第14話 全能神、世界の歴史を知る
ヴィシュヌは、本当に嬉しそうだった。
紅茶を口に含んではチラチラと俺を見つめる。
そして、目が合えばニコリと微笑む。
きっと、余程、俺のことを心配してくれていたのだろう。
少し経緯を話そうか。
「俺がシバを斬った時、黒いオーラに覆われてな。その代償がこれだ」
俺は手の平にある黒い痣を見せた。
「それは?」
「シバの呪いさ」
「呪い……」
「この痣の影響だと思うのだがな。凄まじい睡魔が襲って来たんだ。俺は争うことができずにマグマの中で眠ってしまった」
「……そんなことがあったのですね」
「おかげで1億年も眠ってしまったがな」
「……あの後。ゼクス様が眠りについた後。我々は魔神軍に勝利しました」
良かった。
そこは思った通りだな。
「数百年間。ゼクス様の捜索にあたりましたが、見つけることはできませんでした。ゼクス様のお力を感じ取ることができなかったのです。本当に申し訳ありませんでした」
「いや、こうして会えたから気にしてないよ。俺の力を感じられなかったのは、この魔神シバの呪いが影響しているのかもしれん。俺の全能力を抑え込む力があるようだからな」
「暗いマグマの中で1億年も眠っていたなんて……。お辛い……。本当に……。本当に……。うう……。申し訳ありませんでした……。うう……」
やれやれ。
本当に直ぐ泣く奴だな。
「クッキーでも食えよ」
「はい……。ハグハグ……エヘヘ。
まぁ、彼女に取っては1億年だが、俺に取っては数時間の話だからな。
「地上は随分と変わってしまったな。マグマは森になっているし、魔神軍の残党がいる。ナベベってオーク知っているか? 魔族の癖に俺のことを知らなかったんだぞ」
「ナベベは私の部下です。まさかオーク軍を壊滅させたのがゼクス様だったとは思いもよりませんでした」
オークが部下だと?
彼女が魔王をやっていることといい。わからんことだらけだ。
「なぜ、魔王になった? 魔神軍は滅びたはずだろ?」
「…………それが、残っていたのです」
言いにくそうに視線を逸らす。
随分と複雑そうだ。
「チェルルという
ヴィシュヌは俺が造ったが、
何千万と造っていたから、流石に把握はしてないな。
「いや。知らない。その女がどうかしたのか?」
「腹の中に子供を宿していたのです」
「?」
この世界は俺の世界。俺を起点に生命が誕生する仕組みなんだ。
「理解ができないと思いますが……。その……。女は腹の中に子を宿すことができるのです」
「突然変異か?」
「いえ……」
「じゃあどうやって妊娠したんだ?」
「その子供が、魔神シバの子だったのです」
やれやれ。
魔神の力で妊娠したのか。
「とんでもない展開だな」
「チェルルはシバと恋仲でした」
「追い討ちをかけるなよ。魔神と
「
母親も父である魔神シバも死んだ……。
「その子供は今どうしているんだ?」
ヴィシュヌは眉を寄せた。
「子供の名はグフター。この魔王城に封印されています」
やれやれだ。
新たな謎が浮上したぞ。
「お前は魔王グフターを名乗っていたな。深い事情がありそうだ」
彼女はコクンと頷いた。
「1億年前。魔神軍を壊滅させた私たちは、強大な魔力源を感知しました。調査をすると、チェルルとその子供は、地上に陸を創り、洞穴の中に家を造って住んでいました。魔神の子、グフターを見つけた時には既に10年が経っていました。その姿は女の子のような少年です」
「10歳の子供か……。どんな子だったんだ?」
「恐ろしい少年でした。美しく、華奢な体とは裏腹に、その力は強大です。手を軽く振るうだけで、数千の魔物を出現させてしまう。彼は父親譲りの魔力を持っていたのです。しかも、それだけではありません。わずかながら、全能力を持っていたのです」
「
「グフターの力で地上のマグマは陸地に変わりました。彼はそこを根城にして天界を攻める計画を練っていたのです。私たちはそんな彼と戦いました。そして、この魔王城に封印することができたのです」
封印……。
「倒せなかったんだな。それで、どうしてお前が彼の名を名乗っているんだ?」
彼女は立ち上がった。
「封印したグフターをお見せします。その方がわかりやすいでしょう」
俺はヴィシュヌの案内で魔王城の地下へとやって来た。
そこは大きな穴だった。
城の中央に位置しており、天井までは吹き抜け。
見下ろすと下の方が青く淡い光を放っていた。
「あれです。あれが魔神の子供。グフター」
彼女は穴の中心を指差した。
光は無数の鎖の形をしていた。
それが四方八方の壁から伸びており、一人の少年を縛る。
深く目を閉じて、眠っているようだ。
「封印の影響で歳を取らないのです」
長い髪。
綺麗な鼻。
整った目鼻立ち。
10歳の少年とはいえ、
「本当に……。女の子みたいな顔だな」
「見た目に騙されてはいけません。ほら、出ますよ」
出る?
「何がだ?」
グフターの髪が生き物のように動き始める。
すると、そこから黒い光の球が無数に出現した。
それは次第に大きくなり空に上がる。
その過程でドンドン膨らみ、形を成す。
獣のような奇声が城内に響いた。
「「「 ギィイイイイイイイイイッ!! 」」」
魔族だ。
グフターの髪から魔族が現れたんだ。
その群れは上へと飛んだ。
見上げると、そこは空へと出れるようだった。
「外に出たのか?」
「グフターに巻かれた鎖には、私の
なるほど。
「お前が魔族を管理しているわけだな」
「はい。
それにしても、グフターの体は生気に満ち溢れているな。
今にも目を覚まして動き出しそうだ。
「話せるのか?」
「意識はありません。彼は無意識で魔族を発生させているのです」
無意識とは凄まじい魔力だな。
「完全に封印はできないんだな?」
「申し訳ありません。私の力ではここまでが限界です」
「なーーに。よくやってくれたさ。お前のおかげでこの世界は明るい。魔族の世界は暗黒だからな。グフターが成人する前によくぞ封印してくれた」
ヴィシュヌは顔を赤らめた。
「うう……。嬉しい……。嬉しいーーーーー!!」
ガバッ!
「おいおい。抱きつくなよ」
「ゼクス様ゼクス様ゼクスたまぁあああああ」
まったく。
一見すると気丈に見える女なんだがな。どうにも泣き虫で困る。
頭を撫でてやると治るんだ。
「よしよし」
「ふみぃ〜〜。ゼクス様がいなくて寂しかった……うう……」
「お前はがんばったよ。ありがとうな」
「うう……。もっと撫でてください……。うう……」
「やれやれ。甘えただなぁ」
「だ、だってぇ……。1億年は長いですよ」
「ははは。すまんな」
「……な、なんなら、ここで……。だ、だ、だ……」
と、今度は顔を赤らめる。
「……抱いてください」
はい?
だ、抱く……。だと?
彼女は真っ赤な顔で俺のことを見つめていた。
自分からこんなことを言うのは初めてなのだろうか?
そういえば、アイゴットのゲーム内では夜のイベントとして、俺は率先してこいつをベッドに誘っていたっけ。
勿論、レーティング規制の影響で、夜のイベントは画面が暗くなるだけだったけどな。
こ、この世界はリアルだからな……。
抱くってことは、やっぱり……そういうことだろうな。
彼女は期待と不安が入り混じったような顔でチラチラとこちらの反応を窺っていた。
ゴクリ……。
「あ、あのなぁ……。い、今はグフターの話だろ」
「だ、だってぇ……。い、1億年も逢えなかったんですもの」
と、彼女は大きな胸を押しつける。
プニプニィ。
うう。柔らかい……。
それにいい匂い。
理性がぶっ飛びそうだ。
い、いかん、いかん。
今は魔王の話なんだ。
俺は下へと降りた。
「ゼクス様! 何をされるのですか?」
「平和にしなくちゃな」
この世界を魔族のいない理想郷にしてやろう。
グフターさえいなければ、ヴィシュヌが魔王を名乗る必要もない。
俺の手には光が宿る。
それは剣の形と成した。
神剣ゼクスキャリバー。
あの魔神シバさえもこの剣で倒した。
この世に存在するどんな物も切断することができる。
「これで斬ればこいつは消滅……」
と、振り上げた時である。
剣は消滅し、急激な眠気が俺を襲った。
な、なんでこんな時に?
この睡魔は全能力に関係するんだ。
そういえば残量を計算していなかったぞ。
表示はどうなっているんだ?
全能力 0/1h
しまった!
ゼクスキャリバーは消費が大きすぎたんだ。
「ダ、ダメだ……」
この眠気……。
耐えれない
「きゃああああッ! ゼクス様ぁああああ!!」
ポム……。
それは柔らかい感触。
おそらく、ヴィシュヌの胸に支えられたのだろう。
俺は眠りについた。
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