第12話 全能神の復讐

 俺たちは魔王城の門前に着陸した。


 そこには牛の顔をした巨人が、大斧を持ってこちらを睨んでいた。

 海城は汗を垂らす。


「シンジさん! あいつはS級の魔物! ミノタウロだ!! その力は強大! 大斧の一振りで嵐が起こり、一個師団を瞬時に壊滅させほどの攻撃力だ!」


「あ、そうなんだ」


「ここはみんで協力した方がいい! 俺の支援魔法で強化を図って──」



ドンッ!!



 俺がスッと上げた右手から破壊光線が発射された。

 

  全能法オーリック  全破壊ゼクトラクション


 ミノタウロの体は骨も残らず消滅した。


「すっげぇえええええ!! やっぱシンジさんは凄ぇえええぞ!!」


 別に大した敵ではない。


 僧侶の玲本は眉を寄せた。


「でも、魔王門って選ばれた勇者じゃないと開かないんじゃなかったっけ?」


「そうですよシンジさん! 勇者の剣を探しましょう!」


 面倒だな。

 強行突破だ。



ボム!



「開いたーー!! 選ばれた勇者じゃないと開かない扉が開いたわーーーー!!」


「シンジさん……。なんでもありだな」


 城内に入ると、S級の魔物がウジャウジャいた。


「ぎゃああああ!! 出たぁああ!! シンジさーーん!!」


 と走って来たのは海城である。


 やれやれ。



ドンッ!!



 俺は一瞬で魔物を消滅させるのだった。


 そんな調子であっという間に魔王の間へと到達した。


 この扉の向こうに魔王がいる。


 海城たちはすっかり安心しきっていた。


「ここに来るまで2時間もかかってないっスよ。本当に晩飯までには帰れちゃいますねアハハ」


 時間は問題ないが、こいつらが俺を慕いしきっているな。

 

「見て見てシンジさん。あたしらはこんなにレアアイテムを手に入れちゃいましたよ。エヘヘ」


 玲本、嬉しそうだな。


「シンジさん。僕はレア武器を手に入れてしまいましたよ」


 郷田は目上の人間に対しては、一人称が僕になるタイプなんだな。


 2人とも、随分と浮かれているけれど。

 俺は、こいつらから受けた虐めを忘れたわけじゃないんだぞ。


 あれは俺が普通に登校した日だった……。


 上履きがぐっしょりと濡れていたんだ。


「ふふふ」


 その笑い声で後ろを振り返った。


 玲本がジョーロを持って笑っていたのだ。


「下駄箱の中が雨だったのかもね。ふふふ」


 

 それは、数学の日だった。

 忘れ物を嫌う先生の授業。

 クラスメイトみんなが厳重に注意された翌日のことだ。


 郷田は数学の教科書を忘れたんだ。


「教科書貸せよ。小田」


「そ、それはできないよ」


 郷田に教科書を貸せば俺が先生に怒られる。

 隣の席の人間に見せてもらうことになるが、凄く嫌な顔をされるんだ。

 だから絶対に教科書は貸せない。

 にも関わらず、郷田は俺の襟首を掴み上げて、


「貸せよ」


 と、言った。

 その日、俺が受けた数学の授業は散々だった。

 先生に怒られ、隣りの席の子には嫌な顔をされた。



 他にも様々。


 玲本と郷田が俺にした仕打ちはあった。

 思い出すだけでも怒りが込み上げてくる。


 だから、このままハッピーエンド。

 なんてことにはならないからな。

 覚えておけよ。


 そのチャンスは直ぐに到来した。


 魔王の扉を開けた時である。


 凄まじい風圧が俺たちを襲ったのである。


 それは魔王の攻撃なのだろうか。

 俺は目を細める程度であったが、海城たちは吹っ飛ばされた。


「ぬぐぁああああッ!!」

「きゃあああああッ!!」

「うぁあああああッ!!」


 俺の力ならば、即座に3人を庇い、再生リカバーによって復活させることが可能だろう。

 しかし、最高のタイミングなのだ。


 俺も一緒に殺られたことにしておこう。


 海城たち3人は壁に打ち付けられ、Deadの表示が現れた。

 アナウンスが流れる。



『即死ダメージを受けましたので、強制ログアウトを執行します』



 3人はその場から消えた。


 どうせ再びログインしてくるだろうが、今まで貯め込んだ金もレアアイテムも全て失ったことになる。

 その労力が、どれくらいの時間かは計り知れないが、俺が受けた虐めの返済としておこう。


 さて、魔王はどんな奴なんだ?



「ほぉ……。魔王の威圧を受けても後ろに下がることもないのか……。貴様一体何者だ?」



 それは女の声だった。






◇◇◇◇


〜〜海城視点〜〜


 ここは、はじまりの塔。


 俺は再びログインした。

 デッド判定を受けた者は、この塔からのリスタートになるんだ。

 このゲーム初心者もこの塔から始まるから、この場所はプレイヤーでごった返す。


 この、デッド判定を受けて直ぐにログインすることを、世間ではリログ勢と呼んでいた。


 郷田も玲本もリログインしているようだ。

 3人ともにリログ勢になってしまった。


 リログ勢は直ぐにわかる。

 なにせ、このゲームの経験者だからな。

 キョロキョロしてないんだ。どこに行って何をするかもすでに頭の中にある。

 中には、全てのアイテムを失って、絶望している者もいた。

 デッド判定を受けた者は、レベル以外、全て失う。アイテムも金も全てゼロになる仕様だ。

 だから、リログに打ちひしがれてしまう。


 ここにも1人。


 玲本は、俺の顔を見るなりその場にしゃがみ込んだ。


「私のレアアイテムがぁあああああ。うわぁああああん!」


「な、泣くなって。俺だって全て失ったんだからな」


「300時間も費やしたんだかぁああああああ!!」


 気持ちはわかる。

 全ての努力が水の泡だ。


 郷田も落ち込んでいた。


「貯め込んでいた金がゼロになってしまったな……」


 3人とも全てを失った。

 残っているのはレベルだけだ。


 郷田は辺りを見渡した。


「そういえばシンジさんが見えないな?」


 確かに、あの攻撃を受けては流石のシンジさんもデッド判定を受けているだろう。きっと、リログ勢になっているはずだ。


「みんなで探そうぜ」


 俺たちはシンジさんを探した。


 俺たちの希望はシンジさんが仲間になっていることだけだ!


「シンジさーーん! 俺たちはここでーーす!」

「シンジさーーん! あたしを慰めてくださーーい!」

「シンジさーーん! 僕らはここでーーす!!」




────


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