第4話 うちのママは美人で変人なのです


 天国にいるパパ。

 写真でしか知らないパパに会いたいです。

 会って甘えさせてもらったら、まっさきにパパをグーで殴らせてほしい。


 ママの様子を見ていると、どうやらパパを溺愛しています。

 毎日パパの話をしてくれます。

 これは私が物心ついてからずっとです。

 それくらい素敵な夫婦だったのでしょう。

 

 だからこそママは悲喜こもごも複雑な思いはあると思います。

 けれどそこまで溺愛させて早死にはダメだと思うの。

 

 ママは悲しみ過ぎて奇行をします。

 よく「菫、ママはね。……転生者なのよ」とか言うんですよ?

 すっごく良い笑顔で斜に構えながら。ラノベのネタじゃないんですから。

 私はパパとママと同じ東大を目指していますが、もしかして東大とは中二病の集まりなのでしょうか?

 

 でもママはシングルマザーでも私を寂しがらせない様にいつも笑っています。

 本当は外に働きに行けば何でもできる人なのに、私の育児を優先して在宅でできる仕事をしています。

 一度母校から講師の話も来たのに断っています。

 ママは「わたしに来てほしければ教授のポストくらい開けときなさいよね! オーホッホッホ!!!」と高笑いしてましたが、夜中にトイレに起きると、寝室からママのすすり泣きが聞こえました。貴方のいないあそこには行きたくないって。


 私の前では完璧超人のママ。

 幼馴染の秀くんのお父様がガンで早くになくなった時、悲しみに暮れ、何も出来なくなった秀くんのお母さんを守ってくれました。

 お通夜の日にやってきて、恥知らずにも遺産の分配について喚いた親戚たちに決めたとび膝蹴りは芸術点が高すぎて、録画しなかったことを今も後悔しています。

 

 そして「貴方たちは通夜の意味を知らないの? 明日には荼毘に付される故人を偲び、思い出を語りながら送り出す為にあるの。それが下劣にも金の話? 品性の欠片も無いわね。貴方、皺の数だけ年を重ねて何を学んできたの? 少しでも恥を知っているなら、今すぐ帰りなさいな。そもそも遺言状がなければ法に則り相続されるのよ。あとここで朗報よ。彼の生前にうちの人がアドバイスして、財産らしい財産は既に生前贈与を済ませてます。だからお前らみたいなチンカス共に一円もあげませーーーーん! バーーーーーーーーーーーカ!!!!」って一刀両断です。

 

 パパ、どうしてママを野放しにして死んだの?

 後半ヒートアップしたママが全員に執拗に膝裏を狙ったローキックをして追い出して、塩を撒いたら鼻に入って涙が止まらなくなってましたよ?

 他にそこに居た人全員無言で拍手してたよ……。

 天才側の人間を好き勝手させたらダメなんですよ?

 

 それで終わればまだよかったのに、ありがとうありがとうってボロボロ泣いている秀ママの腰を抱いて、顎をくいってしながら「心配しないの。貴方にはわたしがついているのよ? ふふっ」って。

 子育ての為に前下がりボブにしたママはさ、そのスタイルも相まって男装の麗人めいた色気があるのに、それで秀ママにそんな事したらダメでしょ。

 秀ママも思わずボソっと「……だめ、濡れそう。あなたすみません(小声)」って言ったの聞いてたからね私。


 密かに恋している秀くんのお母様を篭絡する自分のママ。

 娘の私はどう反応すればいいの!?

 というかママは私のママなのだから秀ママは触らないで欲しいんですけど?

 

 それにね、ママはゲームにハマり過ぎて大変なんだよ。

 戦車のゲームの世界大会があるって言いだしてね。

 ふーん、ママって凄いんだね。Eスポーツのプロになるの? なんて聞き流していたら、翌日、たしか水曜日だったけど、急に今日は早く帰る様にって言うの。

 どうして? って聞けば「チームの仲間が遊びに来るから一緒にご飯いこうね?」って。


 だから部活を休んで家に帰ると、うちの傍に大きなシャトルバスが停まっていた。

 なんで住宅街にこんなバスが? とか思いつつ帰宅すると、ガチでメイクした本気ママが待ち構えていて、私にも本気お洒落を施すと、じゃあ行きましょうって外に出た。

 そしたらバスに乗り込む事に。


 え? 意味が分からないんですけど……。

 そしたらママ、これから成田空港に行くわよ! って。

 なんだろう? 事前説明とかしておいてもらってもいいですかね?

 で、成田につくと、中から出るわ出るわパリコレのショーモデルみたいな美形の集団が。

 それが満面の笑みでバスに乗り込んできて、アリス! アリス! って全員がママと親し気にビーズを交わしている。


 もうね人種の万博博覧会だよ……。

 イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、ポルトガル、イタリア……。

 そしてママは「わたしの最愛の娘のためにこれからは英語でおねがいねっ」と叫ぶと全員私を見ながらサムズアップ。

 わかる? 20人からいる美人集団に囲まれて見られる圧の凄さは……。

 

 いやうん、遠い記憶をたどれば、秀くんの持ってた戦車のおもちゃを私が欲しいって駄々をこねて、それを見かねたのかそのゲームを探して動いている戦車を見せてくれてさ。

 うん、だから凝り性なママがハマったんだけどね……私のせいじゃん。

 

 で、何か国語で喋ってるのか知らないけど、色んな言葉でチャットをしてて、それを秀くんと見ててさ、ママ格好いいなあ……ってなって英語を習ったりしたから文句も無いんだけどさ……。

 でもまさか10年以上も、それもガチ勢でやってるとか思わないじゃん。

 クランとか言う集まりはママが呼びかけて作ったらしいし、欧州のクラン同士の大会では5年連続チャンピオンとか頭がおかしい成績らしいし。


 で、今回は大会にかこつけたオフ会で、漸く直接会えるね! ってみんなテンション高すぎて困る。

 これで全員アラフォーって言うんだから洒落になってないよ。

 そして外国人大好き焼き肉屋に行ったんだけど、スレンダー美魔女どもが上々苑で遠慮なく食べたら、会計が100万越えてて唖然としたよ。

 

 ママも作家で相当稼いでいるけどさ、流石にこれは……と思ったら、イタリア人のソフィアさんがスっと限度額の無いカードでチェックしてたよ……。

 聞けば旦那さん、イタリアで手広くやってる食肉加工業の創業者で、道楽で競走馬を何百頭も所有するガチ富豪だったよ……。

 日本に来た手段も一般航空会社は使わず、プライべートジェット数機に乗り合いで来たんだって。

 つまりこの集団の中にソフィアさんかそれ以上の富豪が何人かいるんです……。

 もういやぁ……。


 その後はそのままバスで大会の会場であるお台場に向かい、その近くにある超高級外資系ホテルのエグゼクティブフロア全てを貸し切りでそこに宿泊。

 これも誰かがお金を出しているんだろうけれど、そんな野暮な事は誰も言わない。

 だから怖いんだよぉ……。


 そして一際大きな部屋に集まってさ。

 ママも含めて全員ランジェリー姿のパジャマパーティだよ……。

 値段をツッコミたくない高級シャンパンをガブガブ飲みながら。

 そこに違和感なく混ざってるというか、中心にいるママはなんなの!?

 

 で、全員がママに甘える様にしなだれかかり「アリス、貴方がプッシュしていた奴はやくみせなさいよ」とか言うの。

 なんだろう? 私は首をかしげていたが、ドヤ顔のママがバッグから取り出したのは「水曜どう○しょう」のDVDだよ……。

 なんか全員FOOOOOOOO!!!とかなってるけども。


 そして上映会が始まった。

 ママが特におススメだという「ユー○ン川160キロ川下り」の回。

 で、不思議なのはママがツボに入る所で彼女たちもゲラゲラ笑っている。

 ソフィアさんがイギリス人のレラさんに「あの演者の髪ってあなたのアンダーヘアーみたいね」とか下品なジョークを飛ばしつつ。


 なんで理解できてるのか謎過ぎる。 

 でも聞けば全員アリスがそこまで面白いって言うなら……って動機で、全員ある程度の日本語を学んでたんだって。

 綺麗で金もあるのに頭までいいとか……ってママがその権化か。

 お金はまあ、ちょっとある程度だとしても。

 

 それで私は次の日当然学校があるんだけど、やはり誰かがチャーターしたというハイヤーに乗せられ自宅に戻り、準備したら学校まで送ってくれたよ……。

 大会があるのは週末の土曜日で、それまでは観光をするとか。

 なんかSNSで「銀座にヤベー集団いたぞ」みたいなのがトレンドになってたけど私は知らない。知らないったら知らないの。

 それに「エグい美人の集団が浅草寺で煙塗れになって大騒ぎは草」とかナンジェイでスレ立てされてたけど知らないんだからね……。


 そして当然のように世界大会は開催されるんだけど、そこにママの軍団がハイソサイティの極みたいなファッションでやってくる訳で。

 会場は言ってはあれだけどゲームやってる層って普通はアレでしょ?

 服装だって普通のカジュアルだしさ。

 そこに派手なお姉さま達が国際色豊かな言語を飛ばしつつ、けどガチ勢がドン引く程に統率の取れたエグいプレイで試合と言う試合を蹂躙し、優勝のインタビューではママ以外に日本語のネイティブスピーカーはいないから、主催者側が興奮して母国語を喋るママ友(笑)達に泣きそうになってさ。


 たまたまロシア圏の国にある本社から来ていた人が慌てて入り、英語インタビューに切り替えて事なきを得たけど、Eスポーツ系のサイトには満面の笑みで並んでいるママ達と言う、派手すぎる写真が掲載されたんだ。セレブ、オタクを蹂躙とかコピーがついて……。ましてママは作家であるアリー蜜柑だって速攻バレてたから余計大騒ぎさ。


 というかそのペンネームさ、自分の本名の愛称であるアリーと、ペンネーム決める時に何となく食べていた有田みかんのダブルミーニングってドヤ顔してたけど、センス無いことに気づいて。

 それ、ママの担当の編集さんから聞かされた際の娘の居た堪れなさに気づいて。


 こんなママにしたのはパパが死んじゃったからだよね?

 出来る事なら無理やりでも生き返って欲しいよ……。

 

 それにね、売却したって言う上野のマンションもさ。

 購入したのってお祖父ちゃんなんだよ。

 後でそれが判明して怒ったママがお祖父ちゃんにキレてたけど、いつもは優しいお祖父ちゃんが真っ赤な顔で怒りながらママをビンタして、「吹っ切れてもいないのに断捨離のつもりか? それはお前の心を捨てる様なものだ。それを圭太先生は喜ぶのか?!」って怒鳴った。

 教授だもん! って言い返してビンタのお替わり貰うのは笑いそうになったからやめて。


 ママは崩れ落ちて手で顔を覆ったまま子供みたいに泣いた。

 寂しいよ、寂しいよって。

 私はもらい泣きしてしまった。

 それくらい遣る瀬無い気持ちになるよ。

 あんなに綺麗で自信満々で、他人に羨望されてばかりのママも、結局はただ一人の女性でしかないって改めて理解させられた。

 

 でもママは無理やりでも気持ちを吐き出したからか、気持ちがリセットされた様で、その日以降、無理して笑う事はしなくなった。

 まあマンションのカギをお祖父ちゃんに渡されて、たまに一人で読書をしに籠っているけれど。

 ママは私のママで、いつも私を一番に愛してくれる。

 それでも未亡人な訳で、時にはただのアリスになって泣きたいよね。

 

 そう思うと共に、それほどに誰かを愛する事が出来たママを羨ましく思った。

 パパに嫉妬するよホント。

 ママ、大好き。

 ずっと私のママでいてよね。


 それはそれとして、秀くんさあ……「アリスさん可愛すぎかよ」ってたまに言うのやめて貰えないかな? 

 嫉妬でキレそうなんだけど? 知ってるんだよこっちは。いつも横目で私のおっぱい見てるのをさ。

 でもママもさ、たまに天然でデレるのホントやめてくれるかな?

 計算が無い分あざとさがブーストされるんだよ? 破壊力凄いから……。

 

 クール系中性的美人さんがさ、にゃんにゃん♡って言いながら野良猫構うのやめてもらっていいですかね? 勝てる気しないんで。

 これもパパのせいって事でよろしいか? 

 とにかく絶対に許さないから。

 

 ママは私の物だから(錯乱)

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