従いやすいという習性がある。

 

 ただし、腕だけで頭が悪い人がギルドマスターになったところで運営が回らない恐れがある為、当然知能、知識も含めて総合的に判断される。

 

 

 そろそろ見えて来た。


 

 遠目から見ても建物は大きい……。うちの屋敷より大きいと思う。

 

 確か、昔に見た資料だと地下一階、地上三階建ての規模だったと思う。流石は国内最大級……。

 

 私の身体が小さいせいか入口がやたら大きく感じる。

 

 入口前でウロウロしても仕方がない……。

 

 ここは勢いよく常連のフリをして如何にも慣れてますな表情で入っていくのがベスト!

 

 

 小説などで登場する冒険者ギルドは見た目が気弱なぼくちゃん、おじょうちゃんは舐められる傾向にある。

 

 舐められるだけならまだいいんだけど、阿呆が相手だといちいち突っかかって来るから面倒臭い。

 

 しかし、実は強い主人公は阿呆の腕を捩じ上げて『目立ちたくないのに、やれやれだぜ』とか言いながら蹴り飛ばして気絶させたりするムーヴを行うのが定番。

 

 

 ククク、この手の小説を散々読み耽って予習バッチリのマルグリットさんに挑んでくるボンクラ共よ、覚悟しなさい。

 

 よしっ、行くわよ!

 

 入口に手を掛ける……

 

 

 ん?

 

 

 思ったより重量あるわね……。

 

 ちょっと力任せで「ふんっ」とドアを押したら、思ったよりも勢いがつき過ぎて”バンッッッ!”と思いっきり音を立ててしまった。


「あっ……」

 

 その音に振り返る冒険者達……。

 

 中は思った以上に広い…… その分、予想を超える人数がいるし、その人数の大半がこっちを見ている。

 

 目線だけで全体をササっと見て見ると、確かにガタイの大きい男性が多い。女性はちょこちょこいるわね……。

 

 目つきは誰もかれもがギラギラしている。王都のギルドに通っていた頃を思い出すわ。

 

 

 

 しかし、いきなり目立ってしまった…… 思いっきり失敗したかもしれない。

 

 

 

 いえ、ここで負けてはいけない。私には舐めてかかってくるボンクラ共を叩き潰す主人公ムーヴをする必要があるの(やりたいだけ)。

 

 私がゆっくりと歩いていくと、私の足音だけが室内に響く程に静かになってしまっている。

 

 

 

「おい、お嬢ちゃんよぉ」

 

 

 

 キタァァァッ! 私は声の主の方に顔を向ける。

 

 そこにいたのは、筋骨隆々でスキンヘッド、身長は二メートル弱と言った所かしら。

 

 ノンブルー・ウルスより小型ね、見た感じの評価だとD…… いえ、Cランク低位の魔獣ってところかしら(失礼)。

 

 ククク、やられ役の定番スタイルじゃないの。

 

 おめでとう、貴方はマルグリットの獲物第一号よ。

 

 さぁ、貴方はどんな声で鳴いてくれるのかしら……。

 

 

「なんか分からねえ事は無いか?」

 

「へぇっ!?」

 

 いけない、予想に反した内容でついマヌケな声を上げてしまった。

 

「どうかしたか?」


「い、いえ…… 失礼しました。その様に親切な声を掛けて頂けるとは思ってみませんでしたので……」


 どうやら私の発言は彼にとっては傷つく発言だった様で、眉がへにょんとなって明らかに落ち込んだ表情をしている。

 

「やっぱ顔が怖えのがいけねえんだよなぁ…… 昔っからこうで、この間なんかよぉ――」


 何故か彼の悲しい物語を聞くことになったのだけれど、暫く聞いていた所……

 

 

 私の背筋にゾっとしたものが走った。

 

 

 何が起きたのか分からずに辺りを見渡すと……

 

 周りの冒険者達は下を向いて静かにしている。

 

 私に話しかけてくれていたスキンヘッドの彼は口を噤んで、周りの人達と同様に目線を下に向けている

 

 

 

 まるで…… 誰かから視線を逸らすように……。

 

 

 

 足音が聞こえる…… 私はその方向を向くと、階段の上にその人はいた……。

 

 

 

 一人の女性が腕を組み、こちらを見ているのが分かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る