第17話 全能神、魔族の正体を知る

 王都ロントモアーズの上空には魔族たちがいた。

 その数、100体はいるだろうか。

 空から魔法攻撃を仕掛けているようである。


 魔族は魔王であるヴィシュヌの支配下だ。


 俺は心の声を使った。


『ヴィシュヌどうなっているんだ!? 部下の魔族にロントモアーズを攻める指示を出したのか!?』


『いえ。そんな指示は出していません。それどころか……。あんなタイプの魔族。わたくしは知りませんよ』


 ヴィシュヌが知らない魔族だと!?


 海城たちはロントモアーズから立ち上る煙を見て、嬉しそうに眉を上げた。


「ウハ! なんかのイベントかな?」


 玲本は首を傾げる。


「あんなイベントあったっけ?」


 郷田は眉を寄せた。


「自動発生のイベントかな? 運営も知らないタイプのやつ。なんにせよ、魔法壁で囲まれた王都が攻撃されるなんて派手な演出だな」


 こいつらにとってはゲームの世界でも、俺にとっては現実なんだ。

 王都が攻められれば沢山の人が死ぬことになる。


 俺が行って一掃してもいいが俺の正体がみんなに知られるのはまずい。

 俺のことが運営に通報されるのは困るんだ。


 正体を隠しながら魔族を一掃しよう。

 海城たちを利用するんだ。


「カイ! 英雄にしてやる」


 3人の体は宙に浮いた。


「え、え? なんすか!?」

「きゃあ! あたし飛んでるわ!」

「うお。俺も浮かんでるぞ!」


「これから魔族を倒すんだよ」


 こいつらの体を操作して魔族を倒そう。

 

 俺は海城らと空を飛びロントモアーズへと飛んだ。


ギュゥウウウウウウウウン!!


「ウハ! シンジさん凄ぇええええ!!」


『ゼクス様。わたくしもお供します!』


 さて、魔王も知らない魔族とはどんな存在なんだ?


 俺は王都に到着すると、即座に着地して建物の物陰に隠れた。


「あれぇ!? シンジさん、どこ行くんすか!?」


「シンジ様は影からあなたを操って援護します。あなたは指示通りに動けばいいのです」


「じゃあ、俺たちとヴィシュヌさんとで魔族と戦うんすね! くはーー! 胸熱っす!!」

「んきゃーー。ちょ、最高じゃん!」

「ぬおお! 燃えて来た!」


 俺の聴力ならば上空の声もはっきりと聞こえる。

 離れていても状況はわかるから、隠れていた方が都合がいいんだ。

 王都のみんなは海城たちに注目している。目立つのはコイツらに任せよう。


 魔族らは空中から王都に向けて魔法攻撃を放っていた。


「攻撃をやめい!!」


 ヴィシュヌの言葉は空を切る。

 魔族らは、攻撃をやめなかった。


 彼女の命令が効かない。

 やはり、特殊な魔族だ。


 そこへ、1人の甲冑を着た男が彼女の前へとやって来た。

 男が手を伸ばすと、その合図をきっかけに魔法の攻撃は止まった。

 どうやらリーダーのようだ。


「私は魔王グフター。お前たちは何者だ!?」


「ちょっとヴィシュヌさん! いきなり何、嘘ついちゃってんすか!?」


 彼女は海城を無視したまま、魔族たちを睨みつけた。


 男はニヤニヤと笑った。


「ほぉ……。あなたが魔王?」


 男は鋭い目を細める。

 赤い肌。燃えるような立髪。

 額から大きな角を生やす。


 マントを靡かせ、手には大きな槍を持っていた。


「ククク……魔力もないのに、あなたが魔王とは笑わせる」


「お前、私の洗礼を受けていないな?」


「俺の名は魔神ウーノ。魔王グフター様の分体だ」


 分体だと?

 自ら魔神を名乗るとは、単なる雑魚とは違うようだな。


「どうやって出現した? グフターの体には私が施した封印の鎖が巻かれているはず」


 そうだ。

 その影響でグフターの髪から出現する魔族は、全てヴィシュヌの支配下になっているんだ。

 命令すればお茶を入れるほど従順になっているはず。


「昨日、一瞬だけ、鎖の封印が解かれた。といっても時間にすると1秒ほどだがね。その隙にグフター様はご自分の魔力を分けて俺を作ったのさ」


 昨日だと?

 俺がグフターを消滅させようとしてゼクスキャリバーを出した時だ。


 あの時、俺の全能力に呼応してヴィシュヌの封印が一瞬解かれてしまったのか。

 まさか、その隙をつかれるとは……。


「ここにいる108体の魔族は俺が生み出した。だからお前の洗礼は受けていないのさ」

 

「目的はなんだ? 人類を絶滅させることか?」


「ふん。人類なんてどうでもいいさ。この街を攻撃していたのは、お前を探していたからにすぎん。魔王を名乗る不届き者、ヴィシュヌバール」


「ほぉ。それは光栄だ」


「お前を殺してグフター様の封印を解く」


「この野郎! ヴィシュヌさんみたいな美人を殺そうなんて許せないぞ!!」

「そうよ! そうよ! 魔王を名乗る冗談くらい誰だってやってるわよ!」

「カイ! 俺たちでやっつけよう!」


 ウーノが手を軽く上げると、そこから巨大な波動が出現した。

 それは暗黒の力が集約した技。


ブォオオオオオオオッ!!


「まずい!」


 俺はいそいで海城たちを操作。

 その波動から避けるように動かした。


 しかし、玲本と郷田に当たってしまう。


「きゃああッ!!」

「うぁああッ!!」


 すかさず、Deadの表示が出て強制ログアウトされた。


 残ったのは海城とヴィシュヌの2人。


 消えた2人は俺を虐めていた過去があるからな。

 デッド判定を受けてもなんとも思わないが、駒が減るのは困る。


 やれやれ。

 全能神の俺でさえ避けるのが難しい技か。

 なかなかやるじゃないか。


『ゼクス様! 今の技。私では避けるのが精一杯です。それどころか、喰らえば死んでしまいます!』


『ああ、その様だな……』


 海城に頑張ってもらうか。


「ひぃぇえええ……。ヴィ、ヴィシュヌさん逃げましょう! 戦略的撤退です!!」


 いや。

 お前も消えた2人同様。俺を散々虐めて来たからな。

 その罰は受けてもらう。


「シンジさん! 流石に無理っす! 引き返しましょう!!」


 お前に、逃げる選択肢はない!





 

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