第13話 全能神、魔王の正体を知る


〜〜シンジ視点〜〜


 そこはただっ広い魔王の間。


 隆起させた床の上には玉座が一つ。

 

 そこに座っているのが魔王であろう。


 それは美しい少女だった。


 背は高いが、肌の色艶は十代と言っていい。

 同じ世代だからわかるんだ。


 青い髪はブルーサファイヤのように輝く。

 長いまつ毛は豊作の稲穂のように揺れていた。

 大きな胸とくびれた腰は、特に注目すべき部分だろうか。


 魔王は、黒いドレスに身を包み、玉座に座っていた。


「よくぞ、ここまで来たな。私は魔王グフター」


 可愛い声で言われても、まったく脅威は感じられんな。

 

 とりあえず、聞きたいことがあるからな。

 正体は明かそうか。


「俺は全能神ゼクスアラード」


「ほぉ。ゼクスアラードだと? 冗談もほどほどにしろ」


「嘘なんかつかないよ。今日は、お前に話があって来たんだから」


「ゼクスアラードは1億年前に死んだ」


 魔王グフターは右手を薙ぎ払い、凄まじい風圧を発生させた。

 さっき海城たちをデッド判定に追いやった技だ。


 先ほどより威力を増やしているようだが、それでも緩いな。

 そんな攻撃では俺を後ろに下がらすことすらできんさ。


 俺は虫でも払うように風圧を消滅させた。


「何!? 魔王の威圧を消滅させるだと!?」


「そんな攻撃は無意味だって。俺は全能神なんだからさ」


「くっ! まだ言うか! 龍の斬撃!!」


 今度は龍を模した衝撃波だった。


 やれやれ。

 効かんというのに。


 サッと手を上げると、そこを境に衝撃波は俺を通り過ぎた。


「な、何!? ダメージすら与えられない!?」


「無駄だ」


「くっ! ならばこれならどうだ!?」


 魔王は両手を天に掲げた。

 どうやら力を集約しているようだ。


「やめとけよ。どうせ効きはしない」


「ふはは……。その強がりもおしまいさ! この技は一国をも滅ぼすと言われている。魔王最強の技だ!」


「ほぉ。それはそれは」


「後悔するがいい! 邪龍暗黒滅亡波!!」



ドォオオオッ!!



 それは凄まじい破壊光線だった。


「おや?」


 この技。

 俺が使う 全破壊ゼクトラクションにそっくりだな。

 でも、威力は弱いか。


 やはり、これも同じように片手で受ける。




ドン!




 ふむ。

 やはり、大したことはない。


 どれ、少し本家の力を見せてやろうか。


「相手を滅ぼす必殺技ってのはこうやるんだよ」



  全破壊ゼクトラクション



ドォオオオオオオオオオオンッ!



 俺の手から発せられた巨大な破壊光線は魔王の美しい髪を揺らした。

 彼女の横には巨大な抉れができていて、それは魔王城を突き破り、遥かかなたまで続く。


 魔王は、 全破壊ゼクトラクションが作った巨大な道を見つめていた。

 その先には地平線が広がる。


「そ、そ、そんな……」


「な。わかっただろ?」


「こ、この技は……。 全破壊ゼクトラクション……」


 え?


「お前、この技を知っているのか?」


「まさか……。そんな……」


「そのまさかさ。俺は嘘はついてないよ」


「……し、しかし。全能神ゼクスアラードは1億年前に……」


「1億年間、マグマの中で眠っていた。昨日、目覚めたんだよ。だから、この世界が作られた経緯が知りたいんだ。明らかに俺が作った天界じゃないからな」


 地上には、魔族と魔法が存在していた。

 魔族は魔神シバの子供。魔法は魔神の力だ。


「魔神シバは俺が倒したはずだ。俺のいない1億年の間に何が起きた? 魔王なら知っているだろう」


「ほ、本当に……。全能神?」


「なんなら、 全能法オーリックを使ってこの城を一瞬で破壊しようか? さっきの技は手を抜いていたんだぞ?」


 グフターはプルプルと震えていた。

 どうも様子がおかしい。


 そのうち、涙を流し始めた。


「は? おい。なんで泣くんだよ? 俺は魔神シバが死んだあとの話を聞いているだけだ!」


「あーーーーーー!!」


 と、絶叫とともに抱きついてきたのは魔王である。


 おいおい。


「逢いたかった! ゼクス様ぁあ!!」


 え?


 大きな胸が俺の胸に密着する。


ぷにぃいいい〜〜。


 う!

 柔らかい……。


「お、お前誰だ?」


「お忘れですか!? 私の顔を?」


 美少女には違いないが……。

 こんな顔知らないぞ?


 あ、いや。

 こ、この目鼻立ち……。


 それにこの声。


 もしかして……。


「お前、ヴィシュヌか? 創造神、ヴィシュヌバール」


「はい! ゼクス様!」


 化粧でわからなかった。1億年前と違いすぎるんだ。

 女は化粧で変わるな……。

 この見慣れない黒いドレスも印象を変えたんだ。




「ゼクス様。ゼクス様。ゼクスたまぁああああああ!! 逢いたかったよぉおおお!! うえぇえええええええええええん!!」




 泣き虫なのも変わってないな。

 彼女、見た目は冷たい才女のような雰囲気なのだが、困ったらすぐに泣くんだ。


 しかし、そんな彼女に触ったのは初めてだ。

 以前はレーティング規制の関係で触れなかったからな。


 柔らかい……。それに、花の香りかな。いい匂いだ。


 ぷに……ぷに……。


 うう……良い。

 リアルな世界は最高だ。


 おっと、彼女の感触を堪能している場合ではなかったな。


 俺はヴィシュヌの頭を優しく撫でてやった。


「よしよし。落ち着けよ」


「ふみぃ〜〜。1億年ですよ! 1億年も逢えなかったのですよぉおお。ううう……」


「会えて嬉しいよヴィシュヌ。でも、どうして魔王なんかやっているんだ?」


 彼女は涙を拭いて笑った。


「エヘヘ……。それは長くなりそうです。お茶でも飲みながら、ゆっくり話しましょう」


 俺は客室に案内された。


 1つ目の巨人が紅茶とお菓子を持って来る。

 魔物を部下に使っているから当然なんだろうけど、なんとも異様な風景だな。


 ヴィシュヌは俺の対面に座った。

 目と目が合えばニコリと笑う。


 本当にリアルだ。

 以前の彼女はもっと予定調和な感じだったな。


 運営がプログラミングしたデータ。そう言っても過言ではない。

 なにせ、話すパターンが決まっていたからな。


 でも、今は本当にそこに存在するみたいな感じだ。

 サリィナの時にも感じたが、明らかにN P Cの反応ではない。

 生きている人。そのものだ。


「本当に、ご無事で何よりです」


 と彼女は優しく微笑んだ。

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