第8話 全能神、カイの正体を知る



〜〜シンジ視点〜〜


 俺と魔法剣士のカイは腕相撲をすることになった。

 テーブルが用意され、俺と、カイがテーブルを挟んで対面する。


「おいおい! あの賢者、本気だぞ!?」

「流石にカイには勝てないわよ」

「でもよ。タンザットをやった力は相当だったぜ。もしかがあるかもよ?」

「まさかぁ。そんな偶然は2度とないでしょ。レベル15の賢者にそれほどの力はないわよ」


 サリィナは汗を流した。


「あ、あの……。エエトさん。流石に今回の相手は分が悪いのでは?」


「ああ、大丈夫」


 俺が笑っていると、カイもニヤリと笑った。


「その減らず口を叩けないようにしてやるよ」


 カイの仲間の男が号令をかける。


「レディ……ゴォーー!!」


 と同時。

 カイはニヤリと笑って叫んだ。



「おりゃあッ!」



 随分と自信がありそうだ。

 でもなぁ。


 俺とこいつとじゃレベルが違いすぎるんだよな。


 奴の顔はすぐに真っ赤になった。


「フグググググググ……ッ!! ど、どうして……!?」


 組んだ腕は1ミリも動かなかったのだ。


 まぁ、こうなることはわかっていた。


「この野郎……! う、動かねぇえッ!」


 それにしても、こいつの喋り方……。

 あの海城にそっくりだ。


 俺を率先して虐めていたクラスメイト。


 海城 魁斗。


 ん?

 カイ……。魁斗……?


 まさかな。


 俺は奴のアカウント情報を解析した。

 すると、登録メールがkaito kaijou @となっていた。


 こいつ!

 海城なのか?


 登録年齢は俺と同じ15歳。


 ご丁寧に、フレンド登録で公開されているプロフィール蘭には「高一っす」という挨拶と共にツイッターのアドレスが載っていた。


 このツイッターは見たことがある。

 匿名でやっているが、クラスの中では有名なんだ。

 ゲームの攻略とアニメのことしか呟かないツイッター。


 間違いない!

 この魔法剣士カイは、俺を虐めていた海城 魁斗だ!


 思い出すのも辛い。

 こいつから受けた虐めの数々。




 借りパクされた漫画は数知れず。

 ゲームだって奪われた。

 教科書にエロい落書きをされたこと。

 ただ廊下を歩いているだけで、後ろから蹴られたことだってある。俺が振り返ると、奴は爆笑していたっけ。



 忘れられない。虐めの数々。


「ぐぬぬぬぅうううう!! 動けぇええええええ!!」


 手を抜こうと考えていた……。


 なにせ、即死ダメージは強制ログアウトのデッドだ。

 デッドを受けたプレイヤーは、これまで集めたアイテムもお金も全て失う。


 ゲーマーとして、こんなに辛いペナルティはないだろう。

 

 だから、できるだけ力は弱めてやろうと思っていた。


 だが、お前が海城ならば話は変わってくるんだ。

 さぁて、どう料理してくれようかぁ?


 



〜〜カイ視点〜〜


 この野郎ぉおお!

 どうして動かないんだよぉおお!?


 俺はこんなに力を込めてんのに、奴は涼しい顔をしてやがる!

 

 俺の攻撃力は520。奴の攻撃力は、たったの70だってのによぉお!


 どうして腕が動かないんだぁ!?


「ぐぬぅうううううう!!」


 よぉし、こうなったら奥の手だ。


 こんなこと、反則だが使ってやるぜ。へへへ。


 俺は使っていない左手を懐に忍ばせた。

 そこに入っていた小さな石を握りしめる。


 ククク。

 力の紋章。


 スーパーレアアイテムだ。

 握りしめると一定時間、力を10倍にすることができる。

 フハハ! 10倍だぞ10倍!!


 確実に反則だが、バレなきゃいいんだよ!


 俺の攻撃力は5200にもなるんだ!!


 力が漲って来たぜぇえええッ!!





「フハハーー!! 死ねシンジィイイイイ!!」





 貴様はデッド送りだぁああああ!!


 全て失えぇええええええええええええ!!








「ん? なんの話しだ?」








 はいいいいいいいいい!?

 どうして動かないぃいいいいい!?


 クソがぁあああああ!

 どうなってやがるぅううううう!!


 腕が全く動かねぇえええッ!!


 そうか!

 わかったぞ!!


「さては貴様。左手に力の紋章を持っているだろう!? それで力を倍化しているんだ!!」


「え? そんなの持ってないぞ?」


 と、左手を見せる。


 持ってねぇのかよぉおおおおおおおおお!!


 どうしてこんなに強いんだぁあああ!?


「お、お、お前……。本当にレベル12かよ?」


「え? 見たんじゃないのか? お前の鑑定眼のスキルでさ」


 なんで知ってんだぁあああああああああ!?

 仲間しか知らない俺のスキルぉおおおおお!?


 こいつ一体、何者だぁああああああ!?



「さて、そろそろ決着をつけようかな」


「は!?」


 

 こ、こいつ……。

 あ、遊んでいたのか?


「ま、待て! わかった! 仲間に入れてやる!!」


 苦肉の策だがこれしかない。

 こいつのパワーが未知数すぎる!


「それはないだろ。条件は腕相撲で勝つことなんだからさ」


「て、手を離せ! もう終わりだぁ!!」


「そうはいかない……」


「くっ! この野郎ぉお! ぶっ殺されてぇええのか!?」


「さぁて、どっちが死ぬかな?」


 この野郎、舐めやがって!

 右腕を叩き斬ってやる!!


 俺は左手で剣を握った。

 斬りかかったその時である。




「後悔しやが────」




 俺の体は宙に浮いていた。


 シンジのパワーが俺を浮かしたのだ。


 凄まじい力だ。


 こんな力で床に叩き付けられたら……。







ボコァアアアッ!!






 床が破壊される音が耳をつんざく。

 俺の視界は真っ暗になった。


 次に聞こえて来たのは警告音。


 懐かしい音だ。

 初めて聞いたのは俺がレベル5になった時。


 ダンジョンでレアな武器を手に入れた時だったな。

 ダンジョンボスの一撃を喰らったタイミング。


 そうだ……。



 これは……。



 デッドだ。



『強制ログアウトを執行します』





「はっ!」



 と、気がついた時には部屋のベッドで寝ていた。


 頭に被っているコンソールを取り外すと、即座に投げつけた。



「クソがぁぁああああああああ!!」



 スーパーレアのアイテムをゲットするのに200時間は費やしたんだぞぉおおおおおおおお!!

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