第10話 全能神、正体を明かす

 俺と魔法剣士カイのパーティーは空を飛んで魔王城へと向かっていた。


 カイの正体は、学校で俺を虐めていた海城 魁斗だ。


 俺は、英雄になりたい、などというチンケな目的を建前にして、カイに魔王城までの道案内をさせていた。

 俺が魔王に会いたいのは、この世界の構築理由を知りたいからだ。

 きっと魔王ならば何かを知っているだろう。


 それで、今は空を飛んでいるわけだけれど。

 

 きっと、海城は俺のことを疑っているだろうな。

 なにせ、俺が偽装しているのはレベル15の賢者だ。それにしては強すぎるからな。


 だったら隠すのは時間の無駄だ。

 もう何もかもさらけ出してしまおう。

 

 全ての力を海城に見せる。


「あれが魔王山だ。あそこを越えれば魔王城だ。麓で着地してくれ」

 

 と、海城が指差した先には大きな山があった。

 壁のように聳え立つ。


 迂回するのは面倒だ。


「飛んで越えた方が楽だよな」


「無理だ! 着地しろ! デッド判定を受けるぞ! 死んでしまう!!」


 死ぬ?

 どういう意味だろう?


 そういえば、山の表面は黒いオーラに包まれているな。


 俺は魔王山の麓に着地した。


 海城は俺を睨みつけた。


「お前、一体、何者なんだ? 飛行の上級魔法が使えるレベル15の賢者なんて聞いたことがないぞ?」


「ま、良いじゃないか。そんなことより、なぜ空から行けないんだ?」


 と聞いた瞬間である。


 ボトン!


 と落ちて来たのは大きな鳥だった。


 カラス?

 いや、焼け焦げているのか。

 湯気まで出ている……。


「強力な結界がしてある。結界を解かずに中に入れば雷を受けて丸焦げさ。その鳥みたいにな」


「ほぉ……。それで、その結界を解く方法は?」


「この付近に点在する3つの祠から封印を解く紋章を手に入れるんだ」


 めんどくさいな。


「時間がかかりそうだな。でも、持っているんだろ? カイは魔王城まで行ったわけだしさ」


「いや……。お、俺たちが来たのはここまでだ。この周辺には強敵がウジャウジャいるからな」


「なんだ。魔王城まで行ったってのは嘘か」


「こ、この山を越えれば魔王城だ! 嘘じゃねぇ!」


 やれやれ。魔王城の手前まで行ったと言っていたくせに。

 虚言癖のある海城らしい。


 この山に入ろうとすれば雷を受けるのか……。


「ふむ。紋章を探すのはめんどうだからな」


 と歩き出した。


「は? 死ぬ気かよ!? そっちは封印があるんだって!」


 刹那。



バリバリバリバリーーーーーーッ!!



 俺の体を電気が包み込む。


「ああ。本当だな。封印してある」


 ま、こんな電気じゃ俺にダメージは通らないが。


「だから言ったのに、このバカが!」


「バカってのは無能な人間に使う言葉なんだよ」


 その瞬間。



「おりゃ」



 俺は封印を粉砕した。


「はぁああああ!? こ、こいつ、封印を解きやがった!!」


 詳しくは破壊したんだがな。


「さ、荷台に乗ってくれ飛んだ方が早い」


「ま、待て待て! お前、一体何者なんだ!? その力はおかしいだろうがよ!! このチート野郎がぁ!」


「……チートってのは聞き捨てならないな」


 この力はアイゴットで1500時間プレイして得たモノだからな。


「チートだろうがよ!! 空を飛んで魔王城に行くなんて前代未聞だぜ! それにそのパワー! どう考えたってチートだ!!」


「そう喚くなって」


「この野郎。澄ました顔しやがって! もうお前は終わりなんだよ!」


「どういう意味だ?」


「へへへ……。さっき、ゴォスとレレイーラに通報してもらったからな」

 

「通報?」


「運営に向けてさ。貴様はデータを弄ってんだろうがよ。それを運営に報告したんだよ」


「ほぉ……。そんなことは1ミリもしていないが?」


「嘘つくんじゃねぇよ。そんな力がこのゲームに存在するわけがないだろうがよ」


 まぁ、存在してしまっているんだよな。


ピローーン!


 と受信の音がなる。


「メールが来たぞ!」

「私の方にも来たわ!」


 海城はニヤリと笑った。


「へへへ……。終わったなシンジ」


 やれやれ。

 ここまで大っぴらに力を見せておいて、対策しないわけがないだろう。


「あれ? エロサイトに登録されているぞ!?」

「私もよ!! 出会い系のサイトになってるわ!!」


 念の為、運営への対策は取らせてもらった。

 しかも、お前らの正体もわかったぞ。


 戦士ゴォスは郷田。

 僧侶レレイーラは玲本だ。


 こいつらも、海城同様。アカウントのメールアドレスで判明した。


 お前らから受けた虐め。忘れたわけじゃないからな。


 海城は顔をしかめた。


「お、お前……。運営の送信先を弄ったのか?」


「そうだ。お前たちの愚行を止めるためだ」


「愚行だと!? どういう意味だ?」


「俺の存在は運営の意志だからだ」


「お前を運営が認めている? そんなバカな!」


 俺は思い出していた。

 あの警告文を……。




『意識が現実世界に戻らないことがあります』


『ログインしますか?』



《 YES 》 or 《 NO 》




 これはこうなることがわかっていたんだ。

 つまり、前作の神が次作に降臨するということ。


 そうなれば、神の力を使うのは必須。

 初めはモニタリングを疑った。

 だが、それはおそらく違う。

 俺に、五感があり、レーティングの規制がぶっ壊れいているからだ。

 それにサリィナの存在。彼女は正真正銘の人間だ。

 そこに存在し、自我がある。

 

 つまり、ゲームプログラムが独自に進化して、現実とは違うもう一つの世界が形成されているということだ。

 

 これがバグなのか、神の意志なのかは不明だがな。

 運営も知らない事象が起こっているのは間違いないだろう。


 この真意。俺自身で見つけたい。

 だから、それを邪魔される行為は絶対に避けたいんだ。

 

「お、お前は一体、何者なんだ!?」


 海城たちにはログインやログアウトが存在し、ゲームとして成立している。

 俺はもう一つの世界に存在し、彼らはゲームの中に存在する。


 面白い現象だな。



「答えろ! お前は何者だ!?」



 そろそろ、正体を明かそうか。






「俺は神。全能神、ゼクスアラードだ」



──────


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