第16話 全能神、大人の階段を昇る

〜〜サリィナ視点〜〜


「はぁ〜〜」


 と、窓から見える星空を眺めた。


 シンジさんがこの孤児院に住んでくれるなんて本当に嬉しい。

 毎日、彼と会話ができるなんて夢のようだ。


 あの人は、とても澄んだ心の持ち主で、誠実で、凄まじく強い。

 私の人生で、こんなに素敵な人に出会ったのは初めてだ。

 

 でも、あのヴィシュヌさん……。

 彼女とはどういう関係なのだろう?

 冒険の仲間だけではないような感じがする。

 随分とシンジさんを慕っていたようだけれど……。

 恋人だったらどうしよう……。


「はぁ〜〜」


 あ、またため息ついちゃった。

 

 少し、みんなの様子を見に行こうかな。


 私は蝋燭に火を灯し廊下を歩いた。

 扉の前で立ち止まる。


「ここが、シンジさんの部屋……」


 きっと、子供たちとぐっすり寝ているんだろうなぁ……。

 

 少しだけ扉を開けて中の様子を伺う。


 うん。

 やっぱりみんな寝てる。


 心の中で、シンジさんが起きていて、2人きりで話せることを期待していた。


 子供たちに囲まれてシンジさんの姿は見えないけれど、きっとあの中にいるのだろう。

 起こしちゃ悪いから、このまま帰ろうかな。


「ゆっくり休んでくださいね。シンジさん」


 と、廊下を歩いて戻ろうとした時。


 ギシギシと、何かがきしむ音がした。


 なんの音だろう?


 それは2階の部屋からだった。


 魔法剣士カイさんたちが泊まっている部屋からだ……。


 階段を登り、2階の廊下へと行く。



「あんッ♡」



 え?

 こ、この色っぽい声は、もしかして……。


 ギシギシとなっているのはベッド!?



「あん! ああん!」



 ええええええええええええええええ!!


 はわわわわわわわわわわわわわッ!!


 き、聞いてはいけないものを聞いてしまいましたぁあああ!


 これはあの音だ!

 だ、男女がする夜の営みぃいいいい!!


 は、はじめて聞いてしまった……。

 

「ああん♡」


 ……い、一体どんなことをするのだろう。


ゴクリ……。


 私の足は前へと進んだ。

 

 み、見てみたい。

 私の中に、こんな邪な心があるなんて、初めて知った。





〜〜シンジ視点〜〜


 翌朝。


 ことを終えた俺は、明け方近くにここへ来て再び寝たのである。


 俺は、幼女らの真ん中で、昨晩のことを思い出して感慨に耽っていた。

 大人になった実感である。


 月明かりに照らされたヴィシュヌの裸体は、それはもう女神の如く美しかった。

 乱れる髪、揺れる胸。


 ああ、最高だったな。

 ヴィシュヌは従順で何をやっても許容してくれるんだ。 


 まさか、異世界で童貞を捨てるとは思わなかったな。


「お兄ちゃん、何、ニヤニヤしてるの?」


 と幼女が純粋な目でこちらを覗く。


 見るな! 

 俺は汚い大人になってしまったんだ!



 食堂には朝食を食べる為にみんなが集まった。


 海城たち3人は示し合わせたように揃っていた。


「シンジさん。おはようっス」


 こいつら、学校はどうなっているのだろう?


 少し聞いてみるか。


「なぁカイ。お前たちは学生だよな。ちゃんと学校には行っているのか?」


「ははは。嫌だなシンジさん。俺たちは真面目っすよ。ログインは学校が終わってから合わせてますって」


 なるほど。

 寝ている夜の時間を飛ばして来たのか。


 それにしては、向こうの世界とこっちとじゃ時間軸がズレているな。

 就寝時間はせいぜい10時間くらいだ。海城が学校に行っているのなら、更に10時間は経過していなければならない。

 つまり、ここの世界では20時間が経過しているはずなんだ。

 そうならないということは、やはり、この世界の時間軸は向こうの世界とはリンクしていないことになる。


 俺は、この世界で現実のように時を過ごし、海城たちはゲーム感覚で時間を体験することになるのか。



「全能神ゼクスアラードの加護の元。この食材を与えてくれたことに感謝いたします」



 サリィナの祈りで朝食が始まる。

 

 俺は彼女の隣りでパンをかじった。


「シンジさん。昨日はゆっくり眠れましたか?」


「ああ。ぐっすりね」


「そ、そうですか……」


 と彼女は顔を赤らめる。


「どうかした?」


「あ、いえ……。よく眠れたのなら良かったです。えへへ……」


「何か言いたいことでもありそうだな」


「…………」


 俺は耳を近づけた。


「どうしたんだ? みんなには内緒にしておくから言ってみなよ」


「……じゃ、じゃあ。お言葉に甘えて言ってしまいますね」


 彼女は声を潜ませた。


「昨日……。聞いちゃったんです」


「何を?」


「そ、そ、その……。だ、男女がする夜の営みの声をです」


「!?」


 しまった。

 俺とヴィシュヌの行為を知られてしまったのか!


 サリィナは海城らを見つめた。


「きっと、あの3人の誰かですよ」


「え?」


「だって、2階から聞こえて来たんですから」


「み、見たのかい?」


「いえ。声だけです。の、覗き見なんて、全能神の罰を受けてしましますよ。直ぐに引き返しました」


 その全能神が行為に及んでいたと知ったら、彼女はどれだけ絶望するのだろうか?


「ほ、本当に直ぐに引き返したんですからね!」


「え? あ、うん」


 とりあえず良かった……。

 僧侶レレイーラ、こと玲本は女だ。その玲本と海城、もしくは郷田が寝たと勘違いしているようだな。

 彼女にはバレていないようだ。


 その時である。



ドォオオオオオオオオオオン!!



 凄まじい轟音で孤児院が揺れた。


 なんだ!?


 俺たちは外に出た。


 サリィナは、


「シンジさん。見てください! あれ!」


 と指を差す。

 その先には、王都ロントモアーズから煙が上がっていた。


 空には無数の人影が映る。

 それは大小様々。中には明らかに人でないシルエットまであった。


 魔族か!

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