第9話 全能神、運営に通報される

 俺は即座にログインした。


 そこは、始まりの塔。


 このゲームを初めてやるプレイヤーと、デッドを食らってリスタートのプレイヤーが入り混じる。


 俺はリスタート組。

 だからレベル33。そのままだ。


 しかし……クソ!


 ステータス画面に表示させるアイテム欄はゼロ。所持金もない。


 こんなクソゲームはやめてやってもいい。だが、いかんせん面白い。


 今、世界でもっとも注目度の高いゲームと言っていいだろう。


 アイゴットの続編。

 前作から1億年後の世界が舞台。


 それがアイゴットアフター。


 日本での初期売り上げ本数は200万本。

 世界の総プレイ人口は5千万人を超えると言われている。

 

 発売日なんかはニュースで言っていた。「ドラクエ以来の大ヒット!」と。

 昭和の時代では学校を休んでゲームを買う人間が続出したらしい。

 ま、令和生まれの俺にとっちゃピンとこないがな。

 

 今のご時世、このゲームを買うのにそこまではないが、発売日には、プレイするのに学校や会社を休む人間が続出した。


 俺もその口だ。学校を一週間も休んでやり込んだ。

 そうしてゲットしたのが、今の地位。

 やり込み時間は200時間を越える。

 王都ロントモアーズにその魔法剣士あり、と噂されるほどになったんだ。


 そんな俺を一撃で葬りやがった。


 あのシンジって賢者、一体何者だ?


 レベル15がレベル33の俺様に勝てるわけねぇぜ。


 俺の鑑定眼では、奴のステータスは間違いなくレベル12の数値だった。

 

 しかもスーパーレアアイテムを使って、俺の攻撃力は5200にもなっていたんだ。

 奴は強い魔法やスキルだって持っていなかった。

 それなのに圧倒的な力がある。


 そうなると、チーターか?


 あの野郎、データを弄ってやがるのかな?


 このゲームはチートを防ぐ為にあらゆる防止策が取られている。万が一にも、そんなプレイヤーを見つけたら運営に報告なんだ。ククク見てろよ。


 チートが怪しいって運営に報告してやる!


 データ改竄は最悪、刑事事件だぜ。


 俺はお前を許さねぇからな!!





〜〜シンジ視点〜〜


 俺は海城に腕相撲で勝つことができた。

 ギルドの酒場は沸いていた。


「すげぇ賢者が現れやがったぜ! あの魔法剣士カイを倒しやがった!」

「どうなってんだ!? 固有スキルか!?」

「信じられないわ。こんな奇跡ありえるの?」


 海城はこのゲームに固執している。

 必ず再ログインするはずだ。

 

 俺は腕相撲に勝った。

 これで奴のパーティーに入れてもらう約束だが、このまま素直に言うことを聞いてくれるだろうか?


 奴のことだから、きっと恨んでいるに違いない。何か復讐の策を練るはずだ。


 考えつくのは、データ改竄だな。

 さしずめ、俺のことをチーターとでも思っているのだろう。

 そうなると、運営に通報するだろうな。


 俺は目の前に海城のデータを出した。


 一度解析したデータは保存ができるんだ。奴のメール画面に侵入してどこまでできるかみてやろう。


「奴のメール送信先は運営に固定されているな」


 この固定された運営のアドレスを 表面変化サーフィスを使って違うモノに書き換えよう。


 こうしておけば通報はできないはずだ。


 俺が全能神としてアイゴットアフターに侵入しているのは、完全に運営側の落ちどだ。俺のことが運営に発覚しても何もお咎めはないだろう。俺に取って、そんなことはどうでもいい。

 対策を取られて、この状況を無くされるのが困るんだ。

 なんとしても死守しなければならない。


 やはり、全能神という身分は隠して、目立たないようにするのがベストだろうな。

 





〜〜カイ視点〜〜


ピローーン!


 来た!

 運営からの返事が来やがった!!


 ククク。

 終わったなシンジ。お前はこのゲームから追放されるんだよぉ!


 俺はメールを開いた。


『ご登録ありがとうございます。退会する場合は違約金として30万円を支払っていただきます』


 はい?

 と、登録だと??


 メールにはピンク色の文字でデカデカとこう書かれていた。



『ギブミーガールへようこそ!』



「なんじゃこりゃあ?」


 エロサイトじゃねぇか!

 どうしてこんな所から返信が来るんだ?


 そもそも、アイゴットアフターからネット接続は不可能なのに??


 と、送信先を見ると、そのアドレスはgive me girl となっていた。


「どうして!? 運営のアドレスが書き換えられてんだぁ!?」


 クソ!

 タップしても反応しねぇ!!

 送信先が変更できねぇ!!

 

 クソクソ!

 なぜだぁーー!?


『退会する場合は違約金として30万円を支払っていただきます』


 そもそも、俺はこんなサイトに登録してないんだ!

 絶対に30万なんか払わないぞ!


 で、でも払わなかった場合は親にバレるのだろうか?


 うう、それだけは絶対に避けたい!

 こんなことがバレたら、怒られて来月の小遣いがなくなってしまうぞ!


 どうしたらいいんだ?


 と、とりあえずギルドの酒場に戻って仲間に聞いてみよう。


 俺は転移の魔法を発動させた。

 この魔法は転移魔法陣のある場所ならどこでも行くことができるのだ。


ーーギルドの酒場ーー


「おっ! 魔法剣士のカイが戻って来たぞ!」


 と、酒場の連中は噂した。


 今はお前たちを相手にしてる場合じゃないんだ!


 俺は2人の仲間の元へと駆け寄った。


 1人は戦士ゴォス。

 大きな男で大斧を武器としている。


「おお。戻って来たのかカイ」


「まぁな」


 もう1人は僧侶のレレイーラ。

 鋭い目をした女だ。


「レアアイテム無くなっちゃったね」


「仕方ないさ。また探すしかない」


 この2人は学校の友達だ。

 だから、正体がわかっている。


 ゴォスは郷田。

 レレイーラは玲本だ。


 エロサイトの話は、玲本に聞かれたくない。俺はこっそりと郷田に聞いた。


「なぁ、郷田。エロサイトから請求とか来たことあるか?」


「どうしたんだよ急に? ここはアイゴットアフターだぞ?」


「俺の友達から相談を受けてよ。そいつがエロサイトから30万の請求が来て困ってんだよ。これって払わないと捕まるのかな?」


「ハハハ。バカな友達だな」


「俺はバカじゃねぇ! あ、いや……。と、友達はバカじゃねぇ! 不慮の事故だ!! 払わないと警察が来るのか!?」


「そんなの払わなくても良いよ。違法サイトなんだからな」


「お、親に知られたりしないよな?」


「ははは。そんなのないって」


「ほ、本当だな?」


「ああ、心配すんなよ」


 よ、よし。

 なんとか安心していいみたいだな。


「それって本当に友達か?」


「うるせぇな! と、とにかくその言葉を信じてメールは無視するように言っておくよ」


「そんなことより。あいつをどうすんだ?」


 ゴォスの視線の先には賢者のシンジがいた。


 チッ! あの野郎。


「お前、よくもやってくれたな! おかげで全てを失った」


「勝負だから仕方ないだろ」


「ぐっ……!」


 俺に勝った理由を聞きたい。

 俺のステータスは奴を完全に上回っていたんだ。

 しかし、下手を打つと、俺が鑑定眼でステータスを比べて、確実に勝てる腕相撲を仕掛けたことが周囲にバレてしまう。

 

 不本意だが、あまり突っ込まずにいくか。


「俺は仲間になったよな?」


「んぐ! し、仕方ないな! 約束だからな!」


「よし。じゃあ早速、魔王に会いに行こう」


「なぬ!? い、今からか?」


「ああ。早く会いたいんだ」


「理由を言え!」


 シンジはしばらく考えてから、


「……魔王を倒せば英雄になれるじゃないか」


 と答えた。


 この野郎、なんの信念も感じられん! 近くにお使いに行くみたいな感じで答えやがって!

 英雄になりたいなんてとんでもない。


 絶対にそんなことはさせるもんか!

 魔王を倒して英雄になるのはこの俺だ!!


 

 俺は馬車を用意した。


 これはゴォスが所有していた物だ。

 俺の所持品だったら今頃、デッドと共に消滅してるぜ。


「これに乗って行く」


「転移魔法は使えないのか?」


「魔王城にそんな便利なもんが使えるかよ」


「そうか……」


 と、シンジは女に話しかけた。

 どうやら別れの挨拶らしい。


「サリィナ、夕方には帰るからさ。心配しないでよ」


 なぬ!?

 ふざけんなよ!


「そんなに早く帰れるもんか! 魔王城までは遠いんだ! 1週間以上はかかんだよ」


「そんな悠長な時間は過ごせないさ。孤児院には子供たちが待ってるしな」


「孤児院のガキなんかどうだっていいだろうが!」


 シンジはサリィナと呼ばれる女に対してニコリと微笑んだ。


「とにかく夕食までには帰るからさ」


「わかりました。美味しいもの作って待ってます。気をつけてくださいね」


 どういう訳か、シンジは俺たちを馬車の荷台に乗るように指示を出した。

 

「お前が御者になんのかよ? 下っ端としては良い心掛けだ。魔王城はあの二つ見える月の方向にあるからな。あの月に向かって馬車を走らせろ」


「なるほどあっちだな」


 と言って、馬車に繋がれていた馬の紐を外して女に渡した。


「おいおい! 何やってんだよ!?」


「サリィナ。この馬預かっといてくれ」


「は、はい……。別に構いませんが。どうやって旅をするんです?」


 シンジはニコリと微笑むと、荷台を軽々と持ち上げた。


「な、な、なんちゅうバカ力!」


「じゃあ、必ず帰るから」


 と言ったかと思うと、俺たちの荷台を二つ見える月の方向へとぶん投げた。



ブゥウウウウウウウウウン!!



「何ィイイイイイイイイイイイイ!?」


「空を飛んで行った方が早いだろ?」


 荷台の横には、奴が空を飛んでいた。


 飛行は上級魔法だ。

 取得者は世界でも数人。

 レベル40を超えた人間だけが使えるんだぞ?


 そ、それをレベル15の賢者が使うだとぉ?


 本当に何者なんだこいつ!?

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