第6話 全能神、ギルドに行く

 俺は20人の幼女たちと一緒に寝ることにした。


 みんなが俺と寝ると言って聞かないのだ。


 よって、ベッドは巨大なものに作り替えた。

 勿論、全能力を使ってである。


 女児たちは、てててと走って来て、ぽふっと俺に抱きついた。


「ルル。お兄ちゃんのお嫁さんになりたい」

「ジジもーー!」

「ネネもよーー!!」

「あたしだってーー」


 純粋すぎて尊い。

 10年後にそれを言ってくれると本当に嬉しかったりするのだがな。良き良き。


 俺は、幼女たちのスベスベ、モチモチ肌に囲まれて、眠りにつくのだった。




 次の日。

 朝食を食べ終えた俺は、サリィナに連れられて街に行くことになった。


 彼女は馬車を操縦し、俺は横に乗った。


 街までは30分程度かかるらしい。


 飛んでいけば一瞬なのだがな。

 ま、ここは彼女に任せるとしよう。


「昨日、うるさかったでしょ。眠れました?」


 と、呆れた顔で言う。


「ああ。ぐっすりとね」


「本当に……。ごめんなさい。シンジさんに甘えてばかりです」


「いや。気にしてないよ」


「あの子たち。シンジさんみたいな優しい男性が初めてなんです」


 聞けば、幼女らは奴隷商人に売られるところを、サリィナの両親が引き取ったらしい。

 去年、両親に他界されたサリィナは、親の遺産を使って食い繋いでいたそうだ。

 そんな彼女は、まだ16歳。たった16年しか生きていないのに過酷な人生である。 


「あの……。動く人形の話なんですけど……」


 と、彼女は言いにくそうに聞いた。


「ああ。ゴーレムの話ね。便利だろ?」


「ほ、本当に大丈夫なんでしょうか?」


 全能力を使って動く土人形を作った。


  全能法オーリック  土人形ゴーレム


 基本スペックはサリィナのコピーだ。

 

 炊事洗濯家事全般。

 なんでもサリィナと同等で熟せるんだ。


「ゴーレムが幼女たちの世話をしてくれるからさ。気にせずに街を楽しんだらいいよ」


「……私。街を楽しむなんて……。考えたことなかったです」


 そりゃそうだろうな。

 20人も子供を抱えてたんじゃ、育児に追われてそれどころじゃない。


 街に入ると人間が大勢いた。


「ここがロントモアーズの城下街です。街は東西南北に4つの地区で分かれていまして、ほらあれ!」


 彼女は指差した先には大きな城があった。


「あそこがロントモアーズ城です」


 あそこに国王がいて、この国を統治しているわけか。


「ギルドなら総合ギルドがいいと思います。行きましょう」


 彼女は知り合いに馬車を預けた。

 俺たちは歩きながらギルドに向かう。


「ほぉ。いい匂いだな」


「露店で肉を焼いているんです。ジュルリ……」


「食べようよ」


「え? た、食べたいのですか?」


「ダメ?」


「……あ、いえ。か、買って来ます!」


 サリィナは店主に丸い物体を渡した。


 あれは銅貨だな。

 つまり、通貨。さっきサリィナに聞いたのだが、この世界ではコズンというらしい。


 アイゴットの世界観にお金は存在しない。

 なにせ、俺の創った天界では善意だけでなりたっていたからな。

 天界の住人である 神人アランデスは俺が創ったから、全員の価値観が同じなのは当然なんだ。

  

「どうぞ」


「あれ? サリィナの分は?」


「わ、私はお腹いっぱいなんです。えへへ。シンジさんだけで食べてください。ジュルリ……」


「そうか。ありがとう」


 それは4つの肉の塊が刺された串だった。

 俺は肉に被りついた。


 ジューシーな肉汁。

 甘辛いソース。少し香辛料が入っているんだな。

 ピリリと辛くていいな。


「うん! 美味い!!」


「そ、それは良かったです!」


 と、涎を垂らす。


 ……他者の為に我慢をするのか。

 サリィナは本当に優しい子だな。


「はい」


「え? な、なんですかこれ?」


「1つ食べたらお腹いっぱいになっちゃった。残りはあげるよ。お腹いっぱいなら捨ててくれてもいいからさ」


「そ、そんな! もったいないです! た、食べます! ハグハグ……。あはーーーー!!」


「美味しい?」


「ええ。それはもう、肉汁がジューシーでソースとのハーモニーが凄いです」


 ふむ。

 喜んでくれているようでなによりだ。


「それと、これ」


 そう言って、俺は彼女に銅貨を10枚渡した。


「な、なんですか、このお金は!?」


「さっき買ってもらったからさ。その代金だよ」


「も、もらいすぎです!! この肉は銅貨1枚ですよ!」


「ああ、うん。大丈夫。手間賃だから」


 コピーした。


  全能法オーリック  複製コピー


 目にした対象と同じ物を作る。


 小さな銅貨なら全能力の消費はそれほどではない。

 今の残量は950。

 1時間の間に全能力1000を使い切ると眠ってしまうからな。

 計画的に使わないとな。


 しばらく、街を歩いて楽しんだ。

 サリィナは大喜びである。



「ここが総合ギルドです」


 そこは大きな酒場だった。

 冒険者は酒を飲みながら冒険の計画を立てるらしい。


 彼女の話しでは、女子供が入る場所ではないそうだ。

 案の定、サリィナの顔は青ざめていた。


「どこかで遊んでいるかい? 俺はギルドで冒険者の登録をするつもりだ」


「ご、ご一緒します。私の方が街には詳しいですから」


「そうか。助かるよ。ありがとう」


 そう言うと、今度は顔を赤らめた。


「あ、いえ……。シンジさんのお力に少しでもなれれば、う、嬉しいんです」


 さて、入ろうか。


 中に入ると独特の臭いが鼻腔をついた。

 酒とタバコ、牛革の臭いが混じった、なんとも独特な臭いだ。


 リアルだなぁ。


「おい。見ろよ。めちゃくちゃ可愛い子だぜ」

「あんな美少女がこの街にいたのか?」

「ありゃ、サリィナじゃねぇか?」

「おいマジかよ。孤児院のサリィナじゃねーーか!」


 なんだかボソボソとうるさいな。


「ゲヘヘ……。サリィナちゃん。めちゃくちゃお洒落してんじゃねぇかよ」


 やれやれ。

 態度がよくないな。


 近づいて来たのは2メートルを超える大男だった。

 腰には重そうな斧をぶら下げている。

 凄まじい筋肉量だ。腕なんか、俺の3倍はあるだろうか。


「知り合いなの?」


「いえ……。知りません」


 彼女は知らないのに相手は知っているのか。

 サリィナは有名人なんだな。


「おいおい。連れねぇえな。戦士のタンザッド様だよぉお。お前の初めての男になるのは俺だっていつも宣言してんだろうがぁ〜〜」


「いや! 顔を近づけないでください」


「可愛い服なんか着やがってよぉ。大方、娼婦にでもなってこのギルドに客を取りに来たんじゃねぇのかよぉおお!!」


「そ、そんなことしません!」


「この野郎。連れない態度取りやがってたまんねぇな、おい!!」


「きゃあああッ!!」


 タンザットは彼女の細い腕を掴んだ。


「ゲヘヘェ。大方、親父の遺産が無くなってガキたちを養えなくなったんだろうがよぉおお!! 銀貨3枚で抱いてやるぅうう!! ギャハハハァアアア!!」


 と、自分の体に引き寄せようとした、その時。



「痛ででででででででででででッ!!」



 俺は奴の腕を掴んで、彼女から引き剥がした。


「な、何しやがんだこの野郎!!」


「それはこちらのセリフだ。汚い手でサリィナに触るんじゃない」


「な、なんだとこらぁあああ!! ヒョロヒョロのインゲン豆野郎がぁああ!!」



ボコォオッ!!



 と、酒場に打撃音が響くと、タンザットは10メートル吹っ飛んでいた。

 俺の裏拳が、奴の頬に決まったのだ。


 やれやれ。

 汚い顔を近づけるなと言ったのに。


「すげぇええ。タンザットをぶっ飛ばしたぞ?」

「あの男何者だ?」

「拳闘士には見えんが?」

「あんな細い体でどうやって??」


 場が騒然としている中、俺は何事もなかったかのようにサリィナに話しかけた。


「怪我はない?」


「あ、は、はい……大丈夫です。ありがとうございます」


 すると、警告音が鳴り響き、タンザットには【Dead】の表示が浮かび上がった。

 驚く間もなく、アナウンスが流れる。



『即死ダメージを受けたのでログアウトします』



 何!?

 どういうことだ!?


 次の瞬間。

 タンザットの姿は消えた。


「き、消えた!?」


 サリィナは汗を垂らす。


「魔王の仕業です。街の人間が瞬時に消える事件が相次いでいるんです。みんなは魔王の呪いだと噂しています」


 呪いなんかじゃない。

 間違いなくログアウト現象だ。


 絶対におかしいぞ。

 このアイゴットは1人用のゲームなんだ。

 プレイヤーは1人で全能神になり、神の世界を創って楽しむゲーム。

 それがログアウトだと?


 つまり、俺以外の他の誰かが、この世界にログインしていたことになる。


 そんなことはありえない。

 多人数プレイはアイゴットの続編、アイゴットアフターしかできないんだから……。


  全能法オーリック  解析アナリィシス


 俺はその場にいる全員の情報を可視化した。

 眼前にそのデータが羅列する。


 本来ならば、魔物のステータスを見るときに使う技なんだがな。

 どこまで解析できるかわからんが、限界まで情報を引き出してやる。


 すると、プレイヤーネーム欄があり、そこをタップすると、本人しか見ることのできないマイページ欄に入ることができた。


 そこには非公開の生年月日や性別、メールアカウントまで載っていた。


「思ったとおりだ……」


 運営が用意したN P Cに混じって、本当の人間がログインしている。


 つまり、この世界はアイゴットアフターなんだ!


 俺はアイゴットアフターの世界に全能神ゼクスアラードとして存在している……。

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